鉄キレート療法:MDS、再生不良性貧血
鉄キレート療法
2007年のアメリカ血液学会総会(ASH)でのDr Rossらの報告にもあるように、定期的な輸血を必要とする 骨髄異形成症候群(MDS) 患者では鉄キレート療法が生存率を改善すること明らかになってきています 1)2)3)4)。
昨年のASHではさらに、鉄過剰は白血化の独立したリスクであることがDr Sanzらによって報告されました 5)。
定期的に輸血を必要とする症例では今後積極的な鉄キレート療法が必要ですが、唯一と言っていい鉄キレート剤、deferasirox(商品名:exjade)を用いた鉄キレート療法には検討すべき課題も残されています。2009年3月7日、京都で開かれた日韓合同Iron Overload Case Study Forumでの内容を報告させていただきます。
韓国において、骨髄異形成症候群(MDS)/再生不良性貧血(AA) 1,128例を対象とした調査結果では、フェリチン値1,000 ng/ml以上の鉄過剰が1/3例存在し、その鉄過剰の1/3が臓器障害を合併していたことが報告されました(Seoul National UniversityのDr Yoon)。
The Catholic UniversityのDr.Leeからは、自身が昨年ASHで発表したEPIC study (輸血依存で鉄過剰を認める1,174例の貧血患者を対象として、deferasiroxの有効性と安全性を検討した大規模前向き試験)の内容が報告されました6)。
再生不良性貧血 116例を対象としたEPIC studyサブ解析結果では、治療前フェリチン中央値3254.0 ng/mL が、1年後中央値で964.0 ng/mL減少しました。deferasirox投与量の平均は17.6±4.8mg/kg/dayでした。
1)1日の鉄摂取量が0.20mg/kg/dayの場合(体重60kgの患者が1年間月2回の輸血をした場合にほぼ相当):deferasiroxの内服量が<20 mg/kg/dayで治療前3263.0 ng/mLであったフェリチン値が 970.0 ng/mL低下しています。
2)1日の鉄摂取量が0.29mg/kg/dayの場合:deferasiroxの内服量20〜<30 mg/kg/dayで治療前3238.0 ng/mLであったフェリチン値が 883.8 ng/mL低下しています。
MDS 176例を対象としたEPIC studyサブ解析では、IWG 2,000 criteria で8 例(5%)で造血の改善がみられ、HI-R 5例 (major 3; minor 2)、HI-P 1 例(major)、HI-N 1 例(major)、HI-N+P 1例とGettermann Nらによって報告されていましたが7)、再生不良性貧血例でも輸血が不要になった例が5例あったと報告しています。
副作用の多くは消化器症状、腎障害が25%です。
Cyclosporine (CsA:サイクロスポリン)を内服している例で腎機能の増悪が35.8%であり、CsAを内服していない例の14.3%に比べて有意に腎障害の頻度が高いことが報告されました(EPIC study全体で腎障害は10%)。このため、CsA内服例では通常量20mg/kgの半量10mg/kgから開始すべきであるとコメントしていました。
先のGettermann Nらの骨髄異形成症候群(MDS)を対象としたASHの報告では、治療後約半数で腎障害を認めており治療の完遂率は48.7%にすぎませんでした。
ほぼ同様の検討をしている平均年齢70歳の骨髄異形成症候群(MDS)を対象としたUS03 trialでも、176例中29例が治療前よりCrが施設基準値を超え、99/176例でCCr異常を認めています<軽度の異常(51-80 mL/min)が 71例、中等度の異常 (30-50 mL/min) 25例、重度の異常 (<30 mL/min)が 3例>8)。治療前Cr値が正常であった147例中29例、約20%で治療後施設基準値を超えています。
今後の検討課題としては、以下が考えられました。
1)骨髄異形成症候群/再生不良性貧血 患者のOSを改善するフェリチン値の目安、除鉄のスピードの検討。
2)CsA(サイクロスポリン)を併用していることが多い再生不良性貧血例や、特に高齢者の多くが、免疫抑制剤以外にも様々な薬剤を併用しているために、治療後臓器障害を認めやすい骨髄異形成症候群例など、疾患ごとの至適deferasirox投与方法の検討。
3)フェリチン値をモニターした鉄キレート療法の妥当性の検討。
4)一般臨床の場でのT2*、R2法によるMRI検査の導入の検討。
Chonnam National UniversityのDr Kimは、造血幹細胞移植における鉄キレート療法の重要性を講演されました。移植前鉄過剰と移植後感染症 9)10)、移植後肝障害 11)、GVHD 12)13)などについて概説されましたが、2007年のASHでも多くの報告がされたことが紹介されました14)15)16)17)。
東京大学の半下石先生からは、移植の予後を移植前のフェリチン値を600ng/ml以上と以下の2群に分けて検討したところ、600ng/ml以上のフェリチン高値群では低値群に比べて臓器障害感染症合併による非再発死亡が高いこと、再発率が高いことが報告されました 18)。
フェリチン高値の群では、PS、HCT-CIが不良なケースが多く、今後同様な前向きの検討が必要であると思われますが、移植予後を改善するためには、Armand Pらが移植後予後の目安として報告 19)したフェリチン2,000 ng/mlや一般的な鉄過剰の目安フェリチン1,000ng/mlよりもさらに低く設定する必要性があるかもしれないという点で非常に重要な報告であると思われました。
この他、東海大学の鬼塚先生から、特に骨髄線維化を伴う例では移植後鉄キレート療法によって造血が改善する例があるという興味深い報告がありました。
今後の検討課題としては、以下が考えられました。
1)移植前の鉄過剰とGVHD、非再発死亡などに関する前向きな検討。
2)移植後予後を改善するる移植前フェリチン値の検討。
3)移植後の鉄キレート療法の有用性の検討。
1.Ross C et al. Blood. 2007;110 (11). Abstract 249
2.Malcovati L et al. J Clin Oncol 2005;23:7594
3.Malcovati L et al. J Clin Oncol 2007;25:3503
4.Garcia-Manero G et al. Leukemia 2008;22:538
5.Sanz G et al. Blood. 2008;112 (11). Abstract 640
6.Min Y et al. Blood. 2008;112 (11). Abstract 439
7.Gettermann N et al. Blood. 2008;112 (11). Abstract 633
8.List A et al. Blood. 2008;112 (11). Abstract 634
9.Altes A et al. Ann Hematol. 2007; 86:443
10.Miceli MH et al.BMT.2006;37:857
11.Tomas JF et al.BMT.2000;26:649
12.Kambe RT et al. BBMT. 2006;12:506
13.Hjortsvang, E.W et al. BBMT. 2009;15: Abstract 106
14.Storey et al. Blood. 2007;110 (11). Abstract 1108
15.Mahindra et al. Blood. 2007;110 (11). Abstract 1109
16.Pullarkat et al. Blood. 2007;110 (11). Abstract 2981
17.Mahindra et al. Blood. 2007;110 (11). Abstract 1986
18.Kataoka K et al. BBMT. 2009;15: 195
19.Armand P et al. Blood. 2007;109: 4586
【関連記事】NETセミナー
ドナーリンパ球の威力 −ドナーリンパ球輸注(DLI)−
貧血患者へのアプローチ
血液内科に関する研修医からのQ&A
【シリーズ】溶血性貧血(PNH、AIHAほか) (8回シリーズ)
【シリーズ】造血幹細胞移植後の再発(4回シリーズ)
【シリーズ】造血幹細胞移植前処置としてのATG(6回シリーズ)
【リンク】金沢大学血液内科・呼吸器内科関連
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 06:41 | 血液疾患(汎血球減少、移植他) | コメント(0) | トラックバック(0)