ラミナエアフロー(LAF)の効果/アスペルギルス感染症の危険因子
ラミナエアフロー(laminar air flow: LAF)とHEPAフィルター より続く
Q:ラミナエアフロー(LAF)の効果について。
A:LAFは、同種造血幹細胞移植患者を中心に、免疫不全患者におけるアスペルギルス感染発症の予防効果が報告されています。
Barnes RA, Rogers TR. Control of an outbreak of nosocomial aspergillosis by laminar air-flow isolation. J Hosp Infect. 1989 Aug;14(2):89-94.
しかし、他の真菌感染症や細菌感染症、ウイルス感染症の予防に関するエビデンスには乏しいです。
アスペルギルス感染症予防効果の報告も、これまでのところ同種造血幹細胞移植患者に限定されています。
さらに、患者全員をLAFで管理しても生存率が向上しなかったことから、2009年に発表されたCDCやIDSAなどの合同ガイドラインでは、新しく移植センターを作る場合、LAFは必要ないと結論づけています。
Tomblyn M, Chiller T, Einsele H, Gress R, Sepkowitz K, Storek J, et al. Guidelines for preventing infectious complications among hematopoietic cell transplantation recipients: a global perspective. Biol Blood Marrow Transplant. 2009 Oct;15(10):1143-238.
一方、LAFで移植した患者の感染症死亡が有意に低下したという報告があり、アスペルギルス感染症のリスクが高い(下表)患者では、LAF室を考慮すべきと思われます。
Passweg JR, Rowlings PA, Atkinson KA, Barrett AJ, Gale RP, Gratwohl A, et al. Influence of protective isolation on outcome of allogeneic bone marrow transplantation for leukemia. Bone Marrow Transplant. 1998 Jun;21(12):1231-8.
アスペルギルス感染症の危険因子
・ 2週以上の好中球500以下
・ 3週以上のステロイド投与
・ 4週以上の免疫抑制薬投与
・ 造血幹細胞移植
・ 臓器移植
・ 移植片対宿主病
・ 低栄養
・ HIV感染
・ 病院の改築・改修工事
Horn DL, Fishman JA, Steinbach WJ, Anaissie EJ, Marr KA, Olyaei AJ, et al. Presentation of the PATH Alliance registry for prospective data collection and analysis of the epidemiology, therapy, and outcomes of invasive fungal infections. Diagn Microbiol Infect Dis. 2007 Dec;59(4):407-14.
ただし、2007年に発表された隔離予防策に関するガイドラインでも、LAFの適応は同種造血幹細胞移植患者に限られ、AMLの化学療法をLAFで行うべきとの指針はありません。
Siegel JD, Rhinehart E, Jackson M, Chiarello L. 2007 Guideline for Isolation Precautions: Preventing Transmission of Infectious Agents in Health Care Settings. Am J Infect Control. 2007 Dec;35(10 Suppl 2):S65-164.
自家造血幹細胞移植患者も、LAF使用は推奨されていません。
Dadd G, McMinn P, Monterosso L. Protective isolation in hemopoietic stem cell transplants: a review of the literature and single institution experience. J Pediatr Oncol Nurs. 2003 Nov-Dec;20(6):293-300.
以上から、AML患者が入院してきた際、LAFが無くても化学療法は可能と考えられます。
とは言え、LAFが空いていれば、積極的に使うべきです。
AML患者の多くがLAFを用いているため、検証は難しいですが、欧米と異なり高温多湿地域が多い日本では、LAFが有効に作用している可能性があります。
(続く)
病院工事とアスペルギルス感染症:HEPAフィルター&LAFの効果 へ
・血球貪食症候群(HPS)(8回シリーズ)
・溶血性貧血(PNH、AIHAほか) (8回シリーズ)
・造血幹細胞移植後の再発(4回シリーズ)
・造血幹細胞移植前処置としてのATG(6回シリーズ)
【リンク】金沢大学血液内科・呼吸器内科関連
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:00| 血液疾患(汎血球減少、移植他)