金沢大学・血液内科・呼吸器内科
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2010年08月15日

腎障害と抗がん剤治療

 

腎障害のある場合の抗がん剤治療の考え方

がん患者は、高齢者であったり、臓器機能の低下から腎機能障害が起こりやすいです。

特に、腎排泄や腎毒性を有する薬剤は、腎機能に対する安全域が狭く、用量調整が必要な場合が多いです。

腎障害を有する患者さんに抗がん剤治療を行う際の、具体的なアプローチをまとめてみたいと思います。


まず、腎機能の評価と、腎前性・腎性・腎後性の鑑別を行います。

がん患者の場合、嘔吐や下痢、食欲不振などで脱水に陥っていることも多いです。腎前性腎障害とわかれば、抗がん剤投与前に十分補液し、腎機能の改善を目指します。

腎機能の評価法は多数ありますが、抗がん剤治療を受ける患者は、糸球体濾過量(glomerular filtration rate: GFR)及びクレアチニン-クリアランス(creatinin clearance: CCR)で評価します。

Launay-Vacher V, Chatelut E, Lichtman SM, Wildiers H, Steer C, Aapro M. Renal insufficiency in elderly cancer patients: International Society of Geriatric Oncology clinical practice recommendations. Ann Oncol. 2007 Aug;18(8):1314-21.

シスタチンC (cystatin C)で評価してもよいです。

GFRは糸球体で濾過される1分あたりの血液(血漿)量で、腎クリアランスと一致します。

体表面積(body surface area: BSA)1.73 m2で補正しますので、GFRはmL/min/1.73 m2であらわされます。

BSAの計算法(DuBois式)
BSA (m2) = 体重(kg)0.425 x 身長(cm)0.725 x 0.007184

正確にはイヌリンクリアランスなどでGFRを計算しますが、成人の場合、「日本腎臓学会 日本人のGFR推定式プロジェクト」が2008年に発表した推算式による推算GFRを用いて良いです。

推算GFR(日本腎臓学会 日本人のGFR推定式プロジェクト2008年)
男性:G
FR (mL/min/1.73 m2) = 194 x 血清クレアチニン値-1.094 x 年齢-0.287
女性:
GFR (mL/min/1.73 m2) = 男性計算式 x 0.739


シスタチンCは近位尿細管で全て再吸収されるため、GFRの評価には血清クレアチニン値より優れています。また、年齢や性別、筋量の影響を受けにくいという利点があります。シスタチンCからGFR値を推算しても良いです。

Hoek FJ, Kemperman FA, Krediet RT. A comparison between cystatin C, plasma creatinine and the Cockcroft and Gault formula for the estimation of glomerular filtration rate. Nephrol Dial Transplant. 2003 Oct;18(10):2024-31.

推算GFR(シスタチンCからの推算)
男女とも:
GFR (mL/min/1.73 m2) = -4.32 + 80.35/シスタチンC

慢性腎臓病(chronic kidney disease: CKD)重症度分類CKD重症度分類を利用し、GFR値から腎障害を評価します。

腎障害を有する患者に抗がん剤の用量調整を行う場合、通常はCCRを参考にします。血清クレアチニン値が正常でも、CCRが低下していることがありますので、抗がん剤使用前のCCRの計算は重要です。

CCRの正確な計算には24時間蓄尿が必要ですが、成人の場合、Cockcroft-Gault式による推算CCRを用いて良いです。

推算CCR(Cockcroft-Gault式)
男性:CCR (mL/min) = {(140-年齢) x 体重(kg)}/(72 x 血清クレアチニン値)
女性:CCR (mL/min) =男性計算式 x 0.85

ただし、CCRは腎障害を過小評価する可能性がありますので、腎障害の評価はCKD分類CKD重症度分類を用います。

特に、肥満や浮腫がある患者ではCCRの信頼性は低いです。18歳未満の患者や、筋量が極端に減少した患者の場合も、CCRで腎機能を評価するのは不適当です。

高齢のがん患者では、GFRやCCRから考えられるより実際は腎予備能が低く、抗がん剤治療後思いがけない腎障害が生じることがあります。

抗がん剤治療中の併用薬(特にアミノグリコシド系薬剤など腎毒性を有するもの)にも注意が必要です。

総合的には、ある程度臨床医の経験に頼らなければならない部分も多いです。

 

(続く)

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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:46| 血液疾患(汎血球減少、移植他)