金沢大学・血液内科・呼吸器内科
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2014年08月28日

悪性腫瘍(癌)と血栓症(9)VTEを予知するバイオマーカー

悪性腫瘍(癌)と血栓症(8)腫瘍由来MPより続く


悪性腫瘍(癌)と血栓症(9)VTEを予知するバイオマーカー

担癌状態にある全ての患者に対して抗凝固療法を行うことは、出血の副作用の問題がありデメリットも大きいです。

その点、担癌患者において静脈血栓塞栓症(VTE)を予知するバイオマーカーがあれば、効率の良い血栓予防対策が可能です。


血球数は全ての担癌患者で必ず定期的に行われています。

白血球数の上昇した癌患者では、VTE発症のリスクが2倍に高まるという報告があります。

Khorana AA, et al. Development and validation of a predictive model for chemotherapy-associated thrombosis. Blood. 2008; 111: 4902-7.

さらに詳細に検討しますと、初回の化学療法後に白血球数上昇が持続している場合のVTE発症率は3%、化学療法後に白血球数上昇が正常化した場合は1.7%、初めから白血球数が正常な場合は1.2%でした。

また、白血球分画の中では好中球や単球の増加は血栓症発症と関連していましたが、リンパ球は無関係でした。

Connolly GC, et al. Leukocytosis, thrombosis and early mortality in cancer patients initiating chemotherapy. Thromb Res. 2010; 126:113-8.


急性期VTEを合併した癌患者3,805例を含んだRIETE試験では、白血球数の増加した症例ではVTEの再発率が1.6倍でした。

Trujillo-Santos J, et al. Elevated white blood cell count and outcome in cancer patients with venous thromboembolism. Findings from the RIETE Registry. Thromb Haemost. 2008; 100: 905-11.

癌患者で白血球数が多いとVTEを発症しやすい理由は良く分かっていませんが、癌患者では炎症性サイトカインの産生がたかまり(白血球数増加にもつながり)、単球や血管内皮におけるTF産生を高めるという考えがあります。


血小板数の高値がVTE発症と関連しているという報告もいくつかみられます。

血小板数が35万/μLより高値の症例では、入院中のVTE発症率が2.5倍になるという報告、癌患者の22%では化学療法前に血小板数が35万/μLより高値となっておりVTE発症率が2.8倍になっているという報告などがあります。

Zakai NA, et al.  Risk factors for venous thrombosis in medical inpatients: validation of a thrombosis risk score. J Thromb Haemost. 2004; 2: 2156-61.

Khorana AA, et al. Risk factors for chemotherapy-associated venous thromboembolism in a prospective observational study. Cancer. 2005; 104: 2822-29.


血小板数の高値がVTE発症と関連している理由は不明ですが、IL-6、VEGF、トロンボポエチンの役割を論じている報告があります。


化学療法前のHb<10g/dLあるいは赤血球造血刺激因子製剤の使用は、VTE発症を1.8倍高めるという報告もあります。


P-セレクチンは血小板や血管内皮から遊離される接着分子であり、生体の血栓傾向や、血小板や白血球の癌細胞への接着に重要な役割を演じています。

実際、担癌患者において血中P-セレクチンはVTE合併者では上昇しているという報告46)47)や、VTE発症の危険因子になっているという報告48)49)がみられます。

Blann AD, et al. Increased soluble P-selectin levels following deep venous thrombosis: cause or effect? Br J Haematol. 2000; 108: 191-3.

Gremmel T, et al. Soluble p-selectin, D-dimer, and high-sensitivity C-reactive protein after acute deep vein thrombosis of the lower limb. J Vasc Surg. 2011; 54(6 Suppl): 48S-55S.

Ay C, et al. High concentrations of soluble P-selectin are associated with risk of venous thromboembolism and the P-selectin Thr715 variant. Clin Chem. 2007; 53: 1235-43.

Ay C, et al. High plasma levels of soluble P-selectin are predictive of venous thromboembolism in cancer patients: results from the Vienna Cancer and Thrombosis Study (CATS). Blood. 2008; 112: 2703-08.



(続く)


<リンク>
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播種性血管内凝固症候群(DIC)(図解シリーズ)
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参考:血栓止血の臨床日本血栓止血学会HPへ)
 

投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:50| 血栓性疾患