金沢大学・血液内科・呼吸器内科
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2014年09月08日

悪性腫瘍(癌)と血栓症(18)VTEの慢性期治療

悪性腫瘍(癌)と血栓症(17)VTEの急性期治療より続く

悪性腫瘍(癌)と血栓症(18)VTEの慢性期治療

ビタミン拮抗薬(Vitamin K antagonists: VKAsワルファリン)は、担癌患者でなければ静脈血栓塞栓症(VTE)の慢性期治療、二次予防薬として中心的役割を果たします。

しかし、担癌患者ではVKAsの効果が減弱することが知られています。

担癌患者ではINRがコントロール域にあっても、非担癌患者の3倍の再発率となります88)。

Prandoni P, et al. Recurrent venous thromboembolism and bleeding complications during anticoagulant treatment in patients with cancer and venous thrombosis. Blood. 2002; 100: 3484-88.

癌関連VTEの慢性期治療(3〜6ヶ月の経過観察)を比較すると、VTE再発予防の観点から、LMWHはVKAsよりも有効でした(相対リスクを53%低下)。

Akl EA, et al. Anticoagulation for the long-term treatment of venous thromboembolism in patients with cancer. Cochrane Database Syst Rev. 2014; 7: CD006650.

LMWHのVKAsと比較して優れた点は効果のみならず、モニタリング不要であること、半減期が短いために観血的処置時や血小板数低下時に中断しやすいこと、薬物相互作用がほとんどないこと、食事制限がないこと、経口内服や胃腸からの吸収に依存しないことも挙げられます。

なお、LMWHは主として腎代謝であるために、重症の腎障害(CrCl<30mL/min)患者では減量の配慮や、VKAsへの変更を考慮する必要があります。


抗凝固療法をいつまで継続するかは臨床的には重要な問題ですが、癌の病勢がある場合には抗凝固療法を行っていてもVTEを再燃するくらいであり、この場合は永続的な治療が必要となります。

ただし、抗凝固療法はメリット(VTEの再発予防)のみならずデメリット(出血の副作用)もあるために、その時の癌の状態、抗癌治療法の種類、QOL、患者希望などを考慮して、適時総合的に判断すべきです。


担癌患者のVTE対策として下大静脈フィルターが留置される場合がありますが、VTE再発は明らかに増加する点に注意が必要です(VTE再発は32%にも至ります)。

Elting LS, et al. Outcomes and cost of deep venous thrombosis among patients with cancer. Arch Intern Med. 2004; 164: 1653-61.

下大静脈フィルターの留置は、抗凝固療法を行うことのできない急性VTEに限定すべきと考えられます。

下大静脈フィルターを留置しても背景にある血栓性病態を改善する訳ではなく、血管内に異物を留置することでむしろ血栓傾向は悪化します(フィルターの近位側にも遠位側にも血栓は形成されます)。

臨床医がフィルター留置によって誤った安心感を抱いてしまうと、抗凝固療法を中止するといった誤った判断にもつながりかねません。

抗凝固療法を行えない出血のある患者に対してやむを得ずフィルターを留置する場合であっても、一過性のフィルターにすべきで、出血のリスクがなくなったらフィルター抜去の上、直ちに抗凝固療法を開始すべきです。


担癌患者では抗凝固療法中であってもVTE再発をきたしやすいことが知られています。

LMWHやUFH投与中であればまずHITを除外します。

VKA投与中であったけれどもコントロールが弱かった場合には、一時的にLMWHやUFHを併用した上でINR2.0〜3.0になるようにコントロールを強化するか、LMWH単独治療に切り替えます。

INRがコントロール域にあったにもかかわらず再発した場合にはLMWH単独治療に切り替えます。

LMWH中に再発した場合には、LMWHを増量します。


(続く)


<リンク>
推薦書籍「臨床に直結する血栓止血学
血液凝固検査入門(図解シリーズ)
播種性血管内凝固症候群(DIC)(図解シリーズ)
金沢大学血液内科・呼吸器内科HP
金沢大学血液内科・呼吸器内科ブログ
研修医・入局者募集

参考:血栓止血の臨床日本血栓止血学会HPへ)
 

投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:47| 血栓性疾患