深部静脈血栓症/肺塞栓(エコノミークラス症候群):概念
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【深部静脈血栓症/肺塞栓とは】(エコノミークラス症候群)
深部静脈血栓症(deep vein thrombosis:DVT)、肺塞栓(pulmonary embolism:PE)は、かつては日本人には少ない病気と誤解されてきた時代がありますが、決してそのようなことはありません。欧米人と遜色のない発症頻度ではないかと思います。サッカーのT選手が罹患した病気としても、一躍日本人の間に有名になった病気でもあります。
深部静脈血栓症にできた血栓の一部が剥離して、肺動脈に飛来して閉塞した病気を肺塞栓と言います。ですから、しばしばこの2疾患は同時にみられます。そのため、英語の教科書などでも、DVT/PEとして取り扱っているものが少なくないと思います。DVT&PEの両者を合わせて、静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism:VTE)と言っています。
なお、臨床家の間でも、一部誤解がある場合がありますが、肺梗塞ではなく肺塞栓です。肺組織は、肺動脈と気管支動脈の二重支配を受けていますので、肺梗塞にはなりにくいのです。
【深部静脈血栓症と血栓性静脈炎の違い】
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深部静脈血栓症(DVT)と、血栓性静脈炎(表在性血栓性静脈炎:superficial thrombophlebitis)は、名前は似ていますが違う病気です。研修医の先生とお話していて、DVTのことかと思っていたら、実は静脈瘤からの血栓性静脈炎の話であったということが多々あります。
両者が合併することも皆無ではありませんが、病態、罹患血管、原因、症状、肺塞栓を合併しやすいかどうか、治療のいずれもが違いますので、しっかりと区別する必要があります。この違いはかなり重要です。
<血栓性静脈炎>
血栓性静脈炎は、炎症が先にあって二次的に血栓ができます。罹患血管は表在静脈ですので、外から目でみて分かります。静脈の走行にそって、赤く筋状にみえます。発赤した血管の走行部分を触りますと痛いですが、罹患血管以外には炎症がないために罹患血管以外を触っても痛くありません。下肢全体がパンパンに腫れるというようなこともありません。重症の場合は、皮膚がただれた感じになってしまいます。
しかし、血栓性静脈炎は肺塞栓を起こすことはまずありません。ですから、抗血栓療法は不要です。局所療法、消炎鎮痛剤、抗生剤などによる治療になります。
原因として、静脈瘤、外傷、血管刺激性の強い点滴後などがありますが、原因不明も多いです。
<深部静脈血栓症>
深部静脈血栓症は、血栓が先にあって二次的に炎症を伴います。罹患血管は深部静脈ですので、外から目でみても血管の走行は分かりません。典型例では、片方の下肢がパンパンに腫脹します(この病気で両下肢が腫れるのは極めて例外的です。両下肢が腫れた場合には、深部静脈血栓症ではなく浮腫でしょう)。ただし、下肢の腫脹を伴わないで、下肢静脈エコーなどの検査で初めて分かる深部静脈血栓症も少なくありません。
注意すべき点は、深部静脈血栓症は肺塞栓を発症することがある点です。通常、十分な抗血栓療法が必要となります。急性期には、ヘパリン類による治療を行い、慢性期には、経口薬であるワルファリン(商品名:ワーファリン)による治療を行うことになります。
原因として、長期臥床、悪性腫瘍、先天性&後天性凝固異常などがありますが、原因を明らかにできないこともあります。
血栓性静脈炎と深部静脈血栓症は名前は似ていますが、治療方法を含め、大きな違いがありますので、しっかり区別すべきと考えられます。
【深部静脈血栓症は右or左下肢に多い?】
深部静脈血栓症(DVT)と言えば、通常、下肢に発症するものを連想すると思います。上肢に発症するDVTも皆無という訳ではありませんが、極めて例外的です。さて、下肢のDVTですが、右側に多いのでしょうか、それとも左側に多いのでしょうか?
答えから先に言いますと、左側です。もちろん、右側のDVTもかなりありますので、どちらかと言えばという程度です。管理人の経験では、右側:左側=4:6くらいではないかと思います。
左側に多い理由ですが、左総腸骨静脈が、右総腸骨動脈によって腹側から圧迫されているために、左下肢静脈血流が悪いことが原因と考えられています。しかし、右側にもありますので、以前よりも左右差は強調されなくなってきているかも知れません。
【深部静脈血栓症は日本人に少ない?】
深部静脈血栓症(DVT)は日本人には少ないのではないかと考えられてきた歴史があります。実際、管理人が医学部学生であったころは、DVTの講義すらなかったような気がします。また、卒業して医師になってからも、ずっと日本人では、DVTはあまりないものと思いこんでいました。
しかし、その考え方は、今では大きな間違いになっています。数ある血栓症のなかでも、深部静脈血栓症は最も多い血栓症の一つになっています。
これは、以下の2つの要素があると思います。
1)食生活の欧米化に伴い、実際にDVTの発症率が増加してきた。
2)診断技術の向上(特に、下肢静脈エコーやDダイマー検査)により、今まで埋もれていた症例が発掘されてきた。
おそらく、両者の要素があるのではないかと思います。
DVTのみに留まらず、肺塞栓(PE)も発症しますと、致命症になってしまうことがあります。DVT/PEの正しい理解はとても大事だと思います。
なお日本において、DVT/PEに対する関心は、近年とても高くなっています。サッカーのT選手が罹患されたこと、地震災害時のDVT/PE発症、整形外科術後のDVT/PE発症(院内で発症して致命症になることがあるため、訴訟になってしまうこともあるようです)などがその理由ではないかと思います。
(続く)
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 06:20 | 血栓性疾患 | コメント(0) | トラックバック(0)