金沢大学・血液内科・呼吸器内科
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2014年8月21日

悪性腫瘍(癌)と血栓症(2)VTE発症頻度

悪性腫瘍(癌)と血栓症(1)静脈血栓塞栓症/VTEより続く


悪性腫瘍(癌)と血栓症(2)VTE発症頻度

静脈血栓塞栓症(VTE) 患者における癌合併の頻度を検討した多くの報告がありますが、VTEを初めて発症した患者の約2〜3割で癌の合併がみられるとするものが多いです。

例えば、RIETE試験では、2001〜2011年の症候性VTE35,000例以上が登録されていますが、活動性のある癌が6,075例(17%)にみられています。

Gussoni G, et al. Three-month mortality rate and clinical predictors in patients with venous thromboembolism and cancer. Findings from the RIETE registry. Thromb Res. 2013; 131: 24-30.

VTEの発症リスクとして癌の占める割合が大きいです。


一方で、担癌患者は一般人または非担癌患者と比較してVTE発症のリスクが数倍高いとする報告が多いです。

例えば、英国の4つのデータベースを統合した検討では、担癌患者は、年齢の一致させた非担癌の一般人と比較して、VTEの相対危険度は4.7と報告されています。

Walker AJ, et al. Incidence of venous thromboembolism in patients with cancer - a cohort study using linked United Kingdom databases. Eur J Cancer. 2013; 49: 1404-13.


相対危険度が高いということは、癌とVTEには密接な関連があると考えられますが、臨床的には、患者にVTE発症率を説明する場合や、出血の副作用を伴う抗凝固療法を行うかどうかの判断時など、絶対危険率の情報の方が有用です。

癌患者におけるVTEの絶対危険率(累積発症率)は1〜8%と幅がありますが、その理由はどのような患者群での検討か、経過観察期間、検討時期、VTEの診断方法などの条件の違いによると考えられます。

最近報告されたメタ解析では、平均的リスクの癌患者におけるVTEの発症率は、13/1,000人・年と見積もられています。

ただし、リスクの高い患者(病勢が強い、転移を伴う、血栓症を増加させることが知られている治療薬使用など)では、VTEの発症率は68/1,000人・年となります。

Horsted F, et al. Risk of venous thromboembolism in patients with cancer: a systematic review and meta-analysis. PLoS Med. 2012; 9: e1001275.


癌患者におけるVTE発症の報告は時代とともに高率になっています。

その理由としては、癌とVTEの関連に関する知識が広がっていること、VTE診断技術の向上、治療法の改善に伴い癌患者の生存期間が長くなったことによって、より高齢の患者やより癌治療をうける回数が多くなっていること、などがあげられます。

今後さらに、癌患者におけるVTE発症率は高くなるものと推測されます。

(続く)


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参考:血栓止血の臨床日本血栓止血学会HPへ)
 

投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:26 | 血栓性疾患

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