悪性腫瘍(癌)と血栓症(19)無症候性VTEの治療
悪性腫瘍(癌)と血栓症(18)VTEの慢性期治療より続く
悪性腫瘍(癌)と血栓症(19)無症候性VTEの治療
癌進行度分類の検査中などに静脈血栓塞栓症(VTE)が偶然に見つかることがあります。
このような場合であっても、VTEは患者のQOLや臨床経過に悪い影響を与えることが知られています。
無症候性PEを有した担癌患者51例と症候性PEを有した担癌患者144例を比較した検討では、12ヶ月間のVTE再発、出血、死亡率は、両群間で差はみられていません。
den Exter PL, et al. Risk of recurrent venous thromboembolism and mortality in patients with cancer incidentally diagnosed with pulmonary embolism: a comparison with symptomatic patients. J Clin Oncol. 2011; 29: 2405-09.
膵癌患者を対象とした検討でも同様の結果が得られています。
Menapace LA, et al. Symptomatic and incidental thromboembolism are both associated with mortality in pancreatic cancer. Thromb Haemost. 2011; 106: 371-8.
無症候性VTEに対して抗凝固療法を行うかどうかは意見の分かれるところです。
無症候性PEを有した肺癌113例での検討では、抗凝固療法を行わなかった群では凝固療法を行った群と比較して、死亡率は有意に高かったと報告されています。
Sun JM, et al. Unsuspected pulmonary emboli in lung cancer patients: the impact on survival and the significance of anticoagulation therapy. Lung Cancer. 2010; 69: 330-6.
無症候性PEを有した膵癌患者を対象とした報告においても、抗凝固療法を行うことによって死亡率を70%低下させていました。
Menapace LA, et al. Symptomatic and incidental thromboembolism are both associated with mortality in pancreatic cancer. Thromb Haemost. 2011; 106: 371-8.
生命予後が悪いと思われる症例では、抗凝固療法を躊躇する傾向にあるため、上記の検討にはバイアスがかかっていると考えられますが、抗凝固療法が禁忌でなければ、担癌患者の無症候性VTEに対して抗凝固療法を行うべきでしょう。
(続く)
<リンク>推薦書籍「臨床に直結する血栓止血学」
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参考:血栓止血の臨床(日本血栓止血学会HPへ)