悪性腫瘍(癌)と血栓症(20)新規経口抗凝固薬の治療
悪性腫瘍(癌)と血栓症(20)新規経口抗凝固薬の治療
<抗がん剤および免疫抑制剤の新規経口抗凝固薬への影響>
新規経口抗凝固薬(new oral anticoagulant: NOAC)は、トロンビンまたは活性型第X因子などの活性型凝固因子を阻止する経口抗凝固薬です。
同じく経口抗凝固薬であるワルファリンが、基質としてのビタミンK依存性凝固因子(半減期の短い順番にVII、IX、X、II因子)を阻止するのに対して、NOACは活性型凝固因子を阻止する点が決定的な違いです。
究極の血栓症ともいえるDICは、基質としての凝固因子を低下させてもコントロールすることができず(凝固因子が枯渇した劇症肝炎でもDICを発症することからも分かるように)、活性型凝固因子を阻止することで初めてコントロール可能となります。
実際、DICに対してワルファリンを投与すると致命的な大出血をきたすことがあり絶対禁忌です。
Munter G, et al Increased warfarin sensitivity as an early manifestation of occult prostate cancer with chronic disseminated intravascular coagulation. Acta Haematol. 2001; 105: 97-9.
しかし、活性型凝固因子を阻止するNOACであればDICのコントロールが可能な場合があります。
Hayashi T, et al. Rivaroxaban in a patient with disseminated intravascular coagulation associated with an aortic aneurysm: a case report. Ann Intern Med. 2014; 161:158-9.
DICに対する効果が、ワルファリンとNOACでは正反対であることからも、両者の大きな違いを知ることができます。
日本では、ダビガトラン(抗トロンビン薬)、リバーロキサバン(抗Xa薬)、アピキサバン(抗Xa薬)が心房細動に起因する脳梗塞の予防目的で使用可能です。
エドキサバン(抗Xa薬)は、整形外科手術後のVTE発症予防目的に使用可能です。
本稿執筆時点では、VTEの二次予防や治療目的に処方することはできませんが、遠くない将来には可能となることが見込まれています。
NOACは、経口可能であることに加えて、固定用量で良いこと、薬物相互作用が少ないこと、食事制限がないこと、ワルファリンのような頻回の血液検査を必要としないこと(定期的な血液検査は必要ですが)、出血の副作用(特に脳出血)が明らかに少ないこと、などが利点です96)。
朝倉英策. 新規経口抗凝固薬(NOAC). In: 朝倉英策編. 臨床に直結する血栓止血学. 東京: 中外医学社; 2013. p.321-29.
担癌患者におけるVTEの治療や予防に関してはエビデンスがありませんが、今後の展開が期待されます。
特に化学療法中ですと、食事摂取量が大きく変動したり、抗生剤の使用が必要になったりして、ワルファリンコントロールが乱れやすいですが、NOACはこの点でも安定して安全な効果が期待できます。
なお、NOACはワルファリンほど薬物相互作用はないものの一部の抗がん剤、免疫抑制剤での相互作用が知られているため注意したいと思います(表4)。
Lee AY, et al. Treatment of cancer-associated thrombosis. Blood. 2013; 122: 2310-7.
(続く)悪性腫瘍(癌)と血栓症:インデックス
<リンク>推薦書籍「臨床に直結する血栓止血学」
播種性血管内凝固症候群(DIC)(図解シリーズ)へ
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参考:血栓止血の臨床(日本血栓止血学会HPへ)