背景;造血幹細胞移植前処置としてのATG(1)
【ATGの背景】
抗ヒトT 細胞グロブリン(ATG)は、移植片対宿主病(GVHD)の予防および治療薬として、1980年代より海外で広く使用されています。
2008年9月日本でも、抗胸腺細胞ウサギ免疫グロブリン(商品名:サイモグロブリンTG)が、造血幹細胞移植時の急性GVHD予防および治療薬として薬価収載されました。
海外では、抗ヒトTリンパ球ウサギ免疫グロブリン(商品名:ゼットブリンZB)も急性GVHD予防・治療に用いられています。
なお、TG・ZBはいずれも重症・中等症の再生不良性貧血にも適応を有しています。
【造血幹細胞移植前処置にATGが必要となる背景】
● GVHD発症率が高い
1) 末梢血幹細胞移植
2) 高齢患者
3) 高齢ドナー
4) 非血縁者間移植
5) HLA不適合移植
● 生着不全が起こりやすい
1) 緩和的前処置移植
2) 臍帯血移植
● その他:初期治療無効GVHDの予後不良
日本は海外と比べGVHDの発症率が低いため、移植片からT細胞を除くex vivo purgingや、患者にATGを投与してT細胞を除くin vivo purgingで急性GVHDを予防する必要はほとんどないと考えられてきました。
ただし、末梢血幹細胞移植が一般に行われるようになり、この治療は骨髄移植と比較してGVHD(特に慢性GVHD)が起こりやすいという問題が生じてきました。慢性GVHDの中でも肺病変を合併した場合には、生命予後不良だけでなく、QOL(生活の質)も著しく低下します。
さらに、緩和的前処置移植が可能となり、高齢の移植患者が急増しました。患者が高齢になるほどHLA一致同胞間移植は困難となり、親子間移植や非血縁者間移植が増えました。同時に、HLA不適合ドナーからの移植も増加しました。
患者年齢およびドナー年齢の高齢化、HLA一致同胞間以外の移植は、いずれもGVHDの危険因子になります。
低用量の全身照射または、全身リンパ節照射単独かフルダラビンを組み合わせる特に弱い前処置を用いる場合には拒絶のリスクが高いため、生着を担保する目的でATGを用いることがあります。また、近い将来非血縁者からの末梢血幹細胞移植が可能になると、重症GVHDの発症は益々増えると予想されます。
加えて、急性・慢性GVHDの二次治療が確立していないという問題もあります。急性GVHDがステロイド無効に終われば、長期生存できる可能性は2〜3割程度に過ぎません。しかも、急性GVHDは一旦発症しますと、発症から1週間以内にATGを投与しても、急性GVHD予後改善は期待できません。
ステロイド治療を要しない軽症急性GVHDを発症すれば、良好な予後が期待できる可能性はあります。しかし、それはサイコロを振るようなものなのです。急性GVHDはgraft-versus-malignancy効果を得るために必要悪との考えもありました。
しかし現在は、急性GVHDの発症は可能な限り防ぐという考え方が主流と思われます。
ただし、急性GVHD予防治療の選択には、合併症の問題も考慮する必要があります。
(続く)
【シリーズ】造血幹細胞移植前処置としてのATG
1)背景
2)作用機序
3)GVHD予防
4)晩期効果
5)急性GVHDに対するpre-emptive ATG療法
6)臍帯血移植&GVHD
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 18:43| 血液疾患(汎血球減少、移植他) | コメント(0) | トラックバック(0)