作用機序:造血幹細胞移植前処置としてのATG(2)
【ATGの作用機序とGVHD予防】
抗ヒトT細胞グロブリン(ATG)は移植片対宿主病(GVHD)予防に20年以上使われていますが、作用機序は不明な点も多いのです。
ATGは、T細胞特異抗原に対する抗体以外に、T細胞に関連しない抗体を少なくとも23種類含んでいます。これによっても生体内に何らかの影響を与えていると想像されています。
ATGは高濃度の場合、補体依存性細胞溶解、抗体依存性細胞傷害活性、網内系細胞によるオプソニン効果誘導によりリンパ球を抑制します。
低濃度の場合、Fas-Fasリガンド系を介して活性化リンパ球のアポトーシスを誘導します。
ATGは主にT細胞数を減らしてT細胞を抑制します。カニクイザルを用いた実験でも、ATG用量依存性にリンパ球が減ることが確認されています。この効果は、末梢血と脾臓で認められましたが、胸腺ではみられませんでした。そのほか、T細胞上抗原をdown regulationする作用も有しています。
またATGは、成熟の程度を問わず樹状細胞を細胞傷害し、機能も抑制します。ホストの樹状細胞は急性GVHD発症の中心的役割を担っていることから、ATGの急性GVHD予防効果を考える上でこの作用は重要です。
Regulatory T cell (Treg)は、免疫反応抑制・免疫寛容維持に重要な役割を担っています。マウスモデル実験で、Tregが移植片の拒絶とGVHD予防効果を有していることが示されました。臨床では、移植片中のTregが多いほどGVHDは起こりくいです。
最近、TG(抗胸腺細胞ウサギ免疫グロブリン、商品名:サイモグロブリン)がTregの数を増やし機能を高めることが明らかとなりました。しかもウマ由来のATGを用いた場合はみられませんでした。
また、この効果はTGを低濃度で用いた場合にかぎりみられました。これは、TGを低濃度で用いた場合、Tregを介したGVHD抑制効果が期待できることを示唆しています。
(続く)
【シリーズ】造血幹細胞移植前処置としてのATG
1)背景
2)作用機序
3)GVHD予防
4)晩期効果
5)急性GVHDに対するpre-emptive ATG療法
6)臍帯血移植&GVHD
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 05:02| 血液疾患(汎血球減少、移植他) | コメント(0) | トラックバック(0)