咳喘息・アトピー咳嗽・非喘息性好酸球性気管支炎の関係:好酸球性下気道疾患(4)
前回記事(アトピー咳嗽 & 非喘息性好酸球性気管支炎:好酸球性下気道疾患(3))より続きます。
関連記事(日本語の表あり):アトピー咳嗽 vs. 咳喘息:咳嗽の診断と治療(8)
【咳喘息・アトピー咳嗽・非喘息性好酸球性気管支炎の関係】
咳喘息(CVA)に関するCorraoらの原著論文には、2つのキーワードがあります。
1)気管支拡張薬が有効な咳嗽
2)気道過敏性が軽度亢進
わが国では「気管支拡張薬が有効な咳嗽」を重要視したために、アトピー咳嗽(AC)(気管支拡張薬が無効な咳嗽)が登場し、欧米では後者を重要視したために非喘息性好酸球性気管支炎(NAEB)(気道過敏性が正常な咳嗽)が登場した歴史があります。
ここで重要なことは、慢性乾性咳嗽の発生機序に少なくとも次の二つがあることです。
1)気管支平滑筋収縮がトリガーとなる咳嗽:咳喘息(CVA)
2)気道表層の咳受容体感受性が亢進して発生する咳嗽:アトピー咳嗽(AC)、アンジオテンシン変換酵素阻害薬による咳嗽、胃食道逆流症
さらに、咳感受性と気管支平滑筋は全く相互作用を持たないことも重要です。
【咳喘息(CVA)の認識】:気道過敏性と気管支拡張薬の有効性
上図【1】に示したように、気管支拡張薬の有効性を重要視した場合にはArea CとArea Dが、気道過敏性亢進を重要視した場合にはArea AとArea Cが、咳喘息(CVA)と認識されることになります。
そして、それぞれの裏がアトピー咳嗽(AC)(気管支拡張薬無効)と非喘息性好酸球性気管支炎(NAEB)(気道過敏性正常)となります。したがって、気道過敏性亢進と気管支拡張薬の有効性に強い相関があるか否かが、わが国と欧米の咳喘息(CVA)認識の不一致性を大きく左右することになります。
上図【2】に、金沢大学呼吸器内科が診療した慢性乾性咳嗽患者の気管支拡張薬の有効性とメサコリン気道過敏性の関係をプロットしてみました。まず、両者の間には相関を認めないことが明らかです。したがって、気道過敏性亢進が気管支拡張薬の有効性を示さないことになります。
そして問題は、上図【2】に円で囲んだ症例の診断です。日本では咳喘息(CVA)と診断することができますが、欧米ではこのような病態の報告はみられません。なぜならば、気管支拡張薬の有効性を評価していないからです。したがって、咳嗽の発生機序に基づいたわが国における咳喘息(CVA)の認識は、将来の病態的診断への進歩に伴い、より有効な治療法の開発につながる優れたものと考えられます。
【アトピー咳嗽と非喘息性好酸球性気管支炎】
前述したように、咳喘息(CVA)に関する日本と欧米の認識の違いによってアトピー咳嗽(AC)と非喘息性好酸球性気管支炎(NAEB)が生まれました。
以前の記事の表1&2に示したように、非喘息性好酸球性気管支炎(NAEB)は病理学的には咳喘息に類似し、生理学的にはアトピー咳嗽(AC)に類似します。そして予後は咳喘息(CVA)に類似します。
【まとめ】
以上のように咳喘息(CVA)の考え方が日本と欧米で異なるため、日本ではアトピー咳嗽(AC)が、欧米では非喘息性好酸球性気管支炎(NAEB)が慢性咳嗽を呈する好酸球性下気道疾患として認識されています。
現在の慢性咳嗽の診断は治療的に行われていますが、自然軽快やプラセボー効果の問題、特異的治療が効果的でない場合(重症や難治性)には診断が不能となる問題などがあります。
したがって、咳嗽の発生機序を含めた病態的診断法の開発が将来の重要課題と考えられます。
【シリーズ】 好酸球性下気道疾患
2)咳喘息
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1)ガイドライン
3)急性咳嗽
5)咳嗽の発症機序
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10) 胃食道逆流症(GERD)
11)慢性咳嗽&ガイドライン
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 06:49| 咳嗽ガイドライン | コメント(0) | トラックバック(0)