咳喘息・アトピー咳嗽・副鼻腔気管支症候群11
維持療法:咳喘息・アトピー咳嗽・副鼻腔気管支症候群10 より続く。
咳喘息・アトピー咳嗽・副鼻腔気管支症候群(11)
既述しましたように、現状では遷延性・慢性咳嗽の原因疾患の診断は、治療的に診断するに留まっています。
治療効果を判定する際には、自然軽快とプラセボ効果の問題が残り、さらにそれぞれの原因疾患が重症・難治性の場合には診断困難となる問題があります。
したがって将来的には、それぞれの原因疾患の病態に基づく「病態的診断」の開発と普及が望まれます。
また、現在使用可能な薬剤の効力および即効性は十分とはいえません。
それぞれの原因疾患の咳嗽発生機序のさらなる解明と、より有効な治療薬の開発が待たれます。
(続く)インデックス:咳喘息・アトピー咳嗽・副鼻腔気管支症候群 へ
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2)咳嗽の定義 & 性状
3)急性咳嗽
4)遷延性咳嗽 & 慢性咳嗽
5)咳嗽の発症機序
6)診断フローチャート
7)咳喘息
8)アトピー咳嗽 vs. 咳喘息
9)副鼻腔気管支症候群(SBS)
10) 胃食道逆流症(GERD)
11)慢性咳嗽&ガイドライン
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維持療法:咳喘息・アトピー咳嗽・副鼻腔気管支症候群10
導入治療:咳喘息・アトピー咳嗽・副鼻腔気管支症候群9 より続く。
咳喘息・アトピー咳嗽・副鼻腔気管支症候群(10):維持療法(長期管理)
治療薬を減量・中止するとすぐに再燃する場合、咳喘息からの喘息発症を予防する場合に実施します。
1)咳喘息
咳喘息は30%が典型的
喘息に移行しますが、長期吸入ステロイド療法はこの喘息への移行を予防します(
表)。
Fujimura M, et al: Comparison of atopic cough with cough variant asthma: Is atopic cough a precursor of asthma? Thorax 58: 14, 2003
したがって、上記導入療法によって咳嗽が軽快した後は、気管支拡張薬は減量・中止し、吸入ステロイド薬を長期に使用します。しかしながら、現時点では、その使用期間および使用量に関する詳細は不明です。
2)アトピー咳嗽
喘息への移行は認められませんので、治療によって咳嗽が軽快すれば治療薬を減量・中止します。
多くの患者では咳嗽の再燃がみられますが、同じ治療の繰り返しで対処できます。
3)副鼻腔気管支症候群
導入療法によって症状が軽快・消失すれば、治療薬を減量・中止できるので、維持療法は不要です。
かぜ症候群を契機に再燃しても、同じ治療で対処できます。ただし、重症例では膿性痰が消失せず、維持療法を余儀なくされる場合もあります。
(続く)咳喘息・アトピー咳嗽・副鼻腔気管支症候群11 へ
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導入治療:咳喘息・アトピー咳嗽・副鼻腔気管支症候群9
治療的診断:咳喘息・アトピー咳嗽・副鼻腔気管支症候群8 より続く。
咳喘息・アトピー咳嗽・副鼻腔気管支症候群(9):導入治療
咳嗽の治療は、以下の3つから構成されます。
1)治療的診断を行うための診断的治療
2)咳嗽を軽快・消失させるための導入療法
3)維持療法(長期管理)
診断的治療:既述です(
治療的診断、
治療的診断【図】)。
導入療法
診断的治療によって原因疾患を一時的に診断した後に、咳嗽を軽快・消失させるために実施する治療です。
1)咳喘息
(1)軽症
塩酸クレンブテロール(商品名:スピロペント)(10 µg錠)4錠を分4で経口投与+硫酸サルブタモール(商品名:サルタノール)(100 µg/puff)2吸入を咳嗽時および咳嗽前屯用。
(2)中等症
塩酸クレンブテロール(10 µg錠)4錠を分4で経口投与+硫酸サルブタモール(100 µg/puff)2吸入を咳嗽時および咳嗽前屯用+プロピオン酸フルチカゾン(商品名:フルナーゼ)1回200 µgを1日2〜4回吸入+カルボシステイン(商品名:ムコダイン)(500 mg錠)3錠を分3で経口投与。
(3)重症
上記の中等症の治療にプレドニゾロン(商品名:プレドニン 5 mg錠)4錠を朝1回、短期(1〜3週間)経口投与を追加。
いずれの重症度においても、ロイコトリエン拮抗薬が有効性を示す症例があり、さらにロイコトリエン拮抗薬は咳喘息に特異的に有効である可能性を示唆する基礎的および臨床的成績も蓄積されつつあります。
Nishitsuji M, et al: Effect of montelukast in a guinea pig model of cough variant asthma. Pulm Pharmacol Ther 21:142-145, 2008.
Kita T, et al: Antitussive effects of the leukotriene receptor antagonist montelukast in patients with cough variant asthma and atopic cough. Allergol Int. 59: 185-192, 2010
2)アトピー咳嗽
(1)軽症
塩酸アゼラスチン(商品名:アゼプチン)(1 mg錠)4錠を分2で経口投与+カルボシステイン(500 mg錠)3錠を分3で経口投与。
カルボシステインには好酸球性気道炎症に伴う咳感受性亢進を抑制する作用を有することが基礎研究で示されています。
Katayama N, et al: Effect of carbocysteine on the antigen-induced increases in cough sensitivity and bronchial responsiveness in guinea-pigs. J Pharmacol Exp Ther 297: 975-980, 2001
(2)中等症
塩酸アゼラスチン(1 mg錠)4錠を分2で経口投与+プロピオン酸フルチカゾン 1回200 µgを1日2〜4回吸入+カルボシステイン(500 mg錠)3錠を分3で経口投与。
(3)重症
上記の中等症の治療+プレドニゾロン(プレドニンR5 mg錠)4錠を朝1回、短期(1〜3週間)経口投与。
3)副鼻腔気管支症候群
診断的治療(例えば、カルボシステイン1500 mg/日+クラリスロマイシン100 mg/日)をそのまま継続します。
(続く)維持療法:咳喘息・アトピー咳嗽・副鼻腔気管支症候群10 へ
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治療的診断:咳喘息・アトピー咳嗽・副鼻腔気管支症候群8
治療的診断(図):咳喘息・アトピー咳嗽・副鼻腔気管支症候群7 より続く。
咳喘息・アトピー咳嗽・副鼻腔気管支症候群(8):治療的診断
治療前の評価によって、
副鼻腔気管支症候群が湿性咳嗽の原因疾患であると一時的診断した場合、去痰薬(気道粘液修復薬)と14、15員環マクロライド薬による治療を開始し、遅くとも2か月後に治療効果の評価を行い、治療効果ありと判定すれば本疾患と臨床診断できます(
治療的診断(図))。
さらに4か月治療を継続し、咳嗽が消失すれば確定診断となります。
乾性咳嗽の場合、本邦では大部分が
咳喘息と
アトピー咳嗽ですので、この二つの疾患を念頭に「診断的治療」を開始します。
最初に、
「気管支拡張薬が有効な咳嗽は咳喘息だけである」ことに基づき、1〜2週間の気管支拡張療法を実施して、その効果を判定します。
気管支拡張療法が第一段階である理由は、以下の通りです。
1)気管支拡張薬は咳喘息にしか効きません(特異的)
2)効果の発現が早いです(即効性)
3)咳喘息が最も多いです
咳嗽が消失しないまでも、明らかに軽減(初診時の咳嗽の強度と頻度を総合した患者の感覚を10 cmとして、7 cm以下に軽減)すれば咳喘息と診断し、より十分な治療(導入療法)を開始します。
気管支拡張薬が無効な場合には、
アトピー咳嗽と一時的に診断し、ヒスタミンH1-拮抗薬およびステロイド薬を用いて治療します。
それぞれの治療によって咳嗽が完全に軽快すれば、それぞれの疾患の確定診断となります。
しかし、それぞれの治療によって咳嗽が完全に軽快しない場合には、
胃食道逆流による咳嗽、
心因性・習慣性咳嗽など、他の原因の併発を想定し、検査・治療を進めることになります。
種々の原因疾患を想定して治療を行っても咳嗽が軽快しない場合や残存する場合には、
中心型肺腫瘍、
気管・気管支結核、
気道内異物などが原因となることもあり、気管支鏡検査の絶対適応となります。
(続く)導入治療:咳喘息・アトピー咳嗽・副鼻腔気管支症候群9 へ
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治療前診断:咳喘息・アトピー咳嗽・副鼻腔気管支症候群6
SBS:咳喘息・アトピー咳嗽・副鼻腔気管支症候群5 より続く。
咳喘息・アトピー咳嗽・副鼻腔気管支症候群(6):治療前診断
湿性咳嗽ならば副鼻腔気管支症候群が大部分です。
副鼻腔異常(咳払い、後鼻漏、上顎洞X線写真にて粘液貯留像や粘膜肥厚像)に、喀痰中好中球増多を認めれば確率が高くなります。
さらに喀痰が膿性であり、喀痰中に慢性気道感染症の起因細菌が同定されれば、診断確率はさらに高くなります。
乾性咳嗽では、アトピー咳嗽と咳喘息の鑑別が問題となります。
治療前診断は、表(アトピー咳嗽と咳喘息)に示した病態を全て検査して行う「病態的診断」が理想的ですが、一般臨床ではこれらを全て実施して診断することは不可能です。
そこで日本咳嗽研究会および日本呼吸器学会では、臨床研究をする際の対象患者の選択基準としての「きびしい診断基準(診断基準)、病態的診断」と、日常臨床で患者を診療する際の手引きとしての「あまい診断基準(簡易診断基準)、治療的診断」を準備しました。
藤村政樹、亀井淳三、内田義之、新実彰男、内藤健晴、塩谷隆信、西耕一、藤森勝也. 慢性咳嗽の診断と治療に関する指針. 藤村政樹 監修、日本咳嗽研究会・アトピー咳嗽研究会発行、前田書店、金沢、2006.
咳嗽に関するガイドライン.日本呼吸器学会咳嗽に関するガイドライン作成委員会編、日本呼吸器学会、東京、2005.
(続く)治療的診断(図):咳喘息・アトピー咳嗽・副鼻腔気管支症候群7 へ
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8)アトピー咳嗽 vs. 咳喘息
9)副鼻腔気管支症候群(SBS)
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SBS:咳喘息・アトピー咳嗽・副鼻腔気管支症候群5
アトピー咳嗽:咳喘息・アトピー咳嗽・副鼻腔気管支症候群4 より続く。
咳喘息・アトピー咳嗽・副鼻腔気管支症候群(5):副鼻腔気管支症候群
上気道と下気道に慢性好中球性気道炎症による過剰分泌を呈する病態です。
関連記事:副鼻腔気管支症候群(SBS):咳嗽の診断と治療(9)
上気道病変は慢性化膿性(好中球性)副鼻腔炎(原則として上顎洞炎)です。
一方、下気道病変はびまん性汎細気管支炎、びまん性気管支拡張症、非特異的な好中球性気管支炎です。
喫煙との関連はなく、狭義の慢性気管支炎(タバコ気管支炎)とは異なります。
上気道、下気道ともに線毛運動能の低下を認めます。
幸いにも、本疾患には長期少量マクロライド療法が奏効するため、本疾患の認識は重要です。
Fujimura M, et al. Addition of a 2-month low-dose course of levofloxacin to long-term erythromycin therapy in sinobronchial syndrome. Respirology 7: 317-324, 2002.
(続く)治療前診断:咳喘息・アトピー咳嗽・副鼻腔気管支症候群6 へ
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アトピー咳嗽:咳喘息・アトピー咳嗽・副鼻腔気管支症候群4
咳喘息:咳喘息・アトピー咳嗽・副鼻腔気管支症候群3 より続く。
咳喘息・アトピー咳嗽・副鼻腔気管支症候群(4):アトピー咳嗽
患者に何かしらのアトピー素因(過去、現在、未来にアレルギー疾患に罹った、罹っている、罹る可能性がある体質)ないし誘発喀痰中に好酸球がみられ、気管支拡張薬が全く無効な咳嗽を呈し、ヒスタミンH1-拮抗薬とステロイド薬(吸入、内服)が有効な病態(eosinophilic tracheobronchitis with cough hypersensitivity associated with atopic constitutionの略)です。
Fujimura M, et al: Comparison of atopic cough with cough variant asthma: Is atopic cough a precursor of asthma? Thorax 58: 14, 2003
Fujimura M, et al. Eosinophilic tracheobronchitis and airway cough hypersensitivity in chronic non-productive cough. Clin Exp Allergy 30: 41, 2000
病理学的所見は、誘発喀痰と生検した気管および気管支の粘膜に好酸球がみられますが、気管支肺胞洗浄液には好酸球がみられず、呼気中NO濃度の増加がみられないことです。
Fujimura M, et al: Detection of eosinophils in hypertonic saline-induced sputum in patients with chronic nonproductive cough. J Asthma 34: 119, 1997
Fujimura M, et al: Bronchial biopsy and sequential bronchoalveolar lavage in atopic cough: in view of effect of histamine H1-antagonists. Allergology International 49: 135, 2000
Fujimura M, et al: Exhaled nitric oxide (NO) levels in patients with atopic cough and cough variant asthma. Respirology 13: 359-364, 2008
すなわち、病理学的基本病態は、中枢気道に限局した好酸球性気管気管支炎(中枢気道の蕁麻疹)です。
生理学的所見は、咳感受性が亢進していることであり(上図:咳喘息患者とアトピー咳嗽患者の初診時および咳嗽軽快時のカプサイシン咳感受性。縦軸に最初に5回以上咳が誘発されたカプサイシン濃度(カプサイシン咳閾値)を示しています。シャドーは、正常者の95%信頼範囲です)、気道可逆性はなく、ピークフローの日内変動および気道過敏性は正常です。
喘息への移行は認めず、予後の点からも咳喘息とは異なります。
(続く)SBS:咳喘息・アトピー咳嗽・副鼻腔気管支症候群5 へ
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咳喘息:咳喘息・アトピー咳嗽・副鼻腔気管支症候群3
咳嗽の発生機序:咳喘息・アトピー咳嗽・副鼻腔気管支症候群2 より続く。
咳喘息・アトピー咳嗽・副鼻腔気管支症候群(3):咳喘息
β2-刺激薬には、咳感受性や咳中枢の抑制作用がないことが最も重要な基本事項であり、咳嗽一般に対する鎮咳効果は期待できません。
Fujimura M, et al: Effects of methacholine-induced bronchoconstriction and procaterol-induced bronchodilation on cough receptor sensitivity to inhaled capsaicin and tartaric acid. Thorax 47: 441, 1992.
咳喘息は、喘鳴や呼吸困難発作がなく、喘息とは診断できない持続性咳嗽が唯一の症状であり、この咳嗽がβ2-刺激薬などの気管支拡張薬の全身投与によって軽快する病態として登場しました。
Corrao WM, Braman SS, Irwin RS: Chronic cough as the sole presenting manifestation of bronchial asthma. N Engl J Med 300: 633, 1979
このような患者では、気道過敏性は軽度(正常者と軽症喘息患者の中間)亢進していますが、気道過敏性亢進の有無によって咳喘息と診断することは誤りです。
実際に気道過敏性測定の結果が気管支拡張薬の効果を予測できないことが示されており、我々や他の研究グループも確認しています。
Irwin RS, et al: Interpretation of positive results of a methacholine inhalation challenge and 1 week of inhaled bronchodilator use in diagnosing and treating cough-variant asthma. Arch Intern Med 157:1981, 1997
咳喘息の病理学的所見は、高張食塩水吸入による誘発喀痰、気管支鏡による生検気管支粘膜および気管支肺胞洗浄液に好酸球が気管支喘息と同程度に出現し、呼気中の一酸化窒素(eNO)濃度も気管支喘息と同程度に高いことです。
Fujimura M, et al: Detection of eosinophils in hypertonic saline-induced sputum in patients with chronic nonproductive cough. J Asthma 34: 119, 1997
Niimi A, et al: Eosinophilic inflammation in cough variant asthma. Eur Respir J 11: 1064, 1998
Fujimura M, et al: Exhaled nitric oxide (NO) levels in patients with atopic cough and cough variant asthma. Respirology 13: 359-364, 2008
したがって病理学的基本病態は、中枢気道から末梢気道全体の好酸球性気管支細気管支炎であり、気管支喘息と全く同じです。
生理学的所見は、気道過敏性が軽度亢進、気管支平滑筋トーヌスが軽度亢進、咳感受性が正常です。
Fujimura M, et al: Cough receptor sensitivity and bronchial responsiveness in patients with only chronic nonproductive cough: In view of effect of bronchodilator therapy. J Asthma 31: 463, 1994.
咳嗽は、咳感受性とは関係なく、気管支平滑筋の軽度収縮がトリガーとなって発生すると考えられます。
数年の内に、約30%の患者が典型的な喘息に移行するため、喘息の前段階(prelude of asthma)と認識されています(表)。
表 アトピー咳嗽と咳喘息からの喘息発症(5年間の長期予後)
疾 患 |
喘息発症あり |
喘息発症なし |
アトピー咳嗽 |
1.2 % |
98.8 % |
咳喘息(長期吸入ステロイド療法あり) |
5.7 % |
94.3 % |
咳喘息(長期吸入ステロイド療法なし) |
30.0 % |
70.6 % |
Fujimura M, et al: Comparison of atopic cough with cough variant asthma: Is atopic cough a precursor of asthma? Thorax 58: 14, 2003
(続く)アトピー咳嗽:咳喘息・アトピー咳嗽・副鼻腔気管支症候群4 へ
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咳嗽の発生機序:咳喘息・アトピー咳嗽・副鼻腔気管支症候群2
慢性咳嗽:咳喘息・アトピー咳嗽・副鼻腔気管支症候群1 より続く。
咳喘息・アトピー咳嗽・副鼻腔気管支症候群(2):咳嗽の発生機序
湿性咳嗽は、気道の過剰分泌によって気道内に貯留した喀痰を喀出するための生理的咳嗽です。
気道内に貯留した喀痰が気道壁表層に存在する咳受容体を直接的に刺激して咳嗽反応が惹起されます。
一方、乾性咳嗽は、咳嗽が一次的に発生する病的咳嗽です。
乾性咳嗽は、運動の始まり、運動の後、会話、空気の温度の変化、線香やタバコの煙、香水のにおい、などによって誘発されます。
また、咳嗽は就寝時や早朝に起こりやすく、重症となると一晩中咳込むため、睡眠が著しく障害されます。
また、女性では咳発作によって尿失禁するため、QOLが損なわれます。
乾性咳嗽の発生機序には少なくとも次の二つがあります。
一つは、気道壁表層に存在する咳受容体の感受性が亢進して咳嗽が発生する機序であり、アトピー咳嗽、胃食道逆流による咳嗽、アンジオテンシン変換酵素阻害薬による咳嗽が該当します。
もう一つは、気道壁深層に存在する気管支平滑筋の収縮によって、平滑筋の中あるいは周囲に存在する知覚神経終末が刺激されて咳嗽反応が惹起される機序であり、咳喘息と気管支喘息が該当します。
咳喘息では、気管支平滑筋収縮に対する知覚神経終末の反応性が亢進しており、平滑筋の弱い収縮によって咳嗽発作が惹起されます。
他方、気管支喘息では、この知覚神経終末の反応性は鈍化していますが、強い平滑筋収縮による過剰刺激によって咳嗽が惹起されます。
Ohkura N, et al. Bronchoconstriction-triggered cough is impaired in typical asthmatics J Asthma 47:51-54, 2010
(続く)咳喘息:咳喘息・アトピー咳嗽・副鼻腔気管支症候群3 へ
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慢性咳嗽:咳喘息・アトピー咳嗽・副鼻腔気管支症候群1
今回より、咳喘息・アトピー咳嗽・副鼻腔気管支症候群を、連載でアップさせていただきます。
咳喘息・アトピー咳嗽・副鼻腔気管支症候群(1):慢性咳嗽
8週間以上持続する咳嗽を慢性咳嗽と言います。
咳嗽に関するガイドライン:日本呼吸器学会咳嗽に関するガイドライン作成委員会編、日本呼吸器学会、東京、2005.
我が国では、慢性咳嗽の3大原因疾患は咳喘息(乾性咳嗽)、アトピー咳嗽(乾性咳嗽)および副鼻腔気管支症候群(湿性咳嗽)であり、これら3疾患で慢性咳嗽の90%程度を占めます(上図:本邦<北陸3県>における慢性咳嗽の原因疾患、以下文献より改変)
Fujimura M, et al. Importance of atopic cough, cough variant asthma and sinobronchial syndrome as causes of chronic cough in Hokuriku area of Japan. Respirology 10: 201-207, 2005
したがって、これらの3大原因疾患に熟知することは極めて重要です。
(続く)咳嗽の発生機序:咳喘息・アトピー咳嗽・副鼻腔気管支症候群2 へ
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咳喘息・アトピー咳嗽・非喘息性好酸球性気管支炎の関係:好酸球性下気道疾患(4)
前回記事(アトピー咳嗽 & 非喘息性好酸球性気管支炎:好酸球性下気道疾患(3))より続きます。
関連記事(日本語の表あり):アトピー咳嗽 vs. 咳喘息:咳嗽の診断と治療(8)
【咳喘息・アトピー咳嗽・非喘息性好酸球性気管支炎の関係】
咳喘息(CVA)に関するCorraoらの原著論文には、2つのキーワードがあります。
1)気管支拡張薬が有効な咳嗽
2)気道過敏性が軽度亢進
わが国では「気管支拡張薬が有効な咳嗽」を重要視したために、アトピー咳嗽(AC)(気管支拡張薬が無効な咳嗽)が登場し、欧米では後者を重要視したために非喘息性好酸球性気管支炎(NAEB)(気道過敏性が正常な咳嗽)が登場した歴史があります。
ここで重要なことは、慢性乾性咳嗽の発生機序に少なくとも次の二つがあることです。
1)気管支平滑筋収縮がトリガーとなる咳嗽:咳喘息(CVA)
2)気道表層の咳受容体感受性が亢進して発生する咳嗽:アトピー咳嗽(AC)、アンジオテンシン変換酵素阻害薬による咳嗽、胃食道逆流症
さらに、咳感受性と気管支平滑筋は全く相互作用を持たないことも重要です。
【咳喘息(CVA)の認識】:気道過敏性と気管支拡張薬の有効性
上図【1】に示したように、気管支拡張薬の有効性を重要視した場合にはArea CとArea Dが、気道過敏性亢進を重要視した場合にはArea AとArea Cが、咳喘息(CVA)と認識されることになります。
そして、それぞれの裏がアトピー咳嗽(AC)(気管支拡張薬無効)と非喘息性好酸球性気管支炎(NAEB)(気道過敏性正常)となります。したがって、気道過敏性亢進と気管支拡張薬の有効性に強い相関があるか否かが、わが国と欧米の咳喘息(CVA)認識の不一致性を大きく左右することになります。
上図【2】に、金沢大学呼吸器内科が診療した慢性乾性咳嗽患者の気管支拡張薬の有効性とメサコリン気道過敏性の関係をプロットしてみました。まず、両者の間には相関を認めないことが明らかです。したがって、気道過敏性亢進が気管支拡張薬の有効性を示さないことになります。
そして問題は、上図【2】に円で囲んだ症例の診断です。日本では咳喘息(CVA)と診断することができますが、欧米ではこのような病態の報告はみられません。なぜならば、気管支拡張薬の有効性を評価していないからです。したがって、咳嗽の発生機序に基づいたわが国における咳喘息(CVA)の認識は、将来の病態的診断への進歩に伴い、より有効な治療法の開発につながる優れたものと考えられます。
【アトピー咳嗽と非喘息性好酸球性気管支炎】
前述したように、咳喘息(CVA)に関する日本と欧米の認識の違いによってアトピー咳嗽(AC)と非喘息性好酸球性気管支炎(NAEB)が生まれました。
以前の記事の表1&2に示したように、非喘息性好酸球性気管支炎(NAEB)は病理学的には咳喘息に類似し、生理学的にはアトピー咳嗽(AC)に類似します。そして予後は咳喘息(CVA)に類似します。
【まとめ】
以上のように咳喘息(CVA)の考え方が日本と欧米で異なるため、日本ではアトピー咳嗽(AC)が、欧米では非喘息性好酸球性気管支炎(NAEB)が慢性咳嗽を呈する好酸球性下気道疾患として認識されています。
現在の慢性咳嗽の診断は治療的に行われていますが、自然軽快やプラセボー効果の問題、特異的治療が効果的でない場合(重症や難治性)には診断が不能となる問題などがあります。
したがって、咳嗽の発生機序を含めた病態的診断法の開発が将来の重要課題と考えられます。
【シリーズ】 好酸球性下気道疾患
1)概念 & β2-刺激薬の特徴
2)咳喘息
3)アトピー咳嗽 & 非喘息性好酸球性気管支炎
4)咳喘息・アトピー咳嗽・非喘息性好酸球性気管支炎の関係
【関連記事】 咳嗽の診断と治療 <推薦>
1)ガイドライン
2)咳嗽の定義 & 性状
3)急性咳嗽
4)遷延性咳嗽 & 慢性咳嗽
5)咳嗽の発症機序
6)診断フローチャート
7)咳喘息
8)アトピー咳嗽 vs. 咳喘息
9)副鼻腔気管支症候群(SBS)
10) 胃食道逆流症(GERD)
11)慢性咳嗽&ガイドライン
【関連記事】
慢性咳嗽の診療
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肺がんに気づくサイン
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アトピー咳嗽 & 非喘息性好酸球性気管支炎:好酸球性下気道疾患(3)
前回記事(咳喘息:好酸球性下気道疾患(2))より続きます。
関連記事(日本語の表あり):アトピー咳嗽 vs. 咳喘息:咳嗽の診断と治療(8)
【アトピー咳嗽】Atopic cough(AC)
<概念>
気管支拡張薬が全く無効で、ヒスタミンH1-拮抗薬とステロイド薬が有効な乾性咳嗽を呈する疾患概念として、1989年に、当科(金沢大学 血液内科・呼吸器内科)の 藤村らが提唱した疾患概念です。
「アトピー素因」とは、過去、現在または未来に、アレルギー疾患を発症した、発症している、または発症する可能性のある素因を意味しており、IgE抗体産生を意味する狭義の意味ではありません。
<病態>
前回記事(咳喘息:好酸球性下気道疾患(2))の表に示したように、咳感受性亢進を呈する好酸球性気管・気管支炎が基本病態です。咳感受性とは気道表層の知覚神経(C-線維かAδ-線維かの同定は不明)の過敏性を言います。末梢気道に好酸球性炎症を認めないのが咳喘息と大きく異なる病態です。
【非喘息性好酸球性気管支炎】nonasthmatic eosinophilic bronchitis(NAEB)
<概念>
1989年、Gibson PGらが「病理学的には喘息と同様に朝の喀痰中に好酸球増加がみられるのに、生理学的には喘息とは異なり気道過敏性が亢進していない病態」の発見に対して使用した言葉です。
最初から疾患概念として提唱した訳ではなく、好酸球性気道炎症と気道過敏性亢進の関係に一石を投じたものです。以降、英国のBrightling CEが中心となってこの病態を精力的に検討しています。
<病態>
前回記事(咳喘息:好酸球性下気道疾患(2))の表に示したように、好酸球性気道炎症が喘息と同様に中枢気道から末梢気道まで存在しますが、気道過敏性は亢進していない病態です。
病理学的には咳喘息(CVA)に類似してい¥ますが、生理学的にはACに類似しています。
(続く)
【シリーズ】 好酸球性下気道疾患
1)概念 & β2-刺激薬の特徴
2)咳喘息
3)アトピー咳嗽 & 非喘息性好酸球性気管支炎
4)咳喘息・アトピー咳嗽・非喘息性好酸球性気管支炎の関係
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1)ガイドライン
2)咳嗽の定義 & 性状
3)急性咳嗽
4)遷延性咳嗽 & 慢性咳嗽
5)咳嗽の発症機序
6)診断フローチャート
7)咳喘息
8)アトピー咳嗽 vs. 咳喘息
9)副鼻腔気管支症候群(SBS)
10) 胃食道逆流症(GERD)
11)慢性咳嗽&ガイドライン
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咳喘息:好酸球性下気道疾患(2)
前回記事(概念 & β2-刺激薬の特徴:好酸球性下気道疾患(1))より続きます。
なお、関連記事としまして、日本語の表はアトピー咳嗽 vs. 咳喘息:咳嗽の診断と治療(8)からご覧いただけます。
【咳喘息】Cough variant asthma(CVA)
前回記事で書かせていただいた基本事項を背景として、最初に咳喘息が報告されました。
<概念>
1979年Corraoらは、喘鳴や呼吸困難を伴わない(喘息とは診断できない)慢性咳嗽に対して、気管支拡張薬の経口投与が奏効した6症例を喘息の亜型として報告しています。
この6症例では気道過敏性が軽度亢進しており、1年半の追跡中に2名が典型的喘鳴を発症したため、喘息の前段階と認識されています。
その後、「咳喘息」と命名されましたが、欧米、本邦ともに頻度の多い原因疾患です。
<病態>
今回の記事内の2つの表(咳喘息、非喘息性好酸球性気管支炎、アトピー咳嗽の比較)に示したように、生理学的所見も病理学的所見も典型的喘息に酷似していますが、過剰な気管支平滑筋収縮が起こらず、咳嗽のみが表現型となる点が喘息とは異なります。
本疾患における咳嗽発生機序の詳細は明らかではありませんが、気管支平滑筋内の知覚神経(Aδ線維)が平滑筋の軽度収縮によって刺激されてインパルスを咳中枢へ送る機序が示唆されています。
したがって、気管支平滑筋を弛緩させる気管支拡張薬が有効な咳嗽を呈することになります。
(続く)
【シリーズ】 好酸球性下気道疾患
1)概念 & β2-刺激薬の特徴
2)咳喘息
3)アトピー咳嗽 & 非喘息性好酸球性気管支炎
4)咳喘息・アトピー咳嗽・非喘息性好酸球性気管支炎の関係
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2)咳嗽の定義 & 性状
3)急性咳嗽
4)遷延性咳嗽 & 慢性咳嗽
5)咳嗽の発症機序
6)診断フローチャート
7)咳喘息
8)アトピー咳嗽 vs. 咳喘息
9)副鼻腔気管支症候群(SBS)
10) 胃食道逆流症(GERD)
11)慢性咳嗽&ガイドライン
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概念 & β2-刺激薬の特徴:好酸球性下気道疾患(1)
【好酸球性下気道疾患の概念】
日本における慢性咳嗽の三大原因疾患は以下の通りです。
1) 咳喘息(cough variant asthma; CVA)(乾性咳嗽)
2) アトピー咳嗽(atopic cough; AC)(乾性咳嗽)
3) 副鼻腔気管支症候群(湿性咳嗽)
咳喘息とアトピー咳嗽は、誘発喀痰中に好酸球を認めることが多く、好酸球性下気道疾患に分類されます。
欧米では、喀痰中好酸球増多と正常気道過敏性を呈する疾患概念として
非喘息性好酸球性気管支炎(nonasthmatic eosinophilic bronchitis; NAEB)
が提唱されています。咳喘息、アトピー咳嗽、非喘息性好酸球性気管支炎のそれぞれについて整理してみたいと思います。
【β2-刺激薬の特徴:咳嗽との関係】
β2-刺激薬は、気管支平滑筋収縮に対しては抑制効果を発揮しますが、気道表層の咳受容体および延髄の咳中枢に対しては抑制効果を持たないことが基本的な事項になります。
ですから、気管支平滑筋収縮が関係しない咳嗽には鎮咳効果を持ちません。
咳受容体&咳中枢に対しては抑制効果のない根拠:
1)正常者および喘息患者において、酒石酸咳感受性とメサコリン気道過敏性は相関しないこと。
2)正常者において、メサコリン誘発気管支平滑筋収縮は酒石酸およびカプサイシン咳感受性を変化させないこと。
3)正常者において、β2-刺激薬吸入による気管支平滑筋の弛緩は酒石酸咳感受性を変化させないこと。
4)正常モルモットでも咳感受性亢進を伴うアレルギーモルモットでも、β2-刺激薬の全身投与はカプサイシン咳感受性を全く変化させないこと。
(続く)
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3)アトピー咳嗽 & 非喘息性好酸球性気管支炎
4)咳喘息・アトピー咳嗽・非喘息性好酸球性気管支炎の関係
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4)遷延性咳嗽 & 慢性咳嗽
5)咳嗽の発症機序
6)診断フローチャート
7)咳喘息
8)アトピー咳嗽 vs. 咳喘息
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慢性咳嗽&ガイドライン:咳嗽の診断と治療(11)
胃食道逆流症(GERD):咳嗽の診断と治療(10)からの続編です
(咳嗽ガイドライン関連記事)
【慢性咳嗽のその他の原因】
慢性咳嗽の原因としては、既に記事にしたものの他に、以下もあります。
1. ACE阻害薬による咳嗽
2. 慢性気管支炎
3. かぜ症候群後遷延性咳嗽(感染後咳嗽)
4. 心因性・習慣性咳嗽
5. 肺癌
6. 気管・気管支結核
7. 気道内異物
8. 間質性肺炎
9. 気管支漏(ブロンコレア)など。
【シリーズ「咳嗽の診断と治療」を完結するにあたって】
咳嗽の原因や原因疾患を知ることは、医療者側にとっても患者側にとっても有益です。
知らないほど心配・不安なことはありません。
さらにそれぞれの原因疾患には、軽症や中等症に対しては、有効な治療法が確立されています。しかしながら、重症や難治性では治療的診断は不可能になります。
どんな疾患でもそうであるように、病態学的に診断し、診断に基づいて治療を始めることが必要ですし、咳嗽に関するガイドラインは将来に向けて成長しなければならないと思います。
さらに、より強力で即効性のある治療法の開発も重要です。
(続く)
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10) 胃食道逆流症(GERD)
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胃食道逆流症(GERD):咳嗽の診断と治療(10)
副鼻腔気管支症候群(SBS):咳嗽の診断と治療(9)からの続編です(咳嗽ガイドライン関連記事)。
【胃食道逆流症】 gastro-esophageal reflux disease(GERD)
概念
胃酸が食道に逆流することによって、何らかの症状や合併症が生じている状態を胃食道逆流症(gastro-esophageal reflux disease:GERD)と言います。ただし、内視鏡的な逆流性食道炎とは一致しません。
GERDの症状の一部に乾性咳嗽があります。
また、乾性咳嗽が唯一の症状の場合もあります。
病態
以下の2つの機序が考えられています。
1)reflex mechanism:
胃食道逆流によって食道下端に存在する迷走神経末端が刺激され、迷走神経反射を介して咳嗽が発生する機序です。
2)microaspiration mechanism:
胃食道逆流によって胃内容物が気管・気管支に少量誤飲され、気管支平滑筋や咳受容体が直接刺激されることによって咳嗽が発生する機序です。
また、咳嗽によって誘発された胃食道逆流がさらに咳嗽を悪化させるという咳嗽‐逆流自己悪循環(cough-reflex self-perpetuation cycle)説も提案されています。
診断
胃食道逆流症(GERD)による咳嗽を疑うのは、以下の図(再掲です)に示した治療的診断に失敗した時です。
GERDを疑えば、プロトンポンプ阻害薬(PPI)を投与しますが、咳嗽が改善するまでに必要な平均期間は161〜179日であり、長期間の投与が必要です。PPIによって咳嗽が消失すればGERDと診断できます。
簡易診断基準を以下に示します。
胃食道逆流による慢性咳嗽の簡易診断基準
1.治療前診断基準
8週間以上継続する慢性咳嗽で,以下のいずれかを満たす
(1)胸やけ、呑酸など胃食道逆流を示唆する上部消化器症状を伴う
(2)咳嗽の原因となる薬剤の服用(ACE阻害薬など)がなく,抗菌薬,H1拮抗薬,気管支拡張薬および吸入ステロイド薬が無効
2.治療後診断
胃食道逆流に対する治療(プロトンポンプ阻害薬、H2拮抗薬など)により咳嗽が軽快する
治療
十分量のPPIを投与します。
著効例では投与2週間で咳嗽の著しい改善を示すことが報告されていますが、通常は4週間以上の投与が推奨されています。
PPIが無効な症例では、外科的治療(fundoplication)が実施されることもあります。
(続く)
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9)副鼻腔気管支症候群(SBS)
10) 胃食道逆流症(GERD)
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副鼻腔気管支症候群(SBS):咳嗽の診断と治療(9)
アトピー咳嗽 vs. 咳喘息:咳嗽の診断と治療(8)からの続編です(咳嗽ガイドライン関連記事)。
【副鼻腔気管支症候群】Sinobronchial Syndrome(SBS)
概念
慢性・反復性の好中球性の気道炎症を上気道と下気道に合併した病態です。
上気道の病変は慢性副鼻腔炎(とくに上顎洞炎)です。下気道の病変は慢性気管支炎、びまん性気管支拡張症、びまん性汎細気管支炎の三つに分類されます。
本疾患は慢性湿性咳嗽を呈する代表的疾患です。14、15員環マクロライドが奏効する点で本疾患の認識は極めて重要と言えます。
病態
何らかの気道防御機構の障害に関連して発症すると推測されていますが、詳細は不明です。
診断
簡易診断基準を以下に示します。
副鼻腔気管支症候群(Sinobronchial Syndrome:SBS)の簡易基準診断
(下記の1〜3の全てを満たす)
1.呼吸困難発作を伴わない咳嗽(しばしば湿性)が8週間以上継続
2.以下の3つの所見のうち,1つ以上を認める
(1)後鼻漏,鼻汁および咳払いといった副鼻腔炎に伴う自覚症状
(2)上咽頭や中咽頭における粘液性ないし粘液膿性の分泌物(後鼻漏)の存在ないしcobblestone appearanceといった副鼻腔炎に伴う他覚所見,
(3)副鼻腔炎を示唆する画像所見
3.14ないし15員環マクロライド系抗菌薬や去痰薬が有効
副鼻腔炎の検出には、副鼻腔の画像所見(液体貯留像や粘膜肥厚像)が有用ですし、鼻汁スメアに好中球を認めることは重要な所見となります。
後鼻漏や咳払い(throat clearing)は副鼻腔炎の存在を強く示唆することになります。
喀痰中に肺胞マクロファージに加えて多数の好中球を認めることは、下気道における好中球性気道炎症の存在を示す重要な所見です。
治療
軽症:
気道粘液修復薬(L-カルボシステイン)が有効です。びまん性汎細気管支炎のように末梢気道の去痰が必要な場合には気道粘膜潤滑薬(塩酸アンブロキソール)を併用します。
中等症:
常用量の1/4〜1/2量の14,15員環マクロライド薬を併用します。
重症&増悪時:
喀痰培養で検出された病原菌に感受性のある抗菌薬の常用量を1〜3週間上乗せします。症状が軽快すれば薬剤を減量・中止します。再燃時には同様な治療を繰り返します。
(続く)
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アトピー咳嗽 vs. 咳喘息:咳嗽の診断と治療(8)
咳喘息:咳嗽の診断と治療(7)からの続編です(咳嗽ガイドライン関連記事)。
【アトピー咳嗽】atopic cough
概念
気管支拡張薬が全く無効で、ヒスタミンH1-拮抗薬とステロイド薬が有効な乾性咳嗽を呈する疾患概念として、1989年に我が国から提唱された疾患概念です。
「アトピー素因」とは、過去、現在または将来に、アレルギー疾患を発症した、発症している、または発症する可能性のある素因を意味していますが、IgE抗体産生を意味する狭義の意味ではありません。
病態
以下の表(以前の記事でも掲載しています、再掲です)に示したように、咳感受性亢進を呈する好酸球性気管・気管支炎が基本病態です。咳感受性とは気道表層の知覚神経(C-線維かAδ-線維かの同定は不明)の過敏性を言います。
アトピー咳嗽は、好酸球性炎症が中枢気道のみであり末梢気道には認めない点が、咳喘息と大きく異なる病態です。
診断
アトピー咳嗽の簡易診断基準を以下に示します。
アトピー咳嗽の簡易診断基準
1. 喘鳴や呼吸困難を伴わない乾性咳嗽が3週間以上持続
2. 気管支拡張薬が無効
3. アトピー素因を示唆する所見 (※) または誘発喀痰中好酸球増加の1つ以上を認める
4. ヒスタミンH1-拮抗薬または/およびステロイド薬にて咳嗽発作が消失
(※)アトピー素因を示唆する所見:
1) 喘息以外のアレルギー疾患の既往あるいは合併
2) 末梢血好酸球増加
3) 血清総IgE値の上昇
4) 特異的IgE陽性
5) アレルゲン皮内テスト陽性
この治療的診断では、気管支拡張薬が無効なために咳喘息が否定できていて、ヒスタミンH1-拮抗薬ないしステロイド薬で軽快することが診断根拠となっています。
治療
以下の図(咳喘息とアトピー咳嗽の治療方針)に示したような治療を行います。
左側は咳喘息、右側はアトピー咳嗽の治療です。
稀には両疾患の合併もあります。
効果が不十分な時は上方の治療薬を追加します。
症状が軽快した場合、咳喘息では長期吸入ステロイド療法が推奨されますが、アトピー咳嗽では治療を終了します。
アトピー咳嗽の重症度分類(by 治療効果 )
軽症:ヒスタミンH1-拮抗薬で咳嗽が消失。
中等症:吸入ステロイド薬の併用で咳嗽が消失。
重症:上記に加えて、経口ステロイド薬の上乗せによって咳嗽が消失。
難治性:上記のいずれでも咳嗽が消失しない場合。
重症と難治性は専門医の診療が好ましいです。
アトピー咳嗽は、喘息への移行を認めませんので、症状が軽快すれば治療を中止できます。
(続く)
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