金沢大学・血液内科・呼吸器内科
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2009年02月17日

自己免疫性溶血性貧血(AIHA)の診断 :溶血性貧血(4)

溶血性貧血の病型分類 :溶血性貧血(3)からの続きです。



【自己免疫性溶血性貧血(AIHA)の診断】


まず行う検査

1)    クームズ試験

2)    赤血球形態観察

3)    (必要に応じて)発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)タイプ血球検査:フローサイトメトリー法を用いたGPIアンカー型膜蛋白欠損血球の検出

直接クームズ試験陽性ですと、自己免疫性溶血性貧血(AIHA)の可能性が高いですので、さらに以下の表のごとく確定診断へと進めます。




自己免疫性溶血性貧血(AIHA)診断基準
(平成16年厚生労働省研究班)

1. 溶血性貧血の診断基準を満たす。

2. 広スペクトル抗血清による直接クームズ試験が陽性である。
 
3. 同種免疫性溶血性貧血(不適合輸血、新生児溶血性疾患)および薬剤起因性免疫性溶血性貧血を除外する。

4. 1-3によって診断するが、さらに抗赤血球自己抗体の反応至適温度によって、温式(37℃)の1)と、冷式(4℃)の2)および3)に区分する。

1) 温式自己免疫性溶血性貧血
臨床像は症例差が大きい。特異抗血清による直接クームズ試験でIgGのみ、またはIgGと補体成分が検出されるのが原則であるが、抗補体または抗スペクトル抗血清でのみ陽性のこともある。診断は2)、3)の除外によってもよい。

2) 寒冷凝集素症
血清中に寒冷凝集素価の上昇があり、寒冷暴露による溶血の悪化や慢性溶血がみられる。直接クームズ試験では補体成分が検出される。

3) 発作性寒冷ヘモグロビン尿症
ヘモグロビン尿を特徴とし、血清中に二相性溶血素(Donath-Landsteiner抗体)が検出される。

5. 以下によって経過分類と病因分類を行う。
1) 急性:推定発病または診断から6か月までに治癒する。
2) 慢性:推定発病または診断から6か月以上遷延する。
3) 特発性:基礎疾患を認めない。
4) 続発性:先行または随伴する基礎疾患を認める。


6. 参考
1) 診断には赤血球の形態所見(球状赤血球、赤血球凝集)も参考になる。

2) 温式AIHAでは、常用法による直接クームズ試験が陰性のことがある(クームズ陰性AIHA)。この場合、患者赤血球結合IgGの定量が有用である。

3) 特発性温式AIHAに特発性血小板減少性紫斑病(ITP)が合併することがある(Evans症候群)。また、寒冷凝集素価の上昇を伴う混合型もみられる。

4) 寒冷凝集素症での溶血は寒冷凝集素価と平行するとは限らず、低力価でも溶血症状を示すことがある(低力価寒冷凝集素症)。

5) 自己抗体の性状の判定には抗体遊出法などを行う。

6) 基礎疾患には自己免疫性疾患、リウマチ性疾患、リンパ増殖性疾患、免疫不全症、腫瘍、感染症(マイコプラズマ、ウイルス)などが含まれる。特発性で経過中にこれらの疾患が顕在化することがある。
 
7) 薬剤起因性免疫性溶血性貧血でも広スペクトル抗血清による直接クームズ試験が陽性となるので留意する。診断には臨床経過、薬剤中止の影響、薬剤特異性抗体の検出などが参考になる。







この場合、薬剤性免疫性溶血性貧血を除外しておくことが大切です。

特に、βラクタム環を有する抗菌薬使用後の直接クームズ試験陽性溶血性貧血が有名です。輸血検査技師がクームズ試験陽性を来しやすい薬剤リストを作成していることがありますので、問い合せてもよいと思います。

なお、自己免疫性溶血性貧血(AIHA)の1〜4%は直接クームズ試験陰性です。



以下の場合には、クームズ陰性の自己免疫性溶血性貧血(AIHA)を疑います。

1)    溶血所見がある。
2)    PNH・先天性溶血性貧血が否定的である。
3)    球状赤血球・赤血球凝集など自己免疫性溶血性貧血(AIHA)に矛盾しない赤血球形態所見がある。
4)    (偶然の)副腎ステロイド使用に反応する。


なお、クームズ陰性自己免疫性溶血性貧血(AIHA)の診断には、赤血球結合IgG定量検査が有用です(自治医科大学地域医療学センター地域医療学部門などへ相談されると良いと思います)。


自己免疫性溶血性貧血(AIHA)の診断を確定させると同時に、続発性の自己免疫性溶血性貧血(AIHA)を除外する必要があります。

特に、全身性エリテマトーデス・リンパ増殖性疾患は常に念頭に置く必要があります。必要に応じて、骨髄異形成症候群・悪性腫瘍・妊娠・後天性免疫不全症候群の除外も考慮します。

 


【溶血性貧血】

1)赤血球寿命

2)溶血性貧血の診断基準(厚生労働省研究班)

3)溶血性貧血の病型分類

4)自己免疫性溶血性貧血(AIHA)の診断

5)発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)の診断

6)自己免疫性溶血性貧血(AIHA)の治療

7)発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)の治療

8)溶血性貧血の治療(海外との比較)




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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 04:13| 溶血性貧血 | コメント(0) | トラックバック(0)

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