金沢大学・血液内科・呼吸器内科
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2009年02月25日

抗リン脂質抗体症候群と血栓症:APS(2)


【血栓症の分類】
抗リン脂質抗体症候群の理解のために(1)

抗リン脂質抗体症候群を理解する前に、血栓症全体像を理解しておく必要があります。まず、血栓症(thrombosis)は、動脈血栓と静脈血栓に大別されます。

1)    動脈血栓

脳梗塞、心筋梗塞が代表的です。その他には、網膜中心(or 分枝)動脈血栓症、閉塞性動脈硬化症に起因する血栓症、腸間膜動脈血栓症、腎動脈血栓症、内頸動脈血栓症などがあります。

2)    静脈血栓

深部静脈血栓症(deep vein thrombosis, DVT)と肺塞栓症(pulmonary embolism, PE)が代表的です。その他には、網膜中心(or 分枝)静脈血栓症、腸間膜静脈血栓症、腎静脈血栓症、脳静脈洞血栓症、門脈血栓症などがあります。



【エコノミークラス症候群】抗リン脂質抗体症候群の理解のために(2)

深部静脈血栓に起因する肺塞栓は致命的になることがあります。エコノミークラス症候群やロングフライト血栓症という名前で、マスコミでも取り上げられることがありますので、一般の方の関心も高まってまいりました。

エコノミークラス症候群の語源は、飛行機のエコノミークラスのような狭いスペースにいますと、深部静脈血栓&肺塞栓を発症して致命症になるというものです。狭いスペースでは、下肢をあまり動かせないために、下肢の筋肉ポンプ(muscle pump)が働かなくなり、下肢に血液がよどみます。

静脈血栓症の形成に関する三つの要因として、ウィルヒョーの3要素(Virchow's triad)(血管の障害、血流のうっ滞、血液性状の変化)が知られていますが、エコノミークラス症候群では、まさに血流のうっ滞が問題になるのです。

先の新潟中越大震災において、車中泊をされた方の中からエコノミークラス症候群を発症して致命症になった方がおられたことが、当時の大きなニュースになりました。これも、下肢をあまり動かせないような狭い場所に長時間留まったことが原因でした。

エコノミークラス症候群(肺塞栓)は、長時間同じ姿勢でいることにより下肢深部静脈に血栓(thrombus)が生じ,この血栓が下大静脈(まれに上肢の深部静脈血栓症がありますが、この場合は上大静脈)から右心房、右心室を経て肺動脈に血栓が詰まる病気です。

肺塞栓症は肺動脈の血栓ですが、血栓症の特徴は動脈ではなく静脈血栓症なのです(肺動脈の動脈という言葉にだまされないようにしましょう)。


【血栓症の危険因子】抗リン脂質抗体症候群の理解のために(3)

血栓が生じる際には何らかの基礎疾患(危険因子)が存在することもあります。
動脈血栓症(脳梗塞、心筋梗塞など)の場合には、高血圧、高脂血症、糖尿病、喫煙などが危険因子になります。
静脈血栓症(深部静脈血栓症、肺塞栓など)の危険因子は以下の通りです。


静脈血栓症の危険因子

1)    脱水・多血症
2)    肥満
3)    妊娠・出産(特に帝王切開出産)
4)    経口避妊薬
5)    下肢骨折・外傷
6)    手術後(特に骨盤内臓・整形外科領域)
7)    下肢麻痺、長期臥床、ロングフライト
8)    悪性腫瘍の存在
9)    心不全、ネフローゼ症候群
10)    深部静脈血栓症や肺塞栓症の既往
11)    血栓性素因(詳細は下記)


血栓性素因の疾患(括弧内は動静脈の主としてどちらの危険因子であるかを示します)
(関連記事:血栓性素因の血液検査

1.先天性凝固阻止因子欠乏症(関連記事
・アンチトロンビン欠乏症(静)
プロテインC欠乏症(静)
プロテインS欠乏症(静)

2.線溶異常症
プラスミノゲン異常症(静)
高Lp(a)血症(動&静)

3.後天性血栓性素因
抗リン脂質抗体症候群(動&静)(抗カルジオリピン抗体、ループスアンチコアグラント)
高ホモシステイン血症(動&静)


なお、心房細動(atrial fibrillation, AF)(発作性心房細動を含む)は、脳塞栓の重要な危険因子です。血栓が閉塞する部位は脳動脈ですが、血栓ができる原因は心臓内血液滞留ですので、静脈血栓(凝固血栓)の性格を有しています。ですから、心房細動の抗血栓療法は、抗血小板療法(アスピリン)ではなく、抗凝固療法(ワルファリン)が原則です(関連記事:PT-INRとは)(INR検査)。



【抗リン脂質抗体症候群の血栓症】

上記のように動脈血栓症、静脈血栓症では基礎疾患(危険因子)が異なります。
ところがAPSでは、以下のような特徴があります。

1)    動脈にも静脈にも血栓を起こすこと
2)    血管の太さに関係なく血栓を起こすこと
3)    無治療の場合,半年以内に50%,2年以内に80%という高い頻度で血栓を再発すること(ただし、抗リン脂質抗体症候群の病勢、診断の確からしさ、どのリン脂質に対する抗体かなどによりこの数字は相当大きく変動する可能性があります)

抗リン脂質抗体症候群の症例において血栓症を再発させないようにするためには、正しい病態の評価、適切な治療が必要です。

抗リン脂質抗体症候群(インデックスページ)クリック! 抗リン脂質抗体症候群の全記事へリンクしています。

 

【シリーズ】先天性血栓性素因アンチトロンビン・プロテインC&S欠損症

1)病態 
2)疫学 
3)症状 
4)血液・遺伝子検査  ←遺伝子検査のご依頼はこちらからどうぞ。
5)診断 
6)治療

 

【関連記事】

先天性血栓性素因の診断

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血栓性素因の血液検査(アンチトロンピン、プロテインC、抗リン脂質抗体他)

先天性アンチトロンビン欠損症の治療

DIC(図解シリーズ)

 

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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 06:17| 血栓性疾患 | コメント(0) | トラックバック(0)

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