抗リン脂質抗体症候群と不妊症/不育症:APS(3)
抗リン脂質抗体症候群は、女性の方の場合、不育症(習慣性流産を含む)を契機に診断されることが多々あります。
念のためですが「不育症」です。「不妊症」ではありませんので、妊娠成立に関しては普通です。抗リン脂質抗体症候群の患者さんから、自分は妊娠しにくいのではないのかとのご質問をお受けることがありますが、そういう訳ではありません。妊娠はしても、流産を含む不育症になりやすいというのが正しい認識になります。
不妊症:種々の原因で妊娠が成立しない状態
不育症:妊娠は成立するものの、以下を満たす場合です
1) 早期流産の繰り返し(習慣性流産 spontaneous recurrent abortions、SRA):正確には、妊娠10週未満の原因不明の流産を3回以上繰り返すもの。
2) 妊娠10週以降で、胎児奇形・染色体異常などのない子宮内胎児死亡(IUFD)が1回以上。
3) 子宮内胎児発育遅延(IUGR)や妊娠高血圧症候群(PIH)などのため、妊娠34週未満に胎児の娩出を必要とするもの。
患者さんのご判断で、流産を繰り返すということで不妊症治療専門医を受診されることがありますが、実際は不妊症ではなく不育症(習慣性流産)ということがあります。
習慣性流産であれば、抗リン脂質抗体症候群かどうかの診断が不可欠です。その時点で、抗リン脂質抗体症候群に詳しい医師のいる血液内科や膠原病内科での精査が必要になります(私たちの金沢大学血液内科もその一つです)。
なお、不妊症治療により妊娠が成立しても流産を繰り返すということで抗リン脂質抗体症候群が疑われるケースも少なくありません(この場合は、不妊症かつ不育症ということになります)。
原因不明の不育症(習慣性流産)のなかで、相当数は抗リン脂質抗体症候群(APS)によるものではないかと考えられています。
抗リン脂質抗体症候群における不育症は、子宮壁と受精胚をつなぐ絨網膜、あるいは胎盤・臍帯に血栓が生じるために、胎児への酸素・栄養補給が不足することが大きな原因の一つと考えられています。
不育症の原因を精査し、抗リン脂質抗体症候群の関与が疑われれた場合には適切な治療を行うことで高率(習慣性流産の場合には50〜60%、IUGRやIUFDの場合には70〜80%)で生児を得ることができます。
不育症(習慣性流産)だからと言って決してあきらめる必要はありませんので、患者さんに対する適切なアドバイスを提供できるように、医療関係者としても知識を生整理しておくことが重要です。
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 05:39| 血栓性疾患 | コメント(0) | トラックバック(0)