金沢大学・血液内科・呼吸器内科
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2009年04月16日

深部静脈血栓症/肺塞栓(エコノミークラス症候群):危険因子、血栓性素因

深部静脈血栓症/肺塞栓(エコノミークラス症候群):下大静脈フィルターから続く。

 

 

【深部静脈血栓症&肺塞栓の危険因子】

危険因子

 
深部静脈血栓症/肺塞栓(インデックスページ)クリック


深部静脈血栓症DVT)、肺塞栓PE)の危険因子としては、上図のような疾患、病態が知られています。若干解説を加えたいと思います。

1)    脱水・多血症

ヘマトクリットの上昇は血液粘度を上昇させ、易血栓状態となります。裏をかえせば、十分な水分の補給は、血栓阻止的に作用します。


2)    肥満

以前より指摘されている危険因子ですが、さてその理由はと言いますと、答えに窮してしまいます。肥満の方は(しばしば中性脂肪や血中インスリン濃度が高く)、線溶阻止因子PAIが上昇するため、線溶抑制状態になっているからかも知れません。 


3)    妊娠・出産(特に帝王切開出産)

2つの理由があります。一つは、胎児の存在により物理的に下大静脈や腸骨静脈が圧迫されますので、静脈の血流が悪化します。もう一つは、妊娠経過により止血因子(vWF、フィブリノゲンその他)が上昇し凝固活性化状態となります。妊娠経過とともに凝固活性化マーカーTATが上昇する現象が知られています。


4)    経口避妊薬

血栓症の原因として良く知られていますが、その原因は不明な点も多いようです。凝固阻止因子プロテインSが低下するという報告もあります。


5)    下肢骨折・外傷

ベット上安静により下肢の筋肉ポンプが働かなくなります。


6)    手術後(特に骨盤内臓・整形外科領域):

特に整形外科術後に、深部静脈血栓症が多いことにつきましては、既にこのシリーズで記事にさせていただきました。


7)    下肢麻痺、長期臥床、ロングフライト

同じく、筋肉ポンプが働かなくなる状態です。


8)    悪性腫瘍の存在

がん細胞中の組織因子の発現により凝固活性化状態になります。換言すれば、DVTの患者様を拝見しましたら、癌が隠れていないか留意が必要です。なお、担癌患者様で、遊走性静脈炎を合併することがあり、Trousseau症候群として知られています。


9)    心不全、ネフローゼ症候群

心不全では下肢静脈流が低下します。また、心不全の原因によっては、それが凝固活性化状態の原因になっている可能性があります(拡張型心筋症、心室壁運動低下を伴った陳旧性心筋梗塞など)。ネフローゼ症候群では血中アンチトロンビンが低下して、凝固活性化状態になるという考え方があります。


10)    深部静脈血栓症や肺塞栓症の既往

これは経験的に断言できます。極めて強い危険因子だと思います。


11)    血栓性素因(詳細は下記)




【血栓性素因】

血栓性素因

深部静脈血栓症DVT)& 肺塞栓PE)の原因精査として、まず前半記事の内容をチェックいたします。さらに、全身性血栓性素因の有無の精査につきまして、上図の項目をチェックいたします。


1.先天性凝固阻止因子欠乏症

アンチトロンビン欠乏症:血中アンチトロンビン活性を測定します。
プロテインC欠乏症:血中プロテインC活性を測定します。
プロテインS欠乏症:血中プロテインS活性を測定します。


2.線溶異常症

1)プラスミノゲン異常症:血中プラスミノゲン活性を測定します。日本人の3%に、異常プラスミノゲン血症がみられます。

2)高Lp(a)血症:Lp(a)は、線溶因子であるプラスミノゲンと類似した構造を有し、拮抗的に作用します。動&静脈両者の血栓症の危険因子です。血中Lp(a)濃度を測定します。


3.後天性血栓性素因

1)抗リン脂質抗体症候群:抗カルジオリピン抗体(抗カルジオリピン-β2GPI複体抗体)、ループスアンチコアグラントを測定します。

2)高ホモシステイン血症:動&静脈両者の血栓症の危険因子です。 血中ホモシステイン濃度を測定します。


管理人の経験では、半数例で上記のどれかの危険因子が判明します。この中でも、抗リン脂質抗体症候群は圧倒的に頻度が高いです。その次は、高Lp(a)血症です。

 


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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 06:46| 血栓性疾患 | コメント(0) | トラックバック(0)

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