深部静脈血栓症/肺塞栓(エコノミークラス症候群):下大静脈フィルター
深部静脈血栓症/肺塞栓(エコノミークラス症候群):予防、ガイドラインから続く。
【深部静脈血栓症/肺塞栓に対する下大静脈フィルターの是非】
下大静脈フィルターには、永久的(permanentタイプ)と、非永久的(temporaryタイプ)があります。
理屈は、下肢に深部静脈血栓症(DVT)があっても(そしてその血栓の一部が血流にのって肺動脈に至ろうとしても)、下大静脈にフィルターを留置しておけば、肺塞栓(PE)まで至らないだろうという考え方です。確かに、理屈だけ聞けばよさそうに感じます。
しかし、上図を見ての通り、フィルターとは言っても隙間だらけのフィルターです。本当に巨大な血栓が飛んで来た時だけ、引っ掛けよう、というよりもむしろフィルターにぶつかって巨大な血栓が少しでも砕けるのを期待しようということになります。
フィルターに対する思いは、臨床家の間でもかなりの温度差があるように感じています。フィルターを支持する臨床家は、上図の右の取り出されたフィルターを見て、しっかり血栓が「補足された」と表現します。一方、フィルターをあまり支持しない臨床家は、フィルター(異物)を入れたから、フィルター部位で血栓が「形成されてしまった」と表現します。
上図では、どちらの立場も尊重するため、フィルター部位には血栓が「存在していた」と書かせていただいています。
出血性素因があり抗凝固療法を行えない時など、フィルターが必要な時は必ずありますが、そのようなケースは極めて例外的であろうと管理人は考えています。少なくとも、何でもかんでもフィルターを入れるというのは間違った考え方でしょう。
【下大静脈フィルターの成績】
上図は、近位部深部静脈血栓症(DVT)に対して、下大静脈フィルターを留置して肺塞栓(PE)の予防効果を検討したものです。フィルター留置群200例、非留置群200例、計400例での比較検討になっています。
予想に反して、肺塞栓の発症、大出血の副作用、死亡に関しては両群間に有意差はみられませんでした。しかも皮肉なことに、有意差がついたのは深部静脈血栓症の再発率でした。フィルター留置群の方が、有意に深部静脈血栓症の再発率が高くなっています。
論文中では、下大静脈フィルターの短期的なメリットはあると論じていますが、長期的にみますと、あまり良いことはないと言うことになります。
体内に異物を留置することにはデメリットもありますので、フィルターを留置するかどうかの判断は慎重に行うべきであろうと考えられます。
(続く)
深部静脈血栓症/肺塞栓(エコノミークラス症候群):危険因子、血栓性素因
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 06:29| 血栓性疾患 | コメント(0) | トラックバック(0)