金沢大学・血液内科・呼吸器内科
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2009年07月16日

DICに対するトランサミン投与と死亡率(図解50)

DICに対するトランサミン投与と肝腎障害(図解49)から続く。

 

DIC50

 

ラットの播種性血管内凝固症候群(disseminated
intravascular coagulation:DIC)
モデルに対して、抗線溶療法治療薬であるトラネキサム酸(商品名トランサミン)(TA)を投与した場合の病態変化を記事にしてきました。


・血尿は軽減(DICモデル血尿と抗線溶療法:トランサミン
・血中Dダイマーは低下(DICモデル:Dダイマーとトランサミン
・腎糸球体フィブリン沈着は高度に(腎糸球体フィブリン沈着:DICモデルとトランサミン)。
・臓器障害(肝腎障害)(DICに対するトランサミン投与と肝腎障害


さて、最終的には死亡率がどうなったかが重要になってきます。臓器障害や死亡率の検討は、短時間の検討では真実が見えてきません。最低でも8時間、できれば半日程度の検討を行いませんと、差が見えてこないのです。

組織因子(tissue factor:TF)誘発DICモデルは死亡率の低いモデルです。しかし、トランサミンを投与しますと、LPS誘発DICモデルに匹敵するくらいの死亡率になってしまいます(12時間後の観察で明瞭になります)。

一方、LPS誘発DICモデルは、元々死亡率の高いモデルです。このモデルに対してトランサミンを投与しますと、死亡率は更に高度になります。

DICモデルに対しましてトランサミンを投与しますと、確かに血尿は減り、Dダイマーの上昇も抑制されて、一見はDIC病態が軽快したかのごとくの錯覚に陥りますが、間違いであることがはっきりしました。

つまり、トランサミンによってDICモデルにおける臓器障害は悪化し、腎糸球体フィブリン沈着の程度は高度となり、そして最終的には死亡率も悪化してしまうことが判明しました。


DICにおける線溶活性化は形成された血栓を溶解しようとする生体防御的側面を有していますので、安易にこの線溶活性化を抑制してはいけないのです。

(備考)
線溶亢進型DIC(DICの病型分類)に対しては、ヘパリン類&トラネキサム酸併用療法が、致命的な出血に対して著効することがあります。ただし、処方を間違えますと全身性の血栓症を誘発して大変なことになります。この点は極めて重要ですが、今回はまだ触れないでおきたいと思います。

 

  (続く)DICモデルに対する線溶療法(ウロキナーゼ、t-PA)(図解51)

 


【DIC関連のリンク】

播種性血管内凝固症候群(DIC)【図説】(シリーズ進行中!!)

血液凝固検査入門(全40記事)

DIC(敗血症、リコモジュリン、フサン、急性器DIC診断基準など)

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【金沢大学第三内科関連のリンク】

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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 05:58| 播種性血管内凝固症候群(DIC)(図解) | コメント(0)

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