DICモデルに対する線溶療法(ウロキナーゼ、t-PA)(図解51)
DICに対するトランサミン投与と死亡率(図解50)から続く。
播種性血管内凝固症候群(DIC)モデルに対して、
トラネキサム酸(商品名トランサミン)による抗線溶療法を行いますと、血尿は軽減し血中
Dダイマーは低下するものの、臓器障害や腎糸球体フィブリン沈着は増悪し、死亡率も悪化することについて記事にしてまいりました。
しかし、抗線溶療法の検討のみでは充分とは言えません。反対側からの検討として
線溶療法(ウロキナーゼ urokinase UKなど)による評価も行って念おしする必要があります。
血小板数が低下していて出血しやすいDICに対して線溶療法とは何事かと思われるかも知れませんが、実は既に臨床においてこれに近い検討がなされています。
髄膜炎球菌感染症(敗血症)の症例に対して、線溶療法治療薬である
組織プラスミノゲンアクチベータ(tissue plasminogen activator:t-PA)を投与したというものです。
DICの基礎疾患によっては、血栓が残存しやすいことがあります。敗血症に合併した線溶抑制型DIC(
DICの病型分類)がその代表です。これに対して、線溶療法により血栓を溶解しようという考え方は、ある意味、理にかなっているとも言えます。
このような発想をする臨床家はやはり存在するようで論文報告もされています。
下記の論文は、髄膜炎球菌による敗血症(DIC合併例の存在が想定される)に対して、t-PAによる線溶療法を行ったという報告です。
Zenz W, et al:
Use of recombinant tissue plasminogen activator in children with meningococcal purpura fulminans: a retrospective study. Crit Care Med. 2004 Aug;32(8):1777-80.
上記の論文でも指摘されているように、このような症例に対する線溶療法は、出血(特に脳出血)の副作用の問題があり残念ながら現時点では行うことができません。
しかし、将来的には、より良い線溶療法治療薬の開発や、より良いモニタリングの開発などにより、敗血症に合併した DICに対する線溶療法の時代が来る可能性はありうる思っています。
さて、臨床応用の可否は別としまして、DICモデルに対してウロキナーゼなどによる線溶療法を行うというのは、DICにおける線溶活性化の意義を考察する上で、大変に意義があります。
どうなるのでしょうか?
(続く)
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DICに対するトランサミン投与と死亡率(図解50)
DICに対するトランサミン投与と肝腎障害(図解49)から続く。
ラットの
播種性血管内凝固症候群(disseminated
intravascular coagulation:DIC)モデルに対して、抗線溶療法治療薬である
トラネキサム酸(商品名トランサミン)(TA)を投与した場合の病態変化を記事にしてきました。
・血尿は軽減(
DICモデル血尿と抗線溶療法:トランサミン)
・血中
Dダイマーは低下(
DICモデル:Dダイマーとトランサミン)
・腎糸球体フィブリン沈着は高度に(
腎糸球体フィブリン沈着:DICモデルとトランサミン)。
・臓器障害(肝腎障害)(
DICに対するトランサミン投与と肝腎障害)
さて、最終的には死亡率がどうなったかが重要になってきます。臓器障害や死亡率の検討は、短時間の検討では真実が見えてきません。最低でも8時間、できれば半日程度の検討を行いませんと、差が見えてこないのです。
組織因子(tissue factor:TF)誘発DICモデルは死亡率の低いモデルです。しかし、
トランサミンを投与しますと、LPS誘発DICモデルに匹敵するくらいの死亡率になってしまいます(12時間後の観察で明瞭になります)。
一方、LPS誘発DICモデルは、元々死亡率の高いモデルです。このモデルに対して
トランサミンを投与しますと、死亡率は更に高度になります。
DICモデルに対しましてトランサミンを投与しますと、確かに血尿は減り、
Dダイマーの上昇も抑制されて、一見はDIC病態が軽快したかのごとくの錯覚に陥りますが、間違いであることがはっきりしました。
つまり、トランサミンによってDICモデルにおける臓器障害は悪化し、腎糸球体フィブリン沈着の程度は高度となり、そして最終的には死亡率も悪化してしまうことが判明しました。
DICにおける線溶活性化は形成された血栓を溶解しようとする生体防御的側面を有していますので、安易にこの線溶活性化を抑制してはいけないのです。
(備考)
線溶亢進型DIC(
DICの病型分類)に対しては、ヘパリン類&トラネキサム酸併用療法が、致命的な出血に対して著効することがあります。ただし、処方を間違えますと全身性の血栓症を誘発して大変なことになります。この点は極めて重要ですが、今回はまだ触れないでおきたいと思います。
(続く)DICモデルに対する線溶療法(ウロキナーゼ、t-PA)(図解51) へ
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腎糸球体フィブリン沈着:DICモデルとトランサミン(図解48)
DICモデル:Dダイマーとトランサミン(図解47)から続く。
播種性血管内凝固症候群(DIC)の動物(ラット)モデルに対しまして、抗線溶薬であるトラネキサム酸(商品名トランサミン)を投与することで、DICにおける線溶活性化の意義を深く考察することができます。
前回までの記事で書かせていただいたように、LPS誘発DICモデル、組織因子(tissue factor:TF)誘発DICモデルのいずれであっても、トランサミンを投与いたしますと、血尿は出現しなくなり(DICモデル血尿と抗線溶療法:トランサミン(図解46))、またDIC診断上の最重要マーカーと言われているDダイマーは著明に抑制されます(DICモデル:Dダイマーとトランサミン(図解47))。
血尿とDダイマーだけの評価ですと、トランサミンによってDICの病態は改善しているように思ってしまいます。
しかし、腎糸球体フィブリン沈着(GFD)の程度を病理学的(PTAH染色)によって評価いたしますと違ったことが見えてきます。
DICモデルの比較
16. DICモデルへ
17. DICモデルの比較
18. LPS誘発DICモデル
19. 組織因子(TF)誘発DICモデル
20. 臓器障害の比較
21. 腎糸球体フィブリン沈着
22. 出血症状(血尿)
23. 病型分類(動物モデルとの対比)
24. 病態の共通点と相違点
TFモデルにおいては、元来腎糸球体フィブリン沈着はほとんどみられないのですが、トランサミンを投与いたしますと、最終的にはLPS誘発DICモデルに匹敵するようなフィブリン沈着が見られるようになってしまいます。
LPS誘発DICモデルにおいては、元来腎糸球体フィブリン沈着は高度ですが、トランサミンの投与によってさらに高度になります。
このように、DICモデルにおけるフィブリン沈着が高度になるということは、決してDICの病態は良くなっていることにはならないのです(悪くなっているのです)。
症状(血尿といった出血症状)やDダイマーのみを見ていたのでは、真実は見えてこないと言うことができます。
(続く)
DICに対するトランサミン投与と肝腎障害(図解49)
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DICモデル:Dダイマーとトランサミン(図解47)
DICモデル血尿と抗線溶療法:トランサミン(図解46)から続く
2種類の播種性血管内凝固症候群(DIC)モデルに対して、抗線溶薬であるトラネキサム酸(商品名トランサミン)を投与したところ、血尿の出現が強く抑制されたことに関しましては、前回記事にさせていただきました(DICモデル血尿と抗線溶療法:トランサミン(図解46))。
確かに、血尿だけに注目しますと、 DICモデルに対してトランサミンは良いことをしているように感じます。
さて、今回はDICの診断において最も重要なマーカーといわれているDダイマー(D-dimer)の変動を見てみましょう。
既に記事にさせていただいたように、組織因子(tissue factor: TF)誘発DICモデルは線溶活性化が充分であるために、Dダイマー(血栓の溶解を反映)は明確に上昇いたします。
DICモデルの比較
16. DICモデルへ
17. DICモデルの比較
18. LPS誘発DICモデル
19. 組織因子(TF)誘発DICモデル
20. 臓器障害の比較
21. 腎糸球体フィブリン沈着
22. 出血症状(血尿)
23. 病型分類(動物モデルとの対比)
24. 病態の共通点と相違点
一方、LPS誘発DICモデルにおいては、線溶阻止因子PAIが著増するために線溶に強い抑制がかかります。そのため、血栓溶解は充分でなくDダイマーの上昇は軽度に留まります。
さて、この2種類のDICモデルに対して、トランサミンを投与しますとどうなるでしょうか?
TFモデルでみられた急峻なDダイマーの上昇は、トランサミン(上図では、TF + TA)によってほぼ完全に抑制されます。LPSモデルにおいては、もともとDダイマーの上昇は軽度なのですが、トランサミンの投与により完全に抑制されます(上図では、LPS + TA)。
トランサミンによって、DICの重要なマーカーであるDダイマーが抑制されたということは(血尿も消失していますし:DICモデル血尿と抗線溶療法:トランサミン(図解46))、DICの病態は改善したということでしょうか?
いいえ、ここは慎重に考える必要があります。
確かに、DICが軽症である場合であってもDダイマーの上昇は軽度に留まると思いますが、DICが重篤であってもDダイマーの上昇が軽度に留まる可能性があるのです。
つまり、生体内重要臓器に微小血栓が多発しても、血栓が溶解しない場合です。血栓が溶解しないためにDダイマーは上昇しないのです。
33. FDP(Dダイマー)低値の意味
34. FDP(Dダイマー)低値の別の意味
35. FDP(Dダイマー)の上昇しない意義
36. DIC診断でFDP(Dダイマー)のみの限界
さて、DICモデルに対してトランサミンを投与したところDダイマーの上昇は抑制されたのですが、DICは良くなったのでしょうか、それとも悪くなったのでしょうか?
(続く)
腎糸球体フィブリン沈着:DICモデルとトランサミン(図解48)へ
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DICモデル血尿と抗線溶療法:トランサミン(図解46)
ラットDICモデルに対する抗線溶療法(図解45)から続く
さて、播種性血管内凝固症候群(DIC)に対して、教科書的には禁忌とされている抗線溶療法を行うとどういうことになるでしょうか。
既に記事にさせていただいたように、組織因子(TF)誘発DICモデルは、臨床の線溶亢進型〜線溶均衡型DICに類似した病態を有しています。一方、LPS誘発DICモデルは、臨床の線溶抑制型DICに類似した病態を有しています。
DICモデルの比較
16. DICモデルへ
17. DICモデルの比較
18. LPS誘発DICモデル
19. 組織因子(TF)誘発DICモデル
20. 臓器障害の比較
21. 腎糸球体フィブリン沈着
22. 出血症状(血尿)
23. 病型分類(動物モデルとの対比)
24. 病態の共通点と相違点
これらの両DICモデルに対しまして、抗線溶療法の治療薬であるトラネキサム酸:商品名トランサミンを投与してみました。
TFモデルでは出血症状としての血尿が高頻度に見られるのが特徴ですが、トランサミン(図ではTAと書かれています)を投与しますと、血尿の出現を著しく抑制することができました。
一方、LPSモデルでは、元々血尿の出現頻度は低いのですが、トランサミンを投与しますと全く血尿はみられなくなってしまいました。
出血症状としての血尿だけで評価しますと、DICモデル(TF誘発、LPS誘発ともに)に対するトランサミンの投与は、病態を改善しているように見えます。本当にそうでしょうか。。。。。
(続く)
DICモデル:Dダイマーとトランサミン(図解47)へ
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ラットDICモデルに対する抗線溶療法(図解45)
DICにおける線溶活性化の意義(図解44)から続く
播種性血管内凝固症候群(DIC)における線溶活性化は、多発した微小血栓を溶解しようとする生体の防御反応としての意義も有しています。
この折角の防御反応を抗線溶療法(トラネキサム酸:商品名トランサミン)は抑制してしまいます。
ですから、教科書的にはDICに対する抗線溶療法は禁忌(絶対行ってはいけない治療)です。
実際、DIC症例に対して抗線溶療法を行ったところ、全身性の血栓症をきたして死亡したという報告が複数見られます(DICの治療関連の話は、このDIC図解シリーズの後半のメインテーマの一つになりますので、ここではこの程度に留めたいと思います)。
しかし、ラットDICモデルであれば、このような処置も許していただけます。DICモデルに関しましては既に記事にさせていただいていますが、念のためリンクしておきたいと思います。
DICモデルの比較
16. DICモデルへ
17. DICモデルの比較
18. LPS誘発DICモデル
19. 組織因子(TF)誘発DICモデル
20. 臓器障害の比較
21. 腎糸球体フィブリン沈着
22. 出血症状(血尿)
23. 病型分類(動物モデルとの対比)
24. 病態の共通点と相違点
さて、ここで敢えて、DICにおいて禁忌とされている抗線溶療法(トラネキサム酸:商品名トランサミン)を上記のDICモデルに対して行うことで(線溶をブロックすることで)、DICにおける線溶活性化の意義をより深く、よりしみじみと理解することができるのです。
(続く)
DICモデル血尿と抗線溶療法:トランサミン(図解46)
【DIC関連のリンク】
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DICにおける線溶活性化の意義(図解44)
DIC診断基準の今後(図解43)から続く
既に、
播種性血管内凝固症候群(DIC)図解シリーズの記事の中で書かせていただいたように、DICの本態は「
基礎疾患の存在下における全身性持続性の著明な凝固活性化状態」です。
ただし、同時進行的にみられる線溶活性化の程度によってDICの病態は大きく変わります。
この点からも、
DICにおける線溶活性化は重要な意義を有していると言うことができます。
また、臨床的にも線溶活性化の程度から「線溶抑制型DIC」「線溶均衡型DIC」「線溶亢進型DIC」に分類されています(
DICの病型分類)。
DICにおける線溶活性化病態の正しく深い評価とその調節は、DIC治療の発展につながる可能性があるのではないかと思っているところです。
さて、より深く線溶活性化病態を理解するにはどうすれば良いでしょうか。。。
(続く)
ラットDICモデルに対する抗線溶療法(図解45)へ
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DIC(敗血症、リコモジュリン、フサン、急性器DIC診断基準など)へ
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 06:11
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DIC診断基準の今後(図解43)
急性期DIC診断基準とは:救急領域(図解42)から続く
DIC診断基準の今後
厚生労働省DIC診断基準(旧厚生省DIC診断基準)、急性期DIC診断基準ともにとても優れた診断基準なのですが、なお発展させる余地があるのではないかと思われます。
ご批判を承知の上で、独断と偏見で今後のDIC診断基準はどうあるべきか考えてみたいと思います。
1)
DICの本態は「全身性」「持続性」の「著しい」「凝固活性化状態」です。やはり、この本態を評価するマーカーは絶対にDIC診断基準に組み込むべきではないでしょうか。具体的には、
TAT、F1+2、SF、FMCなどの分子マーカーが候補にあがります。
2) 分子マーカーは、いつでもどこでも測定できる訳ではないので、
DIC診断基準に組み込むのは如何なものかという指摘もあります。確かにその通りだと思います。しかし、DICの診断は「いつでもどこでも測定できるマーカーのみで」と、10年先、20年先まで言い続けている訳にはいきません。いつまでたっても医学の発展はないことになってしまいます。やはり早々に、踏ん切りをつけるべきではないでしょうか。
3) 分子マーカーを
DIC診断基準に組み込むことによって、分子マーカーが一気に全国医療機関に浸透していくというpositiveな効果を期待すべきではないかと思います。大反発を承知で極論いたしますと、
TAT、F1+2、SF、FMCなどの分子マーカーを測定できない医療期間は
DICを診療してはいけないくらいになれば、日本におけるDIC診療レベルは飛躍的にアップするのではないでしょうか。誤解の無いように補足いたしますと、適切なDIC診療を行えるように、全国各医療機関は早々に分子マーカーを測定できるように整備した方が良いという意味で書かせていただきました。
4)
基礎疾患の存在は当然ですから、診断基準に組み込む必要はないと思いますが如何でしょうか。
5)
臨床症状(出血症状、臓器症状)を診断基準に組み込みますと、臨床症状が出現しませんとDICと診断されにくくなります。DIC早期診断に悪影響と考えられます。DICの臨床症状はもちろん知っている必要がありますが、診断基準に組み込むのは如何なものでしょうか。
6)
FDP(Dダイマー)は、やはりDIC診断に不可欠です。DIC診断は、
FDP(Dダイマー)なしには語れないでしょう。
7) 血小板数も、もちろん不可欠ですが、白血病群では血小板数をはずす必要があります。
8) フィブリノゲンは、感染症を基礎疾患としたDICでは低下しませんが、
急性前骨髄球性白血病(APL)に合併したDICのように
線溶亢進型DICでは著減します。
9)
プロトロンビン時間(PT)は、DICの要素でも延長しますが、むしろ肝不全や
ビタミンK欠乏症など他の要素で延長することの方が多いのではないでしょうか。たとえば、某医療機関で某日
PTの延長がみられた全ての症例をチェックした場合、
PT延長の原因として最も多いのは何でしょうか。決してDICではなく、間違いなく肝予備能の低下ではないかと思います(ワーファリン内服例を除く)。
10) 線溶活性化の程度は、DICの病態を大きく分けることになります。
PICのような線溶活性化のマーカーは、DIC診断基準に組み込むとまでは言わなくても、DIC病型分類のマーカーとして取り入れたいところです。
上記の点をふまえて、今後のDIC診断基準に取り入れられるべきマーカーは以下でしょうか。
【DIC診断基準】基礎疾患の存在は必須
・ 血小板数(白血病群では除く)
・ FDP(Dダイマー)
・TAT and/or SF, F1+2, FMC
【DIC病型分類】
・PIC
・α2PI
・ FDP、FDP/Dダイマー比
・ フィブリノゲン
(続く)
DICにおける線溶活性化の意義(図解44)へ
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急性期DIC診断基準とは:救急領域(図解42)
参考書籍:「臨床に直結する血栓止血学」(DICに関しては特に詳述されています)
DIC診断基準に足りなかったもの(図解41)から続く
参考書籍リンク:しみじみわかる血栓止血 Vol.1 DIC・血液凝固検査編 ← クリック
DIC診断基準のうち、急性期DIC診断基準に関連した記事は既にいくつか書かせていただいています。
急性期DIC診断基準は、敗血症、外傷などの救急領域で遭遇しやすい基礎疾患のDIC診断に威力を発揮するものです。特に、敗血症に合併したDICの診断には厚生労働省DIC診断基準よりも患者の予後改善という観点からも、有効でしょう。
ただし、内科領域、特に白血病群を基礎疾患とするDIC診断には適用できないのが難点です。
【DIC関連のリンク】
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DIC診断基準に足りなかったもの(図解41)
DIC診断基準と本態(図解40)から続く
世界中には、多くのDIC診断基準が存在しています。
しかし、これらの
DIC診断基準に共通して足りなかったものがあります。
1)凝固活性化マーカー(TAT、SFなど):
DIC本態は、基礎疾患の存在下における全身性持続性の著しい凝固活性化状態です。
確かに、血小板数の低下や、
FDP&Dダイマーの上昇は重要な検査所見ではありますが、決してDICの本態という訳ではありません。
やはり、DICの本態(凝固活性化)を反映するマーカーであるトロンビン-アンチトロンビン複合体(
TAT)や可溶性フィブリン(
SF)などを診断基準に組み込みたいところです。
2)線溶活性化マーカー(PICなど):
DIC病態は線溶活性化の程度によって大きな差異がみられます。
DIC診断基準本体のなかではなくても良いので、DICの病型分類に不可欠な線溶活性化マーカー(
PICなど)を何らかの形で診断指針として取り上げたいところです。
(続く)
急性期DIC診断基準とは:救急領域(図解42)へ
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 05:42
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DIC診断基準と本態(図解40)
旧厚生省DIC診断基準の問題点(図解39)から続く
播種性血管内凝固症候群(DIC)診断基準(旧厚生省DIC診断基準)について議論する場合には、DICの本態についても考察しておく必要があります。
当然のことながら、
DIC診断基準はDICの本態をきちんと評価するものである必要があります。
そもそもDICの本態とは何でしょうか?
1) 血小板数が低下することでしょうか:
いいえ違います。確かに典型的なDICにおいては血小板数が低下しますが、血小板数低下はDICの本態という訳ではなく、DICの結果です。典型的なDICにおいては消費性凝固障害の病態となりますが、その結果として血小板数や凝固因子(フィブリノゲンなど)が低下するのです。実際、代償性DICでは血小板数は低下いたしません。
2) FDPやDダイマーが上昇することでしょうか:
いいえ違います。確かに、
FDPや
Dダイマーの上昇は、血小板数低下とともにDICの最も重要な検査所見であることは万人が認めることでしょう。しかし、FDPやDダイマーの上昇は、DICの結果として微小血栓が多発して、さらにその血栓が分解された産物です。DIC病態の最終段階を見ているとも言えます。
3) PTが延長することでしょうか:
いいえ違います。確かに、
PT延長はDICでしばしば見られる検査所見です。しかし、PTの延長がDICのためであったとしても、DICの消費性凝固障害の結果です。更に、PTは、
ビタミンK欠乏症や肝不全などの多くの他の要素によっても延長することが良く知られています。DICに特異的な検査所見では決してありません。
4) SIRSの存在はDICに必要でしょうか:
いいえ違います。確かに、感染症に合併したDICにおいて、SIRSは重要な要素です。しかし、血液疾患(造血器悪性腫瘍など)、動脈瘤、固形癌などに合併したDICにおいては、SIRS基準を満たすことはまずありません。
たとえば、
急性前骨髄球性白血病(APL)に凝固異常を合併して脳出血をきたしたような病態であってもSIRS基準を満たすことはありません。このような場合にはSIRSがないのでDICとは言わないのでしょうか?そのようなことはありません。APLの凝固異常も、もちろんDICです(むしろ
APLの凝固異常は究極のDICとも言えるでしょう)。
さて、世界中に存在するDIC診断基準に、欠けていたものは何でしょうか。。。。
(続く)
DIC診断基準に足りなかったもの(図解41)へ
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旧厚生省DIC診断基準の問題点(図解39)
厚生労働省DIC診断基準の特徴(図解38)から続く
旧厚生省DIC診断基準は、日本において20年以上と長らく用いられていることからも分かるように、優れた診断基準ということができます。何が優れているかにつきましては、既に記事(
厚生労働省DIC診断基準の特徴(図解38))にさせていただきました。
一方で、この診断基準に対して多くの問題点が指摘されてきたのも事実です。
1) 基礎疾患:
基礎疾患のないDICは1例も存在しないにもかかわらず、
基礎疾患の存在でスコアリングするのはナンセンスという指摘があります。
2) 臨床症状:
出血症状や臓器症状でスコアリングするということは、臨床症状が出現しませんとDICと診断しにくくなるということを意味しており、DICの早期診断には悪影響との指摘があります。
3) フィブリノゲン:
線溶亢進型DICではしばしば著減しますが、感染症に合併したDICにおいては、ほとんど低下いたしません。DIC診断基準に不要との指摘があります。
4) FDP:
FDPは線溶亢進型DICでは著増しますが、感染症に合併した場合のように
線溶抑制型DICにおいては、軽度上昇に留まります。感染症に合併したDICにおいては、線溶阻止因子
PAIが著像するために、線溶活性化は軽度ですので血栓溶解にブレーキがかかるのです。
この、3)4)のために
旧厚生省DIC診断基準は、感染症に合併したDICの診断には弱いと言わざるを得ません。
5) プロトロンビン時間(PT):
確かに
PTは、DICの要素でも延長しますが、肝不全や
ビタミンK欠乏症などDIC以外の要素でも延長します。DICに特異的ではないマーカーを診断基準に組み込むのは如何なものかという指摘があります。
6) 凝固活性化マーカー:
DICの本態は、全身性持続性の著しい凝固活性化状態です。この本態である凝固活性化状態を評価するマーカー(
TATなど)が診断基準に含まれていないのは如何なものかという指摘があります。
このように
旧厚生省DIC診断基準は優れた診断基準ではあるものの、問題点も数多く指摘されてきました。
そもそもDICとは一体どのような病態なのでしょう。。。。。
(続く)
DIC診断基準と本態(図解40)へ
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 05:03
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厚生労働省DIC診断基準の特徴(図解38)
DIC診断基準:厚労省、ISTH、急性期(図解37)から続く
厚生労働省(旧厚生省)DIC診断規準は、1980年にこの世に登場して20年以上経過していますが、今だに頻用されています。つまり、20年以上も使用されてきた完成度の高い診断基準ということができるでしょう。今だに、日本で最も使用されている診断基準です。
こんなに長らく使用されてきたのは、優れた点が多いからではないかと考えられます。
1) まず、旧厚生省DIC診断基準は、典型的なDIC症例でみられる臨床症状・検査所見を列挙していることが挙げられます。典型的なDICというのはこのようなものであると言うことをしっかり示してくれています。この診断基準の特長ということができます。
2) 臨床症状や臨床検査所見に対してスコアをつけることによって、客観性のある診断基準となっています。
3) 全ての基礎疾患においてこの診断基準を適用することができます。診断基準内で、白血病群、非白血病群と言った分類を行うことによってスコアリングの方法が違うことが明記されています。換言しますと、白血病群、非白血病群のいずれであってもこの診断基準を用いてDICを診断することが可能です。
この優れたDIC診断基準ですが、問題点も指摘されてきました。
(続く)
旧厚生省DIC診断基準の問題点(図解39)へ
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 04:47
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DIC診断基準:厚労省、ISTH、急性期(図解37)
DIC診断でFDP(Dダイマー)のみの限界(図解36)から続く
参考書籍リンク:しみじみわかる血栓止血 Vol.1 DIC・血液凝固検査編 ← クリック
参考書籍:「臨床に直結する血栓止血学」(DICについては特に詳述されています)
世界的にDIC診断基準はいくつもありますが、日本で最も頻用されているのは、厚生労働省(厚労省)DIC診断基準でしょう。いわゆる1988年改訂版の旧厚生省DIC診断基準です。改訂版と言いましても、補助診断項目に若干の補足が加わったのみですので、実質は1980年に作成されたDIC診断基準なのです。
改訂版というのも気が引けるくらいに、日本で長らく使われています。こんなに長らく使用されているというのは、評価されるべき点が多いのだとは思いますが、一方で厚労省DIC診断基準には多くの問題点も指摘されています。この点は、今後の記事で触れたいと思います。
国際血栓止血学会(ISTH)の診断基準(2001年)は、internationalなDIC診断基準を作成しようとした点で評価されるものです。ただし、上記の図を見てもわかりますように、必ずしも評判の良くなかった厚労省DIC診断基準(実質20年以上前のもの)を模倣したものなのです。DIC診断基準をみても、いかに日本は世界をリードしていたかが分かります。20年以上の差をつけて先行していたことになるのです。
急性期DIC診断基準は、厚労省DIC診断基準の弱点、すなわち感染症に合併したDICの早期診断には非力であった点を改善しています。確かに、感染症に合併したDICの診断には急性期DIC診断基準は力を発揮するものと考えられます。しかし、造血器悪性腫や固形癌に合併したDICなどの症例には適応できないなど、適応できる疾患に制限がある点が今後の検討課題です。
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 05:12
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DIC診断でFDP(Dダイマー)のみの限界(図解36)
前回の記事(DICで、FDP(Dダイマー)の上昇しない意義(図解35))で、FDP&D-dimer(Dダイマー:DD)は、播種性血管内凝固症候群(DIC)の病態が良い時も悪いときも上昇しないと書かせていただきました。
このようなどっちつかずのマーカーは、DICの病態把握や、診断には無力なのでしょうか。いえ、そういう訳ではありません。DICの病態把握や診断のために、FDPやD-dimerは不可欠でしょう。
これは、FDP&DD「のみ」で病態把握することの限界ということができます。
FDPやDDとともに、DICの本態である凝固活性化を反映するマーカーであるTATや、DICの病型分類のために必要なマーカーであるPICを合わせて測定することで、正確な評価が可能と考えられます。
さて、DIC診断基準ですが。。。。
以下で、DIC関連記事とリンクしています。
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 05:56
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DICで、FDP(Dダイマー)の上昇しない意義(図解35)
FDP(Dダイマー)は、播種性血管内凝固症候群(DIC)の診断の上で、最も重要なマーカーの一つです。世界中には、多くのDIC診断規準が存在しますが、FDP(Dダイマー)が入っていない診断基準は一つもないでしょう。
日本においても、厚生労働省(旧厚生省)DIC診断基準、急性期DIC診断基準などが存在しますが、FDPまたはDダイマーは最も重要なマーカーの一つと認識されています。
しかし、FDP(Dダイマー)の評価には注意が必要です。
血栓が存在しない場合(これは生体にとって良い状態です)であっても、
血栓が存在するが溶解しない場合(これは生体にとって悪い状態です)であっても、どちらであってもFDP(Dダイマー)は上昇しないのです。
生体にとって、不都合な時も、都合の良い時も同じ変動をするマーカーは臨床的意味があるのでしょうか。。。。。。?
(続く)
以下で、DIC関連記事とリンクしています。
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 05:10
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播種性血管内凝固症候群(DIC):FDP(Dダイマー)低値の別の意味(図解34)
前回の記事からの続きです。FDP(Dダイマー)が上昇しない時というのはどういう場合でしょうか?
一つは、前回書かせていただいたように、凝固活性化が高度ではなく、血栓形成量が乏しい場合です(この場合は、生体にとっては好都合です)(FDP(Dダイマー)低値の意味(図解33))。
しかし、FDP(Dダイマー)が上昇しないという現象は、全く別の状況でも発生するのです。
つまり、上図のように大量の組織因子(tissue factor:TF)が誘導され、高度な凝固活性化の結果として大量の血栓が形成された場合です。前回の記事とはまるで正反対の病態になります。
大量の血栓が形成されたとしましても、線溶阻止因子PAI(plasminogen activator inhibitor:プラスミノゲンアクチベータインヒビター)の過剰な発現がありますと、線溶に強い抑制がかかります。そのために、プラスミンはあまり産生されず、血栓の溶解が進行しにくくなります。
血栓が大量に形成されても(生体にとっては不都合な状態です)、線溶が抑制された状態では、FDPやDダイマーはあまり上昇しないのです。
と言う事は、FDPやDダイマーが上昇しない意義としましては。。。。 (続く)
以下で、DIC関連記事とリンクしています。
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 06:14
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播種性血管内凝固症候群(DIC):FDP(Dダイマー)低値の意味(図解33)
FDPやDダイマーは、DICの診断上、最も重要なマーカーの一つです。しかし、これらのマーカーの解釈には注意が必要です。
FDP(Dダイマー)が上昇しない時というのはどういう時でしょうか?
一つは、上図のような場合です。
つまり、凝固活性化が高度ではないために(トロンビン形成は少量であるために)、血栓の形成量が乏しい場合です。血栓量が少ない訳ですから、線溶活性化によりプラスミンが形成されても、血栓分解産物を反映するFDP(Dダイマー)の上昇は軽度にとどまるでしょう。
このような場合は、生体にとってはあまり不都合ではないことになります。
しかし、FDP(Dダイマー)が上昇しないという現象は、生体にとって好都合な場合ばかりではありません。実は。。。。。 (続く)
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 06:17
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