骨髄増殖性疾患:真性赤血球増加症、本態性血小板血症と血栓症(1)
骨髄増殖性疾患のうち、真性赤血球増加症(真性多血症:PV)、本態性血小板血症(ET)は、血栓症を発症しやすいことで良く知られています。
今回から、シリーズでお届けしたいと思います。
【はじめに】
慢性骨髄増殖性疾患(chronic myeloproliferative diseases:CMPD)のうち、特に真性赤血球増加症(polycythemia vera:PV)や本態性血小板血症(essential thrombocythemia:ET)は、血栓症や逆に大出血の発症が患者の予後を左右することがあります。そのため、血栓止血学的な管理は臨床的にとても重要と考えられます。
近年の慢性骨髄増殖性疾患関連の話題の一つとして、JAK2遺伝子変異を挙げることができます。
JAK2遺伝子変異は、JAK2のエクソン12上にある1,849番目の塩基がGからTに変異を生じており、その結果617番目のバリンがフェニルアラニンに変換(V617P)しています。
この変異は、慢性骨髄増殖性疾患の病態や診断の観点からも重要になってきていますが、血栓症との関連でも大変注目されています。特に腹腔内血栓症では血栓性素因検索の一環としてJAK2遺伝子変異をチェックすべきと考えられます。
【骨髄増殖性疾患とは】
慢性骨髄増殖性疾患は、造血幹細胞レベルにおける異常のために、一系統以上の骨髄系細胞が腫瘍性に増殖する疾患群です。
従来のCMPDは、以下の4疾患を含んでいました。
1)慢性骨髄性白血病(chronic myelogenious leukemia:CML)
2)真性赤血球増加症(polycythemia vera:PV)
3)本態性血小板血症(essential thrombocythemia:ET)
4)原発性骨髄線維症(primary myelofibrosis:PMF)
ただし、2001年の新WHO分類では、これらに以下の3疾患を加えて、7疾患としました。
1)慢性好中球性白血病(chronic neutrophilic leukemia)
2)慢性好酸球性白血病(chronic eosinophilic leukemia)
3)分類不能型
血球の増殖や分化は、サイトカインにより調整されています。
正常造血においてはエリスロポイエチンのようなサイトカインが受容体に結合しますと、受容体に会合しているJAK2がまず活性化されます。
活性化されたJAK2は下流のシグナル伝達分子をリン酸化して、サイトカインのシグナルを核に伝達し、サイトカイン反応性の細胞増殖を生じます。
ところが、真性赤血球増加症の95%以上、本態性血小板血症の約50%、原発性骨髄線維症の約50%ではJAK2に遺伝子変異が生じています。
その結果、サイトカインの刺激がない状態でもJAK2は常に活性化されるようになり、サイトカイン刺激によらない細胞の自律増殖が生じることになります。
なお、このあとのシリーズでで紹介させていただく文献の多くが海外からのものです。日本からの報告が少ないのです。
ですから、血栓症の発症頻度などで日本における実状とは若干異なる可能性がありますが、ご了解いただければと思います。
(続く)
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 04:40| 血栓性疾患 | コメント(0)