金沢大学・血液内科・呼吸器内科
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2009年11月20日

咳嗽、発熱、全身倦怠:金沢大学統合卒業試験

金沢大学医学部で先日行われた統合試験(卒業試験)のなかで、当科と関連のある血液内科、呼吸器内科領域の問題について問題紹介と解説を続けたいと思います。


【設問】

61歳、女性。
咳嗽、発熱および全身倦怠の精査のため、他院から紹介され受診した。

現病歴:
患者は、5月末から咳嗽が出現し、37℃台前半の発熱を認め、近医を受診した。感冒と診断され、感冒剤を処方されたが症状の軽快なく、マクロライド系の抗菌薬も処方されたが症状改善なく、全身倦怠もあり、食事がとれないとのことで近医に入院となった。

点滴にて抗菌薬投与などが行われ、数日で症状が軽快したため退院となったが、帰宅翌日に再び咳嗽と38.1℃の発熱を認め、呼吸困難も出現したために再入院となった。入院翌日には症状はすでに軽快していたが、精査を希望し、当院に紹介となった。

特に今まで病気の既往はないが、昨年も梅雨時期から8月末まで風邪気味ですっきりしなかったとのことであった。自宅は、木造築40年で、犬を飼っている。鳥の飼育歴はない。縫製の仕事を30年していたが、10年前に辞めており、以後は無職。夫と息子夫婦、孫と同居しているが、同様の症状の者はいない。

現症:
意識は清明。身長 156 cm、体重 58 kg。体温 36.5℃。呼吸数18回/分、SpO2 96%。脈拍 70回/分、血圧120 / 78 mmHg。
心音に異常なし。
呼吸音も正常で、副雑音は聴取しない。
腹部は平坦で圧痛や叩打痛はなく、肝・脾は触診しない。
下肢に浮腫を認めない。ばち指は認めない

入院時検査所見:尿所見:蛋白(-)、糖(-)。

血液所見:WBC 8,900 /μl (Neu 57 %, Eos 1 %, Bas 0 %, Mon 10 %, Lym 32 %), RBC 398x104 /μl, Hb 12.8 g/dl, Ht 38.5 %, Plt 29.5x104 /μl。

血清生化学所見:総蛋白7.3 g/dl (alb 48.4 %, α1-gl 3.4 %, α2-gl 10.4%, β-gl 7.7 %,  γ-gl 30.1 %)、BUN 12 mg/dl, Cr 0.7 mg/dl, AST 26 単位(基準40以下)、ALT 28 単位(基準35以下)、LDH 420 単位(正常176〜353)、ALP 167 単位(基準330以下), γ-GTP 18 単位(基準40以下), T-Cho 201 mg/dl, TG 144 mg/dl, Na 132 mEq/l, K 3.9 mEq/l, Cl 106 mEq/l, 赤沈(1時間値) 68 mm, CRP 1.7 mg/dl, FBS 112 mg/dl,フィブリノゲン 384 mg/dl、IgG  2,760 mg/dl、IgM  110 mg/dl、IgA  514 mg/dl、総IgE値 56 IU/ml、KL-6 2,820 U/L(基準 500以下)、SP-D 480 ng/ml(基準 110以下)、抗核抗体 <40倍、抗マイコプラズマ抗体 <40倍。
動脈血ガス分析所見: pH 7.41,Pco2 39.8 torr, Po2 71.2 torr,HCO3- 24.2 mmol/l。
喀痰検査:細菌培養 常在菌のみ、細胞診 陰性,結核菌の塗抹、培養、核酸増幅法ともに陰性、ツ反:陰性。 

胸部X線写真および胸部CT像を以下に示す。
 
過敏2
過敏1


1)最も考えられるのはどれか。
           
a 塵肺症                   
b 異型肺炎                   
c 粟粒結核       
d 夏型過敏性肺臓炎
e サルコイドーシス
                                                                   
2)診断のために追加の血液検査と気管支鏡検査を施行した。予想される結果はどれか。2つ選べ。
   
a 血清ACE値が上昇する。           
b    抗トリコスポロン抗体が陽性となる。
c 気管支肺胞洗浄液にてリンパ球が増加する。           
d 気管支肺胞洗浄液にてCD4/CD8比が上昇する。           
e 経気管支肺生検にて乾酪性肉芽腫を認める。


【解説】

教科書的な症例です。基本的な知識があれば、病歴の把握のみで、ほぼ診断が可能です。

また、画像も過敏性肺臓炎に特徴的なものであり、画像診断の能力も問われます。

あとは、疾患の基本的な知識を問うています。

設問1については、画像や一部の情報での思い込みがない限りは、ある程度正解することが可能と思われます。設問2については、語句やデータの正確な理解が必要な内容です。


【正答】

1)d
2)b、c



【リンク】

慢性咳嗽の診療

非小細胞肺癌治療の最前線

肺がんに気づくサイン

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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 08:57| 医師国家試験・専門医試験対策