妊娠と凝固活性化状態:プロトロンビンフラグメント1+2(F1+2)
妊娠経過に伴い(妊婦では)、凝固亢進(あるいは凝固活性化、止血能亢進)状態になることは良く知られています。
これは出産に伴う出血に対しての生体防御反応(出産時の出血に対する備え)としての意味合いを有しているものと解釈されています。
換言しますと、妊娠に伴い誰でも凝固亢進(あるいは凝固活性化)状態になりますので、データの解釈に注意が必要です。
以下は最近報告されたThromb Haemost誌のletter論文です。管理人はこの論文の主旨とは別の点で興味を持ちました。それは、妊娠経過に伴う凝血学的マーカーの推移です。
Endogenous thrombin potential, prothrombin fragment 1+2 and D-dimers during pregnancy.
著者名:Dargaud Y, et al.
雑誌名:Thromb Haemost 103(2): 469-71, 2010.
以下の記載内容はこの論文の主旨とは異なりますが、管理人が興味を持った部分です。
【妊娠経過とともに上昇する凝固因子】
第VII因子、第VIII因子、フィブリノゲン
(この論文では触れられていませんでしたが、von Willebrand因子も妊娠経過と共に上昇することが知られています)
一方、第II・V・IX・X・XI因子、アンチトロンビン(AT)には有意な変動はありませんでした。
【妊娠経過とともに上昇する凝固活性化マーカー】
プロトロンビンフラグメント1+2(F1+2)(正常値0.45〜1.2 nM)
(この論文での測定キットは、以前のもののようです。今のキットでの正常値は、50〜170 pMくらいです)
妊娠前期:1.5 nM前後
妊娠中期:3.5 nM前後
妊娠後期:5.5 nM前後(仮にF1+2の正常値を0.55nMとしますと、何と10倍にまで上昇していることになります)
管理人の施設でも、以前はF1+2の正常値0.45〜1.2(0.4〜0.8)のキットを使用していましたが、3〜5 nM以上というのは、播種性血管内凝固症候群(DIC)レベルです。
妊娠女性で測定したF1+2の成績をそのまま鵜呑みにしますと、妊娠後期では究極の血栓症とも言えるDICに匹敵する位の凝固活性化があるということになってしまします。
妊婦でのF1+2は、母体における凝固活性化状態を正確に見ているのではなく、他の要素によっても変動しているのかも知れません。
なお、この論文では、トロンビン-アンチトロンビン複合体(TAT)や可溶性フィブリン(SF)の成績は掲載されていませんでしたが、やはり興味のあるところです。できれば、後日この点に関しましても記事にできればと思っています。
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 04:52| 血栓性疾患