抗リン脂質抗体症候群の血栓症発症機序:小児APS(3)
aCL、抗β2GPI抗体、ループスアンチコアグラント:小児APS(2)より続く。
【血栓症の発症機序】
抗リン脂質抗体症候群(APS)(抗カルジオリピン抗体<aCL>、、ループスアンチコアグラント<LA>)における血栓形成機序はまだ明らかになっていませんが、いくつかの仮説が提唱されています。
一つの仮説は、aPLの標的抗原、特にβ2GPIの抗凝固作用が抗体の結合により阻害され血栓傾向をきたす、というものです。しかし、in vivoにおけるβ2GPIの抗凝固作用は重要ではなく、また先天性β2GPI欠損症(ホモ接合体)患者では血栓傾向がみられなかったことより、β2GPI機能障害のみでAPSの血栓傾向を説明するのは困難です。
近年提唱されているaPLの血栓原性機序は、以下のような考え方があります。
1)aPLが、β2GPIやプロトロンビンなどのリン脂質結合蛋白を介して血管内皮細胞、単球を活性化または障害する。
2)aPLが生体内凝固制御機構(活性化プロテインC系、アンチトロンビン系、アネキシンA5抗凝固系)を阻害する。
3)aPLが血小板に結合し活性化する。
4)aPLが補体を活性化する、などです。
特に最近の動向は、aPLによる細胞の活性化に関する研究が盛んです。
Matsuura E, et al.: Pathophysiology of β2-glycoprotien I in antiphospholipid syndrome. Lupus 19: 379-384, 2010.
in vitroにおいて抗β2GPI抗体がβ2GPIの存在下で血管内皮細胞を活性化して組織因子(TF)、接着因子(ICAM-1, VCAM -1,E-セレクチン) 、炎症性サイトカインの発現を誘導します。
このaPLによる細胞活性化には、NFκB、Ras-Erk、p38 MAPKなどのシグナル伝達経路の関与が明らかにされています(上図)。
Kinev AV, et al.: Tissue factor in the antiphospholipid syndrome. Lupus 17: 952-958, 2008.
また、血栓症のみならず不育症の原因として補体活性化が注目されており、aPLによる補体活性化が、C5aを介した好中球のTF発現を誘導します。
Ritis K, et al.: A novel C5a receptor-tissue factor cross-talk in neutrophilis links innate immunity to coagulation pathways. J Immunol 177: 4794-4802, 2006.
(続く)
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:28| 血栓性疾患