骨髄破壊的&非破壊的前処置:造血幹細胞移植入門(18)
全身放射線照射や大量抗がん剤治療により、骨髄中のがん細胞を正常な血液細胞とともに全滅させることを主眼に行われる前処置が、「骨髄破壊的(myeloablative)」前処置です。
移植前に「骨髄破壊(myeloablation)」することは造血幹細胞移植の原点であり、1980年代まで前処置は全てこの考えで行われていました。
「従来の移植(conventional transplantation)」と言えば、これを指します。
「ミニ移植」(後述)に対して、「フル移植」と呼ばれることもあります。
副作用も強烈で、おのずと造血幹細胞移植の対象も若く全身状態が落ち着いた患者に限られていました。
その後、レシピエントの免疫担当細胞を減らし働きを落とすことができれば、生着を果たせることが動物実験で明らかとなり、あえて骨髄を破壊尽くさない「骨髄非破壊的(nonmyeloablative)」前処置移植が開発されました(副作用とミニ移植:造血幹細胞移植入門(15))。
1990年代に始まったこの移植は、「ミニ移植(mini-transplant)」や「緩和的前処置(reduced-intensity conditioning)移植」などとも呼ばれ、前処置毒性の低さから、一気に広がりました。
海外では外来で移植を行う施設もあり、「ドライブスルー移植」と呼ばれることもあります。
ミニ移植により、従来は同種移植が不可能と考えられた60代や全身状態が不安定な患者にも、移植ができるようになりました。
白血病やリンパ腫、骨髄腫が60代以降に発症年齢のピークをむかえることも、ミニ移植が急激に増えた背景にあります。
小児を中心に若年急性白血病患者は、化学療法が効きやすく、そもそも造血幹細胞移植の適応とならない患者が多いです。
免疫抑制療法が確立している小児再生不良性貧血も同じです。
その結果、同種造血幹細胞移植は、ミニ移植が過半数を占めています。
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【リンク】金沢大学血液内科・呼吸器内科関連
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:19| 血液疾患(汎血球減少、移植他)