2011年01月29日
無菌室の効果:造血幹細胞移植入門(22)
造血幹細胞移植入門:無菌室の効果
ラミナエアフロー(laminar air flow: LAF)は、同種造血幹細胞移植患者におけるアスペルギルス感染予防効果が報告されています。Barnes RA, Rogers TR. Control of an outbreak of nosocomial aspergillosis by laminar air-flow isolation. J Hosp Infect. 1989;14:89-94.
しかし、他の真菌感染症や細菌感染症、ウイルス感染症の予防に関するエビデンスは乏しいです。
さらに、患者全員をLAFで管理しても生存率が向上しなかったことから、2009年に発表されたCDCやIDSAなどの合同ガイドラインでは、新しく移植センターを作る場合、LAFは必要ないと結論づけています。
Tomblyn M, Chiller T, Einsele H, et al. Guidelines for preventing infectious complications among hematopoietic cell transplantation recipients: a global perspective. Biol Blood Marrow Transplant. 2009;15:1143-1238.
一方、LAFで移植した患者の感染症死亡が有意に低下したという報告があり、アスペルギルス感染症のリスクが高い患者は積極的にLAF室を考慮すべきと思われます。
<アスペルギルス感染症の危険因子>
1. 2週以上の好中球500/μL以下
2. 3週以上のステロイド投与
3. 4週以上の免疫抑制薬投与
4. 造血幹細胞移植
5. 臓器移植
6. 移植片対宿主病
7. 低栄養
8. HIV感染
9. 病院の改築・改修工事
Passweg JR, Rowlings PA, Atkinson KA, et al. Influence of protective isolation on outcome of allogeneic bone marrow transplantation for leukemia. Bone Marrow Transplant. 1998;21:1231-1238.
なお、自家造血幹細胞移植患者のLAF使用は推奨されていません。
Tomblyn M, Chiller T, Einsele H, et al. Guidelines for preventing infectious complications among hematopoietic cell transplantation recipients: a global perspective. Biol Blood Marrow Transplant. 2009;15:1143-1238.
Dadd G, McMinn P, Monterosso L. Protective isolation in hemopoietic stem cell transplants: a review of the literature and single institution experience. J Pediatr Oncol Nurs. 2003;20:293-300.
ただし、欧米と異なり高温多湿地域が多く、しかも最近はやや下火とは言え、道路・建設工事が密集している日本は、同種造血幹細胞移植患者以外でも、LAFが有効に機能していると考えられます。
なお、LAF室を新規に設ける場合、無菌治療室管理加算を取得できる部屋にすべきです。
<無菌治療室管理加算>
1)抗がん剤治療や免疫抑制療法など治療上の必要があり、無菌治療室での管理が行われた入院患者に認められる加算のこと。
2)1日につき3,000点、90日まで認められる。
3)無菌治療室の条件は以下の通り
・滅菌水の常時供給
・室内の空気清浄度がクラス10,000以下
・立入・物資供給後も無菌状態が保てる(前室など)
病院の改築・改修工事があると、血液がんなど免疫不全の患者における真菌感染症(特にアスペルギルス感染症)が増加します。
その場合、HEPAフィルターやLAFによるアスペルギルス感染予防効果が報告されています。
Barnes RA, Rogers TR. Control of an outbreak of nosocomial aspergillosis by laminar air-flow isolation. J Hosp Infect. 1989;14:89-94.
Alberti C, Bouakline A, Ribaud P, et al. Relationship between environmental fungal contamination and the incidence of invasive aspergillosis in haematology patients. J Hosp Infect. 2001;48:198-206.
なお、隔離予防策に、voriconazoleかcaspofunginの予防的抗真菌療法を加えることにより、病院改築中でも、急性白血病患者における侵襲性アスペルギルス症発症率は12%から4.5%に低下したという報告があります。
Chabrol A, Cuzin L, Huguet F, et al. Prophylaxis of invasive aspergillosis with voriconazole or caspofungin in patients with acute leukemia during building works. Haematologica. 2009:haematol.2009.012633.
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【リンク】金沢大学血液内科・呼吸器内科関連
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:38| 血液疾患(汎血球減少、移植他)