HIV感染症と静脈血栓塞栓症(VTE)
今回紹介させていただく論文は、HIV感染症と、静脈血栓塞栓症(VTE)、凝固検査の関連を検討した報告です。
「HIVに感染した南アフリカ人に対する抗レトロウイルス多剤併用療法が血管内活性化&凝固マーカーに及ぼす影響」
著者名:Jong E, et al.
雑誌名:Thromb Haemost 104: 1228-1234, 2010.
<論文の要旨>
HIVに感染した者は、静脈血栓塞栓症(VTE)に罹患しやすいことが知られていますが、抗レトロウイルス多剤併用療法(cART)が凝固マーカーに及ぼす影響をみた報告はありません。
著者らはHIV感染者に対してcARTを開始し、血管内皮活性化や凝固・抗凝固因子に与える影響を検討しました(HIV非感染の病院スタッフと比較)。
無症候性の深部静脈血栓症(DVT)を評価するために下肢静脈エコーも行われました。
対象は、HIV感染症123例です。
症例はほとんど黒人であり、高度の免疫不全状態にありました。
cART開始後に、CD4数は上昇し、HIVウイルス量は低下しました(7.2±1.6ヶ月の経過観察)。
HIV感染症においては非感染者と比較して、cART開始前に、血中VWF活性、Dダイマーは上昇し、活性化プロテインC sensitivity ratio (APC sr)は上昇し、総&遊離プロテインSおよびプロテインC活性は低下していました。
cART開始後は、APC srを除く全てのマーカーが改善傾向を示したが、完全には正常化しませんでした。
57例のサブグループでは、無症候性のDVTは検出されませんでした。
以上、HIV感染者においては凝固異常が高頻度にみられ、cART開始により軽快はするものの正常化はせず、止血バランス障害が持続するものと考えられました。
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:04| 血栓性疾患