金沢大学・血液内科・呼吸器内科
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2011年06月15日

勤務医から開業医へ辿りついた道(1) by 金沢大学第三内科OB


金沢大学第三内科OBによる記事をシリーズでアップさせていただきます。

将来、開業を考えている方にも、勤務医を考えている方にも、とても参考になるのではないかと思います。


勤務医から開業医へ辿りついた道(1)

先日夢を見た。夢の中では、開業医であるはずの私が何故か勤務医に戻ることになって、とある所に引越しを慌しくしていた。

引越しが落ち着いて明日から勤務開始だと考えている矢先に、突然勤務予定の病院からの電話が鳴った。前任医師から引き継ぎ予定の患者の病状が悪化し急変したので今すぐ対処してほしい、とのナースからの連絡であった。『どうなっているのだ?前任者の患者や家族への対応はちゃんとできているのか?もし何かあったら、訴訟にならないのか?』などといろんな思いがこみ上げてきて目が覚めた。


勤務医をやめ、外来のみの診療所を開業して2年半あまり。久しぶりに勤務医時代の心の葛藤の一端を思い出した。

振り返ると、20年余りの勤務医生活を経験してきた。市中の基幹病院での勤務がほとんどだったので、ここ20年間の勤務医、特に過重労働の最たる病院勤務医の勤務状況の変化は身を持って感じてきた。

私が病院勤務し始めの頃は、まだ経験も浅かったせいか、一つ一つが新しく新鮮な出会いと経験であり、病院における専門医として地域の医療を担っていく気概を持って診療に臨んでいた。新たな医学の知見の一端となりそうな稀な症例に出くわした時には、内心わくわくしながら診療に当たり、学会に発表したり、国内外の学会雑誌に投稿したりしたことが懐かしく思われる。

年齢が若かったせいもあり、重症患者などで過酷な勤務になることがある程度の期間続いても、一晩熟睡できれば回復していた。当時は、当直の時に数時間ほど睡眠を取れる日もあり、時間的には一年中多忙と感じる程ではなく、生涯を病院勤務医として終えることに抵抗は感じていなかった。

しかし勤務医を辞める5〜6年前から、勤務情況は徐々に厳しい環境へと変化を遂げていった。その当時の自身の日課を振り返ると、外来や救急などdutyがある日には、早朝から病棟患者をすばやく回診して病棟業務をほぼ終えておかないと、深夜まで帰宅できないほどの忙しさであった。

その頃から患者も医師も年々専門医志向の傾向が強くなってきて、外来診察日には専門外来を希望して朝一番から軽症から重症の患者が外来に溢れていて、診察まで半日ほど待たせるのは当たり前。しかし患者ひとりに費やす診療時間は数分ほどしかとれず、表面的で義務的な対応に終始していた。

また地域の医療機関からも専門医診察目的で患者が多数紹介されてきたが、重症例が多く占めるので医療ミスが起こらないか内心不安に怯えながら、一例一例のインフォームド・コンセントICに多くの時間が費やされた。

地域の基幹病院が少ないため、他に紹介できる専門医療機関が皆無に等しく逃げ道がない状況であり、どんどん重症患者が蓄積されていき、大きな重圧感を感じていた。また世間では患者の権利意識の高まりもあり、病院内での医療トラブルが頻繁に起こるようになっていた。

実際、病院内の同僚の医師たちが訴訟に巻き込まれたりすることが幾度かあり、私自身も重症患者の急変時の対応の際に、訴訟すれすれで、冷や汗をかくことを何度か経験した。

自身の外来の終了時間は早い日で15時ごろ、遅い日には18時ごろまで、全く休憩なく外来をこなした。外来終了後は、10分ほどパンをかじってからすぐに病棟へ赴く。病棟では、回診の残りや患者や家族へのIC、処置、検査、書類記載などをめまぐるしくこなして、気付くと夜になっていた。

夜は夜で自宅に帰っても気持ちは休まらない。患者の急変がしょっちゅうあり、週に1〜2人は死亡診断書を書いていた。また自分の担当患者が落ち着いていても、夜間の救急患者が唯一の基幹病院へ搬送される関係で、自分の専門分野の重症患者の場合には容赦なく呼び出し。そのために自宅に帰ってもいつ呼び出しがあるかわからず、終始緊張した状態で睡眠するので、熟睡ができない状態が続いた。

夜呼ばれる心配がなく、布団の上で安心して眠れることが当たり前でないと思えた。その頃の当直勤務では一晩中患者が来院して一睡もできず、翌日も通常勤務が続くため、48時間連続勤務は日常茶飯事。過重労働に対して、病院全体の改善や自身の待遇改善のために上司に再三提言しても受け入れられず、悶々とする日々が続いた。

逃げ道のない自身のつらさが上司に理解されていないと感じ、上司に感情をぶつけることが出始め、長年母校のように愛着を持っていた病院を去る気持ちが徐々に大きくなっていった。
 
 
 
 
 【リンク】

血液凝固検査入門(図解シリーズ)

播種性血管内凝固症候群(DIC)(図解シリーズ)

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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:24| その他