金沢大学・血液内科・呼吸器内科
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2011年06月17日

勤務医から開業医へ辿りついた道(3) by 金沢大学第三内科OB


勤務医から開業医へ辿りついた道(2) by 金沢大学第三内科OBより続く


勤務医から開業医へ辿りついた道(3)

開業した当初、ある患者から「開業して、一国の主になったのだから、何でも自分の思い通りにできていいね?」といわれた。そう云われた時、そのように外からは見えるだろうが、実際には違うと思った。                                             

経営する立場になってみて、いろいろなことが見えてくるようになった。

開業前に読みあさった経営本(そうなんだ!診療所経営(日本医事新報社、原田裕士著)。以下、本文中の<>は同書籍からの引用)を読み直してみると、今の自分の心境が吐露されているようである。

例えば、勤務医時代には認識していなかったことだが、<医療機関は患者がいてこそ成り立つ。言い換えれば医療機関とは世間や地域地元との共生の上に成り立っていて、患者とは基本的に持ちつ持たれつの関係であること。医者と患者の間に診てあげる、診てもらうという関係は厳然と存在するが、医者と患者の関係は縦ではなくて横の関係であるということ>に、以前ははっきりと気付いておらず、自分がいれば成り立つと思っていたような気がする。

開業してみて、<世間の人が医師に望むのは、偉い存在ではなく、「信頼できるか、腕がいいか」ということであり、医師とは「患者と同様の医師という資格を持つ人」との認識であるのだ。病院へ勤務していた勤務医の場合、ある程度大きな組織にある意味保護されており、その組織内で大過なく過ごせばそれなりの評価がなされるが、開業すればその評価は世間がダイレクトに行うことになり、世間の流れが速く厳しいもの>に感じられるようになった。

つまり診療所経営とは世間とのかかわりをより深めてゆくことが肝要と思われる。

開業後に自分自身で心がけているのは、患者を義務的に診るというスタンスではなく、医師という心の垣根を取り外して、患者を自身の家族や親戚、友人のごとく認識して、親近感、信頼感を培っていけるように診療に臨むことであり、それにより徐々に患者との心の距離が狭まり、たとえ短い診察時間であっても、診療所に対する信頼獲得につながっていくと考えられる。


また<開業して一番大変なことは職員の問題であると、多くの先輩医師からいわれ、また自身もまさに「経営とは人なり」>と思われる。

人を採用し、使うことが如何に難しいか。<診療所という仕事の場においても、そこに勤務する職員それぞれの色々な想いが渦巻いている。いつもどこかで渦巻いているそれぞれの想いによって各種の問題が発生し、経営者を悩ますことになる>。

サボタージュしているのに、自分では「一生懸命やっているのに周囲は評価していない」と勘違いしている看護師。看護師不足なので、辞めさせるに辞めさせられない。またそのサボる職員を見て非難する周囲の職員。その非難している職員も、他の点で足りないこともあり、経営者の立場からは、五十歩百歩のような仕事ぶりに見えることもある。

その傍ら、サボる職員を責めることなく、本当に献身的に勤務に黙々と励んでくれるパートの職員もいる。私自身も、働かない職員が常勤勤務であるが故、パートより何倍も多くの賃金を払うことに矛盾を感じ、その従業員を陰で批判していたこともあった。

しかし、やがてその人を通して自分が勤務医時代に上司に向けていた態度の不遜さに気がつき、他山の石とすることで自分の心の持ち方が変化していった。

そしてそれに符合するかのように、その職員の態度も少しずつ改善するようになってきた。

また家庭を持つ女性ばかりの職場なので、家の私用などで突然欠勤になることがたびたびある。勤務に支障は出るが、無理を強いることはできない。<職員は使い捨てカイロのような消耗品ではなく、見方を変えれば貴重な財産であること>も教えられた。

また職員を通して、自身の“人を見る目”が養われて、自身の未熟さを治して成長させていく機会なのかもしれないとも思われる。

結局、診療所の経営を考えつつ、十人十色の職員の意見に耳を傾けつつ、職員を如何に大事にしてそのスキルアップを図っていけるかどうかが、経営者として問われている気がする。
 
 
 
 
 【リンク】

血液凝固検査入門(図解シリーズ)

播種性血管内凝固症候群(DIC)(図解シリーズ)

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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:43| その他