金沢大学・血液内科・呼吸器内科
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2012年09月02日

PNHと血栓症(1):発作性夜間ヘモグロビン尿症

発作性夜間ヘモグロビン尿症(発作性夜間血色素尿症)(PNH)と血栓症の記事をアップしてまいります。


<PNHとは>

発作性夜間ヘモグロビン尿症(paroxysmal nocturnal hemoglobinuria:PNH)は、補体依存性赤血球膜破壊に起因する後天性血管内溶血性疾患です。

病名の由来である早朝の黒褐色尿(ヘモグロビン尿)を契機に発見される患者は少ないです。

血管内溶血、造血不全、血栓症を3主徴とします。


造血幹細胞のPIG-A遺伝子に後天的遺伝子変異が生じますと、顆粒球や赤血球のグリコシルフォスファチジルイノシトール(Glycosyl phosphatidylinositol:GPI)アンカーが欠損します(PIG-A遺伝子は、GPIアンカーの合成に不可欠です)。

Takeda J, Miyata T, Kawagoe K, et al. Deficiency of the GPI anchor caused by a somatic mutation of the PIG-A gene in paroxysmal nocturnal hemoglobinuria. Cell. 1993; 73: 703-11.

PIG-A遺伝子変異を有する造血幹細胞がクローン性に拡大すると、PNHを発症します。

Parker CJ. Paroxysmal nocturnal hemoglobinuria. Curr Opin Hematol. 2012; 19: 141-8.

GPIアンカーは、GPIアンカーに結合する蛋白質(GPIアンカー型蛋白)の細胞膜表面への局在に必要です。

赤血球は常に補体の攻撃に曝されていますが、健常者の場合、赤血球膜表面上のGPIアンカー型蛋白であるCD59&CD55(補体制御蛋白)により保護されています。

しかし、PNH赤血球では、CD59やCD55の全部あるいは一部が欠損しているため、感染症などを契機とした補体活性化時に溶血をきたします。

現在、補体C5に対するヒト化モノクローナル抗体であるエクリズマブが、PNHに対して臨床の場で使用されるようになり、PNHの予後は飛躍的に向上しました3)。

Röth A, Dührsen U. Treatment of paroxysmal nocturnal hemoglobinuria in the era of eculizumab. Eur J Haematol. 2011; 87: 473-9.


PNHの発症頻度は欧米では100万人あたり15.9人、日本では推定有病者数は100万人あたり3.6人と報告されています。

大野良之:「特定疾患治療研究事業未対象疾患の疫学像を把握するための調査研究班」平成11年度研究業績集−最終報告書− 平成12年3月発行(2000年).


(続く)

PNHと血栓症(2):血栓症の頻度

 

<リンク>

血液凝固検査入門(図解シリーズ)
播種性血管内凝固症候群(DIC)(図解シリーズ)
金沢大学血液内科・呼吸器内科HP
金沢大学血液内科・呼吸器内科ブログ
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:33| 血栓性疾患