多発性骨髄腫、サリドマイドと血栓症(1)
多発性骨髄腫、サリドマイドと血栓症(1)
多発性骨髄腫は、M蛋白が上昇するため血液粘度が上昇し、易血栓状態になるものと指摘されてきましたが、それ以外にも血栓傾向となる機序がいくつか指摘されています。
M蛋白の向凝固作用やフィブリン構造への干渉、活性化プロテインC抵抗性、血管内皮障害、炎症性サイトカイン産生亢進による凝固活性化、von Willebrand因子の上昇、プロテインS活性の低下などです。
Zangari M, et al. The blood coagulation mechanism in multiple myeloma. Semin Thromb Hemost. 2003; 29: 275-282.
Auwerda JJ, et al. Prothrombotic coagulation abnormalities in patients with newly diagnosed multiple myeloma. Haematologica. 2007; 92: 279-280.
多発性骨髄腫症例での静脈血栓塞栓症の発症頻度は、報告によって幅はあるものの3〜10%とされています。
Srkalovic G, Cameron MG, Hussein MA, et al. Monoclonal gammopathy of undetermined significance and multiple myeloma are associated with an increased incidence of venothromboembolic disease. Cancer. 2004; 101: 558-566.
Facon T, Mary JY, Avet-Loiseau H, et al. Melphalan and prednisone plus thalidomide versus melphalan and prednisone alone or reduced-intensity autologous stem cell transplantation in elderly patients with multiple myeloma (IFM 99-06): a randomised trial. Lancet. 2007; 370(9594): 1209-1218.
ただし、これらは海外での成績であり、本邦での発症頻度はこの数字と同じかどうかは不明です。
近年、多発性骨髄腫に対して血管新生抑制作用も期待されているサリドマイドやその誘導体であるレナリドマイドが投与されることが多くなりました。
これらの薬剤は、単独で用いた場合には血栓症の発症を増加させることはありませんが、デキサメタゾンやアントラサイクリン系薬剤など他の薬剤を併用することで、静脈血栓塞栓症の頻度を有意に増加させることが知られています。
Palumbo A, et al. Prevention of thalidomide- and lenalidomide-associated thrombosis in myeloma. Leukemia. 2008; 22: 414-423.
Gieseler F. Pathophysiological considerations to thrombophilia in the treatment of multiple myeloma with thalidomide and derivates. Thromb Haemost. 2008; 99: 1001-1007.
この傾向は、特に新規診断症例において顕著となっています。
その他にも、サリドマイドおよび誘導体治療関連の静脈血栓塞栓症発症リスクを高めるのではないかと現在考えられている要因として、サリドマイドが高用量であること、デキサメタゾンが高用量であること、アントラサイクリン系薬物が併用されていること、エリスロポエチン製剤の使用、一般的な血栓症の危険因子を有していること(血栓症の既往、経口避妊薬の内服、Factor V Leiden、寝たきりなど)などが知られています。
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:02| 血栓性疾患