多発性骨髄腫、サリドマイドと血栓症(3)
多発性骨髄腫、サリドマイドと血栓症(3)
サリドマイド単独では血栓症を発症させることはありませんが、デキサメタゾンやアントラサイクリン系薬剤などの血管内皮を障害させる薬剤の使用とともにサリドマイドを使用するとサリドマイド特有の向血栓機序が作用するということかもしれません。この点については、なお検討すべき課題です。
Gieseler F. Pathophysiological considerations to thrombophilia in the treatment of multiple myeloma with thalidomide and derivates. Thromb Haemost. 2008; 99: 1001-1007.
さて、多発性骨髄腫におけるサリドマイド(誘導体)関連血栓症の予防ですが、静脈血栓塞栓症の予防のための抗血栓療法は、理論的には抗血小板療法ではなく抗凝固療法が有効と考えられます。
朝倉英策. 止血の生理と血栓の病態. 朝倉英策編(編集). 臨床に直結する血栓止血学. 東京, 中外医学社; 2013: 2-11.
しかし、この考え方は何故か実臨床でそのまま当てはまりません。
初発かつサリドマイドを含む治療を受ける骨髄腫659症例を対象として、アスピリン(100 mg/日)、固定用量の少量ワルファリン (1.25 mg/日)、 低分子ヘパリン (エノキサパリン 40 mg/日)のいずれかの抗血栓療法を行って比較試験を行った報告があります(明らかに抗血栓療法が必要な症例は除外されています)。
Palumbo A, et al. Aspirin, warfarin, or enoxaparin thromboprophylaxis in patients with multiple myeloma treated with thalidomide: A phase III, open-label, randomized trial. J Clin Oncol 2011; 29:986–993.
その結果、臨床試験期間の6ヶ月間で、43/659(6.5%)の症例で重症の血栓塞栓症、心血管血栓症、突然死が見られています。
アスピリン群では6.4%、ワルファリン群では8.2%、低分子ヘパリン群では5.0%であり、低分子ヘパリン群では若干予防効果が高いものの有意差とはなっていません。
経口薬で血栓症の発症を予防できるメリットは大きいと考えられます。
なおこの報告では、ワルファリンは少量固定用量で設定されていますが、ワルファリン1.25 mg/日では全く抗凝固活性が期待できない症例がほとんどですから、INRでコントロールした場合にはさらに有効であったのではないかと推測されます。
管理人の私見ですが、少量ワルファリン固定用量1.25 mg/日はほとんどプラセボ群の近いのではないかと考えられます。
VTE予防の観点から、ワルファリンがINRで治療域にコントロールされて投与されれば、アスピリンよりも劣るとは到底思えません。
また、同様に初発かつレナリドマイドを含む治療を受ける骨髄腫342症例を対象として、アスピリン(100 mg/日)、低分子ヘパリン (エノキサパリン 40 mg/日)のいずれかの抗血栓療法を行って比較試験を行った報告もあるありますが、静脈血栓塞栓症の発症は、アスピリン群2.27%、低分子ヘパリン群1.20%と低分子ヘパリン群で若干有効ではあるものの、これも有意差となっていません。
Larocca A, et al. Aspirin or enoxaparin thromboprophylaxis for patients with newly diagnosed multiple myeloma treated with lenalidomide. Blood. 2012; 119: 933–939.
この報告でもINRでコントロールしたワーファリン群も設定して欲しかったところです。
さらに、サリドマイド、レナリドマイドともに今後は新規経口抗凝固薬の有用性についての検討も待たれます。
次回に登場するガイドラインでは、新規経口抗凝固薬について記載されたものを期待したいです。
Lyman GH, et al. Venous thromboembolism prophylaxis and treatment in patients with cancer: American Society of Clinical Oncology clinical practice guideline update. J Clin Oncol. 2013; 31: 2189-2204.
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:31| 血栓性疾患