L-アスパラギナーゼと血栓症(3)抗凝固療法
L-アスパラギナーゼと血栓症(2)副腎皮質ステロイドより続く。
L-アスパラギナーゼと血栓症(3)抗凝固療法
L-アスパラギナーゼに伴う血栓症予防目的に、理論的には低下したアンチトロンビンを是正するためにアンチトロンビン濃縮製剤が有効ではないかと考えられますが、臨床的意義を有意差を持って実証した報告はありません。
Gugliotta L, et al. Hypercoagulability during L-asparaginase treatment: the effect of antithrombin III supplementation in vivo. Br J Haematol. 1990; 74: 465–470.
Nowak-Gottl U, et al. Inhibition of hypercoagulation by antithrombin substitution in E. coli L-asparaginase-treated children. Eur J Haematol. 1996; 56: 35–38.
Mitchell L, et al. Trend to efficacy and safety using antithrombin concentrate in prevention of thrombosis in children receiving L-asparaginase for acute lymphoblastic leukemia. Results of the PAARKA study. Thromb Haemost. 2003; 90: 163–164.
また、アンチトロンビン濃縮製剤は高価な薬剤である点、保険適用はDICと先天性アンチトロンビン欠損症のみである(後天性アンチトロンビン欠損症には適用できない)点から、現在安易に処方できる環境にはありません。
前述の新鮮凍結血漿による予防は低下した凝固因子と凝固阻止因子の両者を補充する観点から理にかなっていますが、新鮮凍結血漿輸注によってアンチトロンビン活性やフィブリノゲン活性が是正されない輸注法であっても静脈血栓塞栓症の発症は有意に低下しています(6% vs. 19%)。
Lauw MN, et al. Venous thromboembolism in adults treated for acute lymphoblastic leukaemia: Effect of fresh frozen plasma supplementation. Thromb Haemost. 2013; 109: 633-642.
この点、単純にアンチトロンビン活性などの凝固阻止因子活性低下のみが血栓症発症に関与している訳ではないのかもしれません。
その他には、血栓症発症のリスクが高いと考えられる症例に対して血栓症の一次予防を目的としたヘパリン類(低分子ヘパリン)を投与する試みはあるものの、エビデンスレベルの高い臨床試験はありません。
Elhasid R, et al. Prophylactic therapy with enoxaparin during L-asparaginase treatment in children with acute lymphoblastic leukemia. Blood Coagul Fibribolysis. 2001; 12: 367–370.
血栓症の二次予防を目的とした場合には、ヘパリン類投与の有効性を示した報告もあります。
Qureshi A, et al. Asparaginase-related venous thrombosis in UKALL 2003- re-exposure to asparaginase is feasible and safe. Br J Haematol. 2010; 149: 410–413.
ただし、L-アスパラギナーゼによってアンチトロンビン活性が低下しているためにヘパリン類による抗凝固療法が最適とはいいがたいです(ヘパリン類の抗凝固活性はアンチトロンビン依存性です)。
我が国では現在心房細動に対して処方頻度が増加している新規経口抗凝固薬(ダビガトラン、リバーロキサバン、アピキサバン、エドキサバン)が有用である可能性があります。
朝倉英策. 新規経口抗凝固薬(NOAC). 朝倉英策編(編集). 臨床に直結する血栓止血学. 東京, 中外医学社; 2013: 321-329.
この点は、今後の検討課題です。
L-アスパラギナーゼに伴い血栓症を発症してしまった場合には、静脈血栓症であればヘパリン類による治療を行うことになりますが、アンチトロンビン活性が低下している場合には十分な効果を期待できない可能性が高いです。
治療の場合も、新規経口抗凝固薬が理論的には有効である可能性がありますが、今後の展開を期待したいと思います。
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:38| 血栓性疾患