呼吸器グループ

呼吸器グループ

平成27年の呼吸器グループでは相も変わらず3本の矢をモットーに診療・研究・教育に当たっています。私(笠原)が引き続きチーフを務めさせていただいています。大学のスタッフにも昨年と変更なく、阿保未来先生、木村英晴先生、曽根崇先生、原丈介先生)と計5名のスタッフを中心に呼吸器グループの運営、研究、教育、診療にあたっています。今年度は、谷村航太先生(平成25年金沢大学卒)、網野喜彬先生(平成25年金沢大学卒)、小川先生尚彦(平成25年金沢大学卒)が大学で後期研修を始めることになりました。いずれ劣らぬ優秀な人材で将来を嘱望しています。谷村先生、小川先生は石川県立中央病院で、網野先生は福井県済生会病院での初期研修を終えて本格的な呼吸器内科の研修を開始しました。米田太郎先生、渡辺知志先生も病棟担当、外来勤務に忙しい中学位の仕上げをしているところですし、西川晋吾先生、木場隼人先生、酒井珠美先生には診療をしながら学位研究をしてもらっています。総勢で12名、多くはありませんが、時に楽しく、時に厳しく、忙しい日々を送っています。肺癌グループ、間質性肺疾患グループ、気道疾患グループと表現型は分かれていますし、それぞれの個性を発揮して活動していますが、もとは呼吸器内科ですし、診療、研究の手法もかなり似通ってきています。これらを統一して限られたマンパワー、時間、研究費を共有していきたいと考えています。

1、肺癌グループ

肺癌グループの活動は基礎研究か臨床に近づいてきました。EGFR遺伝子変異が日常臨床に欠かすことができなくなり、ALK融合遺伝子検査も活発に行われるようになりました。それに比例して分子生物学的知識が必要となり、基礎研究の知識・経験が臨床にも必要になってきています。このような現状で肺癌の診療は年々変化しているということを日々実感します。このような中で行われる臨床研究の一つのスタイルとしてglobal studyがあります。現在のglobal studyにおける日本の立ち位置ですが、研究全体の10%強を日本の症例で行うというのが主流です。たとえば1000例規模のstudyがあるとすると日本の症例はその10分の1強、100例ちょっと、ということになります。金沢大学呼吸器内科では数多くの臨床試験に参加できるようになりました。本邦で行われている大規模臨床試験の約半分の研究には参加しています。今年度は教室の医局員のみなや、CRC,看護士さん協力もあってRamcirumabの第II相試験で国内3位となりました。これにより治験結果を2015年のヨーロッパ臨床腫瘍学会で発表することになっています。これも今まで病棟を担当している研修医、指導医、教官、外来担当医がすべて一致協力してくれた賜物と思っています。またin house(グループ主導)の臨床試験として、EGFR遺伝子変異陰性非小細胞肺癌に対するErlotinibの有用性予測因子を探索する第II相試験、高齢者非小細胞肺がんに対するPEMとPEM+ベバシズマブの無作為化第II相試験など進行してきています。肺癌化学療法は個別化医療へと向かっていると考えられますので、我々独自のデータを発信できるように皆、頑張っています。米田先生はcMet蛋白の過剰発現とTopoisomerase Iの関連についてさらに研究を発展させています。もう少しで論文が出来上がることでしょう。西川先生は血漿からDNAを抽出し、EGFR遺伝子解析を行っています。この手法は木村先生をはじめ長く我々の研究室で行ってきた手法であり、これを新しい技術を用いて再解析、精度を高めるものです。従来の報告よりも高い感度・特異度が得られるようになり、論文投稿中です。木場先生は初診時の検体を、デジタルPCRを用い再解析して、耐性機序の予見ができないかと研究を続けています。

2、間質性肺炎グループ

間質性肺炎の領域は、ピルフェニドン(商品名ピレスパ)が2008年に日本より発売され、これまで治療法がなかった特発性肺線維症(IPF)の世界に大きな変化が生まれました。また本年度は第二の治療薬であるニンデタニブ(オフェブ)が臨床応用されるに至りました。ニンテダニブはマルチキナーゼ阻害剤でいくつものチロシンキナーゼの阻害活性を有しています。中でもPDGF受容体阻害、VEGF受容体阻害が注目されており、この薬剤も新しい有用性をもたらすことでしょう。研究面では従来続けてきました。渡辺先生の閉塞性細気管支炎モデルと線維細胞(fibrocyte)の研究がほぼ終了し、論文を投稿しているところです。きっと良い雑誌に掲載されることと思います。

3、気道疾患グループ

慢性咳嗽、気管支喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)に関して基礎的・臨床的研究を継続しています。咳嗽は、最も多い症状の一つであるにもかかわらず、その発生機序については未解明な所が多く課題の多い分野です。岡崎先生が行った実験を酒井先生が継続しています。不慣れな実験にも前向きに取り組んでおり来年には良いご報告ができるものと思います。臨床研究も準備中であり、九州大学の研究室との共同研究がまとまりつつあります。呼吸器グループの先生方にはまたご協力をお願いすることになると思います。

呼吸器内科は患者様が多く、また重症であることも加わって、肉体的にも精神的にもタフな仕事だと思います。その分、やり甲斐のある仕事だと思っています。社会的なニーズも多く、関連施設の先生方からはもっと医師を派遣するようにという、お叱りに近いご要望も多くいただいております。大学のスタッフ一同はBSLに回ってくる学生(5年生)、クリニカルクラークシップ(6年生)から、初期研修医、後期研修医の指導を積極的に行い、呼吸器内科の“おもしろいところ”、“やり甲斐”をわかってもらいたい、そして将来呼吸器内科を志望するように目指しています。これらの活動は非常に重要で、将来にわたり北陸地区の呼吸器内科診療を、我々が中心的存在として支える上では必須です。今後もご指導ご鞭撻をお願いいたします。

(文責:笠原寿郎)