血液内科

急性骨髄性白血病の治療

急性骨髄性白血病(AML)の治療は、化学療法とさまざまな方式の造血幹細胞移植療法を適切に組み合わせることにより治癒を目指して行われる。AMLの治療戦略は、予後因子に基づいて治療反応性を予測し、患者をいくつかのサブグループに層別化することにより、きめ細かく治療方法を工夫する方向へと向かっている。
AML治療の概観(図1)
 寛解導入療法はanthracycline系薬剤とシタラビン(Ara-C)の併用療法が標準である。
 イダルビシン(IDR)とダウノルビシン(DNR)の効果を比較したmeta-analysisでは、IDRがCR率(62% vs 53%)で有意に優れ、無病生存(DFS)率(14.5% vs 10.5%)でも優れている傾向が示されている。
 日本成人白血病治療共同研究グループ(Japan Adult Leukemia Study Group: JALSG)の報告では、DNRもIDRもさらに高いCR率(75~80% vs 79~82%)とDFS率(25~44% vs 26~30%)が報告されており、
 meta-analysisの報告と異なって両者間に差を認めていない。これは、欧米でのDNRの総投与量が135~150mg/m2であるのに対し、JALSGでのDNRの投与量の中央値が240mg/m2と多いことが一因であろうと思われる。
JALSGが行ったAML201研究(図2)では、投与量を増やしたDNR(250mg/m2)は通常量のIDRに劣らないことが示されている。
寛解後療法
 寛解後療法は、交差耐性の少ないanthracycline系薬剤を組み合わせて用いる通常の化学療法、Ara-C大量療法および造血幹細胞移植療法が行われている。従来行われていた維持療法は行われなくなった。
Ara-C大量療法(HD-AC)
 寛解後療法は、HD-ACの登場により大きく変化した。Ara-CとDNRによる寛解導入療法後、寛解例をAra-C 100mg/m2、400mg/m2および3g/m2の3群に無作為に割り付けて4コース施行した試験の結果では、
 4年DFS率(順に21%、25%、39%)、4年全生存(OS)率(順に31%、35%、46%)ともに大量療法(HD-AC)(3g/m2)群で有意に優れていた。この効果はとくに60歳以下の症例で認められ、61才以上の症例では30%に重篤な中枢神経系副作用が出現するため注意が必要である。
 HD-ACの効果はt(8;21)やinv(16)の染色体異常を持つ白血病(Core Binding Factor(CBF)白血病)でもっとも高く、5年DFS率は78%に達している。核型正常群でもその効果は認められ、5年DFS率は40%であるが、その他の染色体異常群では5年DFS率は21%と悪く明らかな効果は認められなかった。
さらに、HD-ACを3回以上施行された症例で明らかに予後が改善することも報告されている。
JALSGが行ったAML201研究(図2)の中間解析では、HD-ACはCBF白血病と予後不良染色体群でやや多剤併用化学療法を上回る可能性が示されている。しかし、HD-ACでは明らかに感染症などの合併症も重篤である。今後の追跡調査の結果を待って判断すべきである。 
造血幹細胞移植療法
 造血幹細胞移植療法は寛解後療法における重要な選択肢である。移植造血幹細胞も、自家および同種(HLA一致または不一致、血縁または非血縁)の骨髄または末梢血に加えて臍帯血が使用可能となり、
 移植前処置も多様化し、骨髄非破壊的(いわゆるミニ)移植も行われるようになった。どこまでがエビデンスで、どこからが臨床試験なのかを明確に意識する必要がある。本邦におけるAML第一寛解期のHLA適合同胞間骨髄移植,
 HLA適合非血縁者間骨髄移植、同種末梢血幹細胞移植および自己末梢血造血幹細胞移植における5年生存率は,それぞれ62%,58%、51%および64%と報告されている。
残念ながら,この報告はretrospective studyであり,症例選択やデータ収集にbiasのあることが予想され,染色体に基づく予後群別のデータも示されていない。
 1990年代に報告されたAMLの第一寛解期におけるHLA適合同胞間骨髄移植と自家骨髄移植または強力化学療法との比較試験の成績は、同種骨髄移植が再発率では有意に勝っているものの、移植関連死亡が多いために全生存率ではその優位性を示し得ないという結果であった。
最近同様の比較試験を行い、予後分類別に解析した研究が相次いで報告された(図3)
 これらの研究は、いずれもHLA適合同胞ドナーの有無により2群に分けて検討したもので、対象群全体では前述と同様に同種幹細胞移植の全生存率が優れているという成績は得られていない。
しかし、英国(MRC)とフランス(BGMT)からの報告では予後中間群で同種幹細胞移植の全生存率が有意に優れていることが示されている。一方、EORTCからの報告では予後不良群で全生存率が有意に優れていた。
オランダとスイスのグループ(HOVON/SAKK)の報告では、予後中間群および不良群で無病生存率が有意に優れており、これらの研究をmeta-analysisすると、予後良好群を除いた症例で12%の生存率の改善が期待できるとされている。
 これらのことから、HLA適合同胞間幹細胞移植の適応は染色体核型を主体とした予後分類に基づいて決定されるべきであり、HLA適合同胞間幹細胞移植は、CBF白血病とAPLを除くAMLの第一寛解期において、若年者に対するもっとも有効な寛解後療法ということができる。
 欧米でのHLA適合非血縁者間造血幹細胞移植の成績は、治療関連死が多いために寛解生存率、全生存率ともに30%程度と報告されている。このため、非血縁者間移植の適応は予後不良群が中心となっている。
本邦では、欧米に比較して明らかに移植片対宿主病(GVHD)の頻度,重症度が低く,合併症による死亡も少ない。したがって非血縁者間造血幹細胞移植の白血病治療戦略上に占める役割は大きいものと考えられる。
予後因子
 AMLは均一な疾患ではなく、さまざまな生物学的特徴をもつ疾患の集合体と考えられる。
予後因子は、その生物学的特徴と患者の全身状態を反映したものと考えられる。予後因子として報告されているものには年齢、
初診時白血球数、FAB分類病型、芽球のペルオキシダーゼ陽性率、Performance Status、染色体核型、寛解導入療法に対する反応およびLDHなどが挙げられる。英国のMedical Research Council(MRC)から多数例に均一な治療を行ない、
染色体核型との関係を明らかにした報告が行われたことから、染色体核型が最も信頼のおける予後因子と考えられている(図4)
予後因子に基づく治療戦略
最も信頼できる予後因子である染色体核型を基本として、複数の予後分類を行って、その結果に基づいて治療法を工夫するべきである。著者の考える治療戦略を図5に示した。
 寛解導入療法は、予後群に関係なくanthracyclineとAra-Cの併用療法が標準である。
寛解後療法は予後良好群ではHD-ACを中心とした化学療法が主体である。予後中間および不良群ではHLA一致血縁ドナーがいる場合は速やかにallo-BMTを行う。
血縁ドナーのいない場合はHLA一致非血縁ドナーを検索しながら、化学療法を施行する。本邦では非血縁者間移植の成績は良好であるが、移植関連死亡やGVHDなどの合併症も無視できないので、慎重に適応を決定する必要がある。

2008年9月5日
大竹茂樹