血液内科

貧血患者へのアプローチ

「貧血」は発症機序の違いにより、大きく3つに分類することができます。

  • (1) 材料不足が原因の貧血(鉄欠乏性貧血・巨赤芽球性貧血・腎性貧血)
  • (2) 赤血球寿命の短縮が原因の貧血(溶血性貧血
  • (3) 骨髄における造血の障害が原因の貧血(再生不良性貧血・骨髄異形成症候群・白血病・多発性骨髄腫・悪性リンパ腫の骨髄浸潤・骨髄癌腫症)
    もちろん、これら以外が原因のことも多々ありますが、貧血症状を訴える患者さんが来院された場合、まず、上記の疾患を思い浮かべることが重要です。

Step 1.血小板数・白血球数を確認
 まず、血小板減少、白血球増加・減少の有無を確認します。これらを伴っていれば血液疾患の可能性が高くなります。当初から、血液内科医との連携が必要です。
特に、末梢血中の白血球数が減少している急性白血病が認められることに注意が必要です。

 

 

診断候補

血小板減少

白血球増加

急性白血病

血小板減少

白血球減少

急性白血病などの造血器腫瘍

再生不良性貧血

骨髄異形成症候群

(巨赤芽球性貧血)

Step 2.MCVを確認
 次に、MCV(平均赤血球容積)を確認します。医師国家試験ではMCVを計算させて解答させる問題が多いようですが、
日常臨床ではデータの一部として提供されています。

 

診断候補

追加検査

鑑別疾患

MCV低下

鉄欠乏性貧血

血清鉄, TIBC, フェリチン

慢性炎症

サラセミア

鉄芽球性貧血

MCV上昇

巨赤芽球性貧血

ビタミンB12, 葉酸

骨髄異形成症候群

 小球性貧血の場合はそのほとんどが鉄欠乏性貧血なので、消化管の精査や婦人科疾患の合併がないかを確認することがポイントです。
鉄剤を処方するだけではダメです。大球性貧血の場合、胃の手術歴を必ず確認しましょう。
Step 3.網状赤血球数を確認
 網状赤血球数は骨髄の造血能を予想する最もよい指標です。

網状赤血球数

診断候補

追加検査

増加

出血

便潜血、消化管精査

婦人科受診

溶血性貧血

間接ビリルビン、LDH

ハプトグロビン

減少

再生不良性貧血

急性白血病などの造血器腫瘍

赤芽球癆

巨赤芽球性貧血

胸部X線写真・CT

ビタミンB12, 葉酸

胸部X線写真・CT

ビタミンB12・葉酸

Step 4.LDH値を確認
LDHが高値の場合、(1)巨赤芽球性貧血(2)溶血性貧血(3)急性白血病などの造血器腫瘍
(4)骨髄異形成症候群などが診断の候補に挙がってきます。LDH値は症例により様々ですが、(1)では著増している例が多く、(4)では正常上限をわずかに超える程度の例が多いようです。
(3)では治療効果判定や再発のモニタリングにも利用できます。
 なお、LDHが高値の場合、貧血・リンパ節腫脹(悪性リンパ腫)・DIC(血球貪食症候群)の有無を確認することがポイントです。
 上記の手順は診断方法をかなり単純化していますので、実際の臨床現場では必ずしもこの通りにはいきませんが、
研修医や医学生の皆さんには参考になると思います。なお、造血器腫瘍も含め、骨髄における造血の障害が原因と考えられる場合は、骨髄穿刺・骨髄生検が最も重要な検査であることはいうまでもありません。

2008年9月5日
山﨑宏人