血液内科

輸血後鉄過剰症と鉄キレート療法

はじめに
 再生不良性貧血(aplastic anemia; AA)や骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndrome; MDS)などの骨髄不全患者では、
造血を回復させるための治療が奏効しない場合定期的な赤血球輸血による支持療法が必要である。一方、頻回の赤血球輸血後に引き起こされる鉄過剰症は患者の予後を悪化させる。
通常肝蔵の鉄濃度は乾燥重量1gあたり1.2mg以下であるが、赤血球輸血によって鉄濃度が7mg以上になると鉄過剰による合併症のリスクが高まり、
多くの患者が肝線維化や糖尿病を発症するようになる。鉄濃度が15mg以上になると心不全による死亡率が急激に増加する1
赤血球輸血量が35単位を超えると乾燥重量1gあたり7mgの鉄が肝臓に蓄積されると考えられているが、骨髄不全患者では累積輸血量が10-20単位で鉄過剰症を発症するとの報告もある。
 輸血後鉄過剰症を防ぐ治療法は、長らくデフェロキサミン(DFO)の静脈内または皮下投与のみであった。
DFOは投与後速やかに尿中に排泄されるため、効率よく過剰鉄を除去するためにはDFOを連日持続的に皮下注するか、
大量を一日2回皮下投与する必要がある2, 3。しかし、骨髄不全患者の多くは血小板数が減少しているため出血や感染症などの局所合併症により皮下投与を続けることは難しく、
鉄キレート療法が行われたのはこれまで赤血球輸血依存骨髄不全患者の半数にも満たなかった4
この様な中、長く待ち望まれてきた経口内服の鉄キレート剤デフェラシロクスが2008年4月に認可された5
これを受けて輸血後鉄過剰診療ガイドラインの骨子(表1)が発表された6
今後輸血後鉄過剰症に対する鉄キレート療法が標準化され、赤血球輸血依存骨髄不全患者の予後改善が期待されている。
A. 頻回の輸血によって鉄過剰症が発症する
 生体内に非蛋白結合鉄(フリー鉄)が存在すると、フリーラジカルによって細胞が傷害され、TGFβ1を介して組織に線維化が起こる。
生体内にはおよそ3-4gの鉄が存在しているが、その殆どがヘモグロビン鉄、ミオグロビン鉄などの機能鉄であり、一部がフェリチンなどと結合した非機能鉄である。
成人では1日15mlの老化赤血球が網内系のマクロファージに貪食され、開離したヘム環からは20-30 mgの鉄が細胞質内に遊離する。
生体内ではフリー鉄によってフリーラジカルが産生されないよう防御システムが働いており、大部分のフリー鉄はトランスフェリンと結合し、
骨髄でトランスフェリンレセプターを介して赤芽球に取り込まれたのちミトコンドリアでヘム合成に再利用され、残りはフェリチンと結合して肝臓や脾臓などの組織に貯蔵される。
一方、1日に食餌を介して消化管から吸収される鉄の量と、皮膚や消化管上皮の剥離によって失われる鉄の量はそれぞれおよそ1mgと厳密に調整されているが、
過剰な鉄を除去するメカニズムは生体内に存在しない。1単位当たりの輸血血液には約100-125mgの鉄が含まれている。
このため10日~2週間に1回の頻度で慢性的に赤血球輸血を必要としている患者は0.4-0.5mg/kg/日の鉄過剰となると考えられ、
体重70kgとして1日あたり35mgの鉄が過剰に蓄積されていくことになる。フェリチンによって処理しきれない過剰なフリー鉄は、
血清中ではNTBI (non-transferrin bound iron)、細胞内ではLIP (labile iron pool)と呼ばれ、累積輸血量が増加すると肝臓の線維化、
心筋線維の変性、心肥大、皮膚の色素沈着、性腺機能障害、糖尿病、などの原因となる。
A. 頻回の輸血によって鉄過剰症が発症する
 生体内に非蛋白結合鉄(フリー鉄)が存在すると、フリーラジカルによって細胞が傷害され、TGFβ1を介して組織に線維化が起こる。
生体内にはおよそ3-4gの鉄が存在しているが、その殆どがヘモグロビン鉄、ミオグロビン鉄などの機能鉄であり、一部がフェリチンなどと結合した非機能鉄である。
成人では1日15mlの老化赤血球が網内系のマクロファージに貪食され、開離したヘム環からは20-30 mgの鉄が細胞質内に遊離する。
生体内ではフリー鉄によってフリーラジカルが産生されないよう防御システムが働いており、大部分のフリー鉄はトランスフェリンと結合し、
骨髄でトランスフェリンレセプターを介して赤芽球に取り込まれたのちミトコンドリアでヘム合成に再利用され、
残りはフェリチンと結合して肝臓や脾臓などの組織に貯蔵される。一方、1日に食餌を介して消化管から吸収される鉄の量と、
皮膚や消化管上皮の剥離によって失われる鉄の量はそれぞれおよそ1mgと厳密に調整されているが、過剰な鉄を除去するメカニズムは生体内に存在しない。
1単位当たりの輸血血液には約100-125mgの鉄が含まれている。このため10日~2週間に1回の頻度で慢性的に赤血球輸血を必要としている患者は0.4-0.5mg/kg/日の鉄過剰となると考えられ、
体重70kgとして1日あたり35mgの鉄が過剰に蓄積されていくことになる。フェリチンによって処理しきれない過剰なフリー鉄は、
血清中ではNTBI (non-transferrin bound iron)、細胞内ではLIP (labile iron pool)と呼ばれ、
累積輸血量が増加すると肝臓の線維化、心筋線維の変性、心肥大、皮膚の色素沈着、性腺機能障害、糖尿病、などの原因となる。
B.鉄キレート療法によって赤血球輸血依存患者の予後が改善する
 輸血後鉄過剰症では心不全の合併が患者の予後を左右するが、サラセミアや鎌状赤血球貧血などの先天性溶血性貧血患者では、
DFO投与によって血清フェリチン値を2,500 ng/ml未満に保つことにより、心疾患発症頻度が低下し生存期間が有意に延長すると報告されている3
血清フェリチン値を1,000 ng/ml未満に保つことで臓器障害をさらに軽減するとの報告もある4。この他、MDS患者では鉄キレート療法後の造血回復や7
造血幹細胞移植予定患者では、移植までに受けた輸血による肝障害や心筋障害を予防し移植後早期合併症のリスクを軽減できる8
輸血後鉄過剰症に対する鉄キレート療法の目的は、生体内の鉄のバランスを保つことと、全身の鉄量を減らしてフリー鉄による進行性かつ不可逆性的な致死的臓器障害のリスクを軽減して、
患者の生命予後を改善させることにある。
C.造血不全患者にも安全に投与できる経口キレート剤デフェラシロクスによる鉄キレート療法の実際
 デフェラシロクスは、内服後に腸管から速やかに吸収されるうえ、半減期が長く鉄に対する選択性が極めて高いことが特長である。
キレートされた鉄は大部分が糞便中に排泄される。特発性造血障害調査研究班による輸血後鉄過剰診療ガイドラインでは、
鉄キレート療法の対象を月2単位以上の赤血球輸血を6ヶ月以上継続している赤血球輸血依存骨髄不全で、1年以上一定の余命が期待出来る患者と定めている(表1)6
輸血後鉄過剰症の診断は、総赤血球輸血量20単位以上で血清フェリチン値500ng/mL以上であり、血清フェリチン値に従ってStage1~4に重症度分類される(表2)
心エコー検査にて左室駆出率50%以下の心機能障害、肝酵素異常、肝線維化、肝硬変といった肝機能障害、耐糖能低下の膵内分泌機能障害を認める場合には、
「臓器障害あり(B)」としてStageに併記する。鉄キレート療法の開始基準は、(1)連続する2回の測定でフェリチン値が1,000ng/mL以上ないし、
(2)総赤血球輸血量40単位以上のいずれかの場合で、デフェラシロクス20mg/kgを1日1回空腹時に経口投与開始すると、
DFO 40 mg/kg/日週5日皮下注に匹敵する強い鉄キレート効果期待出来る9。鉄キレート療法開始後は、3ヶ月毎に血清フェリチン値をモニターし、
血清フェリチン値500~1,000ng/mLを目標にデフェラシロクスを増減(表1, 3)、血清フェリチン値500 ng/mL以下で中止する。デフェラシロクスの副作用で頻度が高いものは、
嘔気、下痢などの消化器症状と皮疹、腎機能障害であるが、多くは一過性あるいは減量で対処が可能で重篤なものは少ない。
ただし、免疫抑制剤を長期に服用しているAA患者や高齢のMDS患者などでは腎機能が低下している患者も多いため、
少量からの投与開始や投与開始1週間後に腎機能を評価するなど慎重な経過観察が推奨される。
【関連ブログ記事】鉄キレート療法
文献

  • 1) Olivieri NF, Brittenham GM. Iron-chelating therapy and the treatment of thalassemia. Blood 1997;89(3):739-61.
  • 2) Brittenham GM, Griffith PM, Nienhuis AW, et al. Efficacy of deferoxamine in preventing complications of iron overload in patients with thalassemia major. N Engl J Med 1994;331(9):567-73.
  • 3) Olivieri NF, Nathan DG, MacMillan JH, et al. Survival in medically treated patients with homozygous beta-thalassemia. N Engl J Med 1994;331(9):574-8.
  • 4) Takatoku M, Uchiyama T, Okamoto S, et al. Retrospective nationwide survey of Japanese patients with transfusion-dependent MDS and aplastic anemia highlights the negative impact of iron overloard on morbidity/mortality. Eur J Hematol 2007;78:478-494
  • 5) Nisbet-Brown E, Olivieri NF, Giardina PJ, et al. Effectiveness and safety of ICL670 in iron-loaded patients with thalassaemia: a randomised, double-blind, placebo-controlled, dose-escalation trial. Lancet 2003;361(9369):1597-602.
  • 6) 小澤敬也. 国内における鉄過剰症の診断と治療のガイドライン. 大屋敷一馬、小澤敬也、高後裕、中尾眞二編、Iron Overloadと鉄キレート療法、メディカルレビュー社、東京、2007、pp.186-187.
  • 7) Jensen PD, Heickendorff L, Pedersen B, et al. The effect of iron chelation on haemopoiesis in MDS patients with transfusional iron overload. Br J Haematol 1996;94:289-99.
  • 8) Armand P, Kim HT, Cutler CS, et al. Prognostic impact of elevated pretransplantation serum ferritin in patients undergoing myeloablative stem cell transplantation. Blood 2007;109:4586-4588.
  • 9) Piga A, Galanello R, Cappellini MD, et al. Phase II Study of ICL670, An Oral Chelator, in Adult Thalassaemia Patients with Transfusional Iron Overload: Efficacy, Safety, Pharmacokinetics (PK) and Pharmacodynamics (PD) after 18 Months of Therapy. Blood 2003;102(11):121a.

2008年9月5日
近藤恭夫