血液内科

DICの病態・診断

DIC(図解シリーズ)連載中! http://www.3nai.jp/weblog/entry/24539.html
血液凝固検査入門(図解シリーズ)http://www.3nai.jp/weblog/entry/28676.html

【DICとは】

播種性血管内凝固症候群(DIC)
1) 基礎疾患の存在
2) 全身性・持続性の著しい凝固活性化
3) 細小血管内に微小血栓が多発
4) 凝固活性化と並行する線溶活性化:その程度は基礎疾患により相当な差違がある。
5) 消費性凝固障害:進行すると血小板や凝固因子と言った止血因子が低下

 DICの二大症状は、出血症状と臓器症状であるが、臨床症状が出現すると予後は極めて不良となるため、臨床症状の出現がない時点で治療開始できるのが理想である。
 DICの基礎疾患は多く知られているが、その中でも急性白血病、固形癌、敗血症は3大基礎疾患である。

【DICの病態】

 基礎疾患によりDICの発症機序は異なるが、多くの場合は直接的あるいは間接的に組織因子(tissue factor:TF)が重要な役割を演じている。また、大動脈瘤のようにDIC発症機序が十分には解明されていない病態も存在する。

1. 重症感染症(敗血症など)

  • 敗血症などの重症感染症に合併したDICの発症にはサイトカインの関与が大きい。
  • LPSやTNF、IL-1などの炎症性サイトカインの作用により、単球/マクロファージや血管内皮から大量のTFが産生され、著しい凝固活性化を生じる。
  • LPSやサイトカインは血管内皮上の抗凝固性蛋白であるトロンボモジュリン(TM)の発現を抑制するため、凝固活性化に拍車がかかる。
  • 凝固活性化の結果として生じた多発性微小血栓は、線溶活性化により溶解されようとするが、LPSやサイトカインの作用によって血管内皮で線溶阻止因子であるプラスミノゲンアクチベータインヒビター(PAI)が過剰発現し線溶が抑制されるために多発性微小血栓が残存する。
  • 微小循環障害による多臓器不全が進行する。

2. 悪性腫瘍(固形癌、急性白血病など)

  • 急性白血病や固形癌などの悪性腫瘍においては、腫瘍細胞中の組織因子により外因系凝固が活性化されることが、DIC発症の原因と考えられている。
  • 血管内皮や炎症の関与がほとんどない点において、より直接的な凝固活性化の病態となっている。

【DIC病型分類】

 著しい凝固活性化はDICの主病態であり全症例に共通しているが、その他の点については基礎疾患により病態が相当異なっている。
 DICの二大症状
1) 出血症状
2) 臓器症状
ただし、DICの病型によって臨床症状の出現の仕方に差異がみられる。

<線溶抑制型DIC>

  • 凝固活性化は高度であるが線溶活性化が軽度に留まるDICは、敗血症に合併した例に代表される。
  • 線溶阻止因子PAIが著増するために強い線溶抑制状態となり、多発した微小血栓が溶解されにくく微小循環障害による臓器障害が高度になりやすいが、出血症状は比較的軽度である。
  • 検査所見としては、凝固活性化マーカーであるトロンビン-アンチトロンビン複合体(TAT)や可溶性フィブリン(SF)は上昇するものの、線溶活性化マーカーであるプラスミン-α2プラスミンインヒビター複合体(PIC)は軽度上昇に留まる。
  • 微小血栓の溶解を反映するフィブリン/フィブリノゲン分解産物(FDP)やD-ダイマーも軽度上昇に留まる。

【DICの臨床症状】

 DICの二大症状は、出血症状と臓器症状である。
 出血症状をきたす機序は、以下の2つである。
1)消費性凝固障害(血小板や凝固因子といった止血因子の消費性低下)
2)過剰な線溶活性化(止血のための止血血栓の溶解)である。

  • 歴史的には、1)が強調された時代もあるが、現在はむしろ2)の方が出血の機序として比重が大きいと考えられている。
  • 同程度の血小板数や凝固因子(フィブリノゲンなど)の低下が見られても、線溶活性化の程度によって出血の程度は大きく異なっている。
  • 臓器症状をきたす機序は、微小血栓の多発に伴う微小循環障害のためと考えられている。多くの臓器で同時進行しやすく、しばしば多臓器不全の病態となる。

【日本血栓止血学会DIC診断基準 2017年版】

  • DICの診断基準としては、旧厚生省DIC診断基準(旧基準)、国際血栓止血学会(ISTH)DIC診断基準(ISTH基準)、日本救急医学会急性期DIC診断基準(急性期基準)が日本では良く知られてきた。
  • これらの診断基準のなかで、ISTH基準は感度が悪い、急性期基準は全ての基礎疾患に対して適用できないなどの問題があり、旧基準が最も評価の定まった基準であった。
  • しかし、旧基準にも数々の問題点、例えば感染症に感度が悪い、凝固線溶関連の分子マーカーが採用されていない、誤診されることがあるなどが指摘されており、この改訂が重要課題となっていた。
  • このような背景のもと、「日本血栓止血学会DIC診断基準 2017年版」が作成された(http://www.jsth.org/guideline/dic診断基準2017年度版/)。
  • 日本血栓止血学会DIC診断基準は、ほとんどすべての基礎疾患に適用することが可能で、かつ旧厚生省DIC診断基準の不備を修正した優れた基準である。

2018年6月9日
朝倉英策