血液内科

DICの病態・診断

DIC(図解シリーズ)連載中! http://www.3nai.jp/weblog/entry/24539.html
血液凝固検査入門(図解シリーズ)http://www.3nai.jp/weblog/entry/28676.html
1. DICとは
 播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation:DIC)は、基礎疾患の存在下に全身性持続性の著しい凝固活性化をきたし、
細小血管内に微小血栓が多発する重篤な病態である。凝固活性化と共に線溶活性化がみられるが、その程度は基礎疾患により差違がみられる。
進行すると血小板や凝固因子と言った止血因子が低下し、消費性凝固障害の病態となる。
 DICの二大症状は、出血症状と臓器症状であるが、臨床症状が出現すると予後は極めて不良となるため(厚労省研究班の疫学調査では死亡率56%)、
臨床症状の出現がない時点で治療開始できるのが理想である。
2. DICの発症機序
 DICの三大基礎疾患は、敗血症、急性白血病、固形癌であるが、その他にも各種重症感染症、外傷、熱傷、熱中症、手術、腹部大動脈瘤、巨大血管腫、膠原病(特に血管炎合併例)、
産科合併症(常位胎盤早期剥離、羊水塞栓)、劇症肝炎、急性膵炎、ショック、横紋筋融解など多くの基礎疾患が知られている。
 敗血症においては、LPSやTNF、IL-1などの炎症性サイトカインの作用により、単球/マクロファージや血管内皮から大量の組織因子(TF)が産生され、著しい凝固活性化を生じる。
また、血管内皮上に存在する抗凝固性蛋白であるトロンボモジュリン(TM)の発現が抑制されるため、凝固活性化に拍車がかかることになる。
さらに、血管内皮から産生される線溶阻止因子であるプラスミノゲンアクチベータインヒビター(PAI)が過剰に産生されるため生じた血栓は溶解されにくい1)
一方、急性白血病や固形癌などの悪性腫瘍においては、腫瘍細胞中の組織因子により外因系凝固が活性化されることが、DIC発症の原因と考えられている。
血管内皮や炎症の関与がほとんどない点において、より直接的な凝固活性化の病態となっている。
3. DIC病型分類 (図1)
 凝固活性化は高度であるが線溶活性化が軽度に留まるDICは、敗血症に合併した例に代表される。
線溶阻止因子PAIが著増するために強い線溶抑制状態となり、多発した微小血栓が溶解されにくく微小循環障害による臓器障害が高度になりやすいが、
出血症状は軽度である。このような病型のDICを「線溶抑制型DIC」(旧名称:凝固優位型DIC)と称している。
検査所見としては、凝固活性化マーカーであるトロンビン-アンチトロンビン複合体(TAT)は上昇するものの、
線溶活性化マーカーであるプラスミン-α2プラスミンインヒビター複合体(PIC)は軽度上昇に留まる。
また、微小血栓の溶解を反映するフィブリン/フィブリノゲン分解産物(FDP)やDダイマーも軽度上昇に留まるのが特徴である。
 一方、凝固活性化に見合う以上の著しい線溶活性化を伴うDICは急性前骨髄球性白血病(APL)や腹部大動脈瘤に合併した例に代表される。
PAIはほとんど上昇せずに線溶活性化が強く、止血血栓が溶解されやすいことと関連して、出血症状が高度になりやすいが臓器障害はほとんどみられない。
このような病型のDICを「線溶亢進型DIC」(旧名称:線溶優位型DIC)と称している。検査所見としては、TAT、PIC両者とも著増し、FDPやDダイマーも上昇する。
フィブリノゲン分解も進行するためにFDP/DD比は上昇しやすい。
 なお、このDICの病型分類は金沢大学から発信した概念であるが、全国の臨床現場で広く使用されている。
4. 厚生労働省DIC診断基準と急性期DIC診断基準
最も頻用されているのは、厚労省DIC診断基準である(表1)
典型的なDICにおける、臨床・検査所見を網羅している点が特徴であるが、早期診断には不向きとの指摘がある。
この診断基準では7点以上(白血病群では4点以上)の場合にDICと診断される。
 国際血栓止血学会(ISTH)の診断基準は、日本の厚労省診断基準を模して作成されたものであるが、さらに早期診断には不向きであるという指摘が多い。
 残念ながら、現在ベストと言える診断基準はなく、今後の発展が期待される。我々は、DICの本態である凝固活性化を反映するマーカー(TATなど)
を診断基準に組み込むべきであると考えている。また、線溶活性化の程度によりDIC病態は大きく変わるため、線溶活性化マーカー(PICなど)も何らかの形で、
DIC病態診断に必要な項目として取り込むべきであろう。このような分子マーカーを診断基準に組み込むことで、有用な分子マーカーの普及にもつながるものと確信している。
なお、金沢大学附属病院では、FDPやDダイマーよりもTATの結果の方が早くでることもある。
5. DIC早期診断のために
金沢大学医学部血液内科・呼吸器内科(旧:金沢大学第三内科)が提唱しているDIC早期診断のポイントを表2に列挙する。
なお、遺伝子組換えトロンボモジュリンは世界で最も新しい画期的なDIC治療薬である2)。今後のDIC治療のKey drugになるであろう
(個人的には、トロンボモジュリン製剤と、アンチトロンビン製剤の併用が最強ではないかと考えている)。
01)金沢大学第三内科ブログ(DICカテゴリー) http://www.3nai.jp/weblog/archive/category3886.html
2)金沢大学第三内科ブログ(図解DICカテゴリー) http://www.3nai.jp/weblog/archive/category3932.html
文献

  • 1) Levi M, Ten Cate H: Disseminated intravascular coagulation. N Engl J Med 19: 341: 586-592, 1999.
  • 2) Saito H, et al: Efficacy and safety of recombinant human soluble thrombomodulin (ART-123) in disseminated intravascular coagulation: results of a phase III, randomized, double-blind clinical trial. J Thromb Haemost 5: 31-41, 2007.
  • 3) 朝倉英策、久志本成樹:「特集 DIC治療ガイドライン」DICの病態定義、感染症と非感染症。日本血栓止血学会誌 17:284-293, 2006.

2008年9月5日
朝倉英策