血液内科

DICの治療戦略

DIC(図解シリーズ)連載中! http://www.3nai.jp/weblog/entry/24539.html
血液凝固検査入門(図解シリーズ) http://www.3nai.jp/weblog/entry/28676.html

【DICの治療】

  • 適切な治療のためには、適切なDIC診断が不可欠であるが、本稿執筆時点では、「日本血栓止血学会DIC診断基準 2017年版」が最も優れている(http://www.jsth.org/guideline/dic診断基準2017年度版/)。
  • 日本血栓止血学会DIC診断基準は、ほとんどすべての基礎疾患に適用することが可能で、かつ旧厚生省DIC診断基準の不備を修正した優れた基準である。
  • DICの進展を阻止するためには、基礎疾患の治療と共に、凝固活性化を阻止する必要がある。
  • 基礎疾患の治療を行っても、基礎疾患が一両日中に治癒することは極めて例外的であるため、この間にDICが原因で病態が悪化することを防がなければならない。

1. 基礎疾患の治療

  • 全DIC症例において、基礎疾患の治療は最重要である。
  • 急性白血病や進行癌に対する化学療法、敗血症に対する抗生剤治療などがこれに相当する。

2. 抗凝固療法(ヘパリン類、AT製剤、rTM製剤など):代表的薬剤を括弧で記載した。

  • ヘパリン類&アンチトロンビン濃縮製剤:DICに対して使用可能なヘパリン類としては、ダナパロイドナトリウム(オルガラン)、低分子ヘパリン(フラグミン)、未分画ヘパリンがある。これらのヘパリン類は、いずれもアンチトロンビン(AT)依存性に抗凝固活性を発揮する点で共通しているが、抗Xa/トロンビン活性比や、血中半減期に差違がみられる。
  • ヘパリン類は、アンチトロンビン(AT)活性が低下した場合は充分な効果が期待できないため、AT濃縮製剤(アコアラン、献血ノンスロン、アンスロビン、ノイアート)を併用する。
  • 合成プロテアーゼインヒビター:合成プロテアーゼインヒビターは、AT非依存性に抗トロンビン活性を発揮する。代表的薬剤は、メシル酸ナファモスタット(フサン、コアヒビター)およびメシル酸ガベキサート(FOY)である。出血の副作用はまず無い。また、両薬は膵炎治療薬でもあり、膵炎合併例にも良い適応となる。
  • メシル酸ナファモスタット(フサン、コアヒビター)は臨床使用量で抗線溶活性も強力であり、線溶亢進型DICには特に有効である。ただし、本薬の高カリウム血症の副作用には注意が必要である。両薬剤ともに静脈炎の副作用があり、中心静脈からの投与が原則である。
  • 遺伝子組換えトロンボモジュリン製剤(rTM): rTM(リコモジュリン)は抗炎症効果を合わせ持ち、特に炎症性疾患に合併したDICに対して、抗凝固、抗炎症の両面から期待されている。今後ともDIC治療薬の主軸になるものと考えられる。

3. 補充療法(血小板、凝固因子の補充)

  • 血小板や凝固因子の著しい低下(消費性凝固障害)のため出血がみられる場合には、補充療法を行う。
  • 血小板の補充目的としては濃厚血小板、凝固因子の補充目的としては新鮮凍結血漿を用いる。

4. 抗線溶療法(トラネキサム酸)

  • DICにおける線溶活性化は、微小血栓を溶解しようとする生体の防御反応の側面もありトラネキサム酸(TA:トランサミン)などの抗線溶療法は原則禁忌である。
  • 特に、敗血症に合併したDICではTAは絶対禁忌である。
  • ただし、線溶亢進型DICの著しい出血例に対して、ヘパリン類併用下にTAを投与すると出血に対して著効することがあるが、使用方法を間違うと全身性血栓症をきたすために、必ず専門家にコンサルトの上で行う必要がある。

<APLに合併したDICの治療>

  • APLは、著明な線溶活性化を特徴としたDIC(線溶亢進型DIC)を発症する。 
  • APLに合併したDICの特殊性として、オールトランス型レチノイン酸(all-trans retinoic acid:ATRA)による治療を挙げることができる。ATRAは、APLの分化誘導として有効であるが、APLに合併したDICに対してもしばしば著効する。
  • APLにおいて線溶亢進型DICを合併する理由は、APL細胞に存在するアネキシンIIの果たす役割が大きい。APLに対してATRAを投与すると、APL細胞中のTFおよびアネキシンIIの発現も抑制される。このため凝固活性化と線溶活性化に同時に抑制がかかり、APLのDICは速やかに改善する。
  • ATRAによるアネキシンII発現の抑制は強力であり、APLの著しい線溶活性化の性格は速やかに消失する。
  • APLに対してATRAを投与している場合に、トラネキサム酸などの抗線溶療法を投与すると全身性血栓症や突然死の報告がみられる。ATRA投与時は、TAは絶対禁忌である。

【文献】

1) 朝倉英策:しみじみ分かる血栓止血(vol.1 DIC・血液凝固検査編)(中外医学社)2014
2) 朝倉英策:しみじみ分かる血栓止血(vol.2 血栓症・抗血栓療法編)(中外医学社)2015
3) 朝倉英策編:臨床に直結する血栓止血学(中外医学社)2018年改訂中

2018年6月9日
朝倉英策