血液内科

出血性素因の診断

1 出血傾向とは
 出血傾向とは、外傷などの誘因がなく皮下出血や内臓出血をきたしたり、出血に伴い正常な止血機構が障害されている場合を示す。
機序としては、1)血管、2)血小板、3)凝固因子・凝固阻止因子、4)線溶因子・線溶阻止因子などの先天的・後天的な質的量的な異常によって引き起こされる。
2 診断
1)臨床症状
 臨床症状としては、点状出血、紫斑、鼻出血、歯肉出血、関節内血腫、月経過多など軽度な出血を示す場合と、
頭蓋内出血、消化管出血など重篤な出血を起こしときに致死的となる場合など、さまざまである。また、術後や抜歯後に止血困難を示す場合もある。
一般的に点状出血や粘膜出血は、血小板や毛細血管の異常に起因することが多く、関節内出血や筋肉内出血は凝固系の異常を考える。先天性の各種凝固因子欠損症の場合の出血症状について、図1に示す。
2)病歴
 出血傾向の発症時期、合併症、既往歴、薬剤内服歴などの問診は、診断を行う上で非常に重要である。
特に先天性出血性素因を疑う場合は家族歴について詳細に調べる必要があり、遺伝形式を考えながら問診する(血友病は男性に発症する)。
3)スクリーニング検査
 出血傾向を主訴として受診した場合のスクリーニング検査としては、血算、末梢血塗抹標本、出血時間(検査手技による誤差が大きく、信頼性に問題があることに留意)、
プロトロンビン時間(PT)、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)、フィブリノゲン、FDPの測定があげられる。さらに、肝機能、腎機能検査もスクリーニング検査として必要である。
4)出血傾向の鑑別診断(図2)
 臨床症状、病歴、スクリーニング検査の結果から、さらに鑑別診断のための検査を進めていく。
図2に示すように大きく分類すると、血小板数が減少している場合と正常な場合とに分けることができる。
今回は特に、血小板数や機能は正常で、凝固系に異常がある場合について以下に述べる。
【1】PT、APTT正常の場合:
 スクリーニング検査では異常がないが、Rumpel-Leede試験が陽性の場合は血管壁の障害により紫斑を生じる血管性紫斑病に分類されることが多い。
最も多いのが単純性紫斑病あるいは老人性紫斑病であるが、毛細血管拡張を伴っていたら遺伝性出血性毛細血管拡張症(Osler病)であり、血管炎の代表としてはアレルギー性紫斑病が挙げられる。
第XIII因子(FXIII)低下を認めた場合はFXIII欠乏症を疑い、α2アンチプラスミン(α2AP)低下を認めた場合はα2AP欠乏症を疑う。
【2】PT、APTT正常で出血時間延長の場合:
 血小板無力症を代表とする血小板機能異常症を考え、血小板凝集能検査を試行する。
【3】PT正常、APTT延長の場合:
 出血傾向を認め出血時間が正常の場合はまず血友病を考え、第VIII因子(FVIII)と第IX因子(FIX)活性を測定する。
ここで注意すべき点は、活性低下を認め家族歴があり男性の場合は先天性血友病と診断できるが、家族歴も出血傾向もない場合は後天性血友病を疑い、
正常血漿と患者血漿による混合試験を行いインヒビターの検索を行う必要がある。また、APTTが延長する因子欠乏症としてはFXIとFXII欠乏症も考えられるが、
FXI欠乏症では無症状あるいは術後の出血傾向を認める場合が多く、FXII欠乏症ではむしろ血栓傾向を示すともいわれている。
【4】PT延長、APTT正常の場合:
 第VII因子(FVII)欠乏症を疑い、FVII活性を測定する。
【5】PT、APTTともに延長している場合:
 フィブリノゲン(Fbg)が低下しており、肝機能が正常な場合は低Fbg血症、無Fbg血症、異常Fbg血症を考える。
Fbgが正常でPIVKAが高値を示す場合はビタミンK欠乏の病態を考え、正常の場合はプロトロンビン(FII)活性、第V因子(FV)、第X因子(FX)活性を測定し、
それぞれの因子欠乏症の検査を行う。
アンチトロンビン・プロテインC&S欠損症(金沢大学第三内科ブログ)

2008年9月5日
森下英理子