呼吸器内科

肺がんに気づくサイン

1. わが国における肺癌死亡数および罹患数は一貫して増加しています
世界中で肺癌による死亡者数は、全癌の中で17%を占めており最も多く年間約130万人に達しています。わが国の肺癌死亡者数は、この半世紀の間に人口の高齢化に伴い急速に増加し、1998年には癌死亡のうち男女計でも第1位となりました。2006年の人口動態統計では肺癌死亡数は全癌死亡の19%を占めています。
2. 喫煙は最大の危険因子であると考えられています
肺癌に罹る危険因子については多くの臨床研究から、さまざまな因子が同定されています。なかでも喫煙は最大の危険因子であると考えられています。喫煙者が肺癌に罹患するリスクは、平均すると非喫煙者に比べて男性は4-5倍、女性は2-3倍とされています。
その他の危険因子

  • ・ 遺伝的要因
  • ・ 発癌物質への職業的な暴露:アスベスト、クロム、マスタードガス、コバルト、砒素など
  • ・ 基礎疾患とくに呼吸器疾患:間質性肺炎・肺線維症(経過中に10-30%が肺がんに罹患すると報告されています)、塵肺症
  • ・ 食生活との関連:予防効果を示す食物については証明されたものはありません。
  • ・ 大気汚染

3. 肺癌の発見動機
無症状なままで発見される場合と、自覚症状が出てから発見される場合とあります。
(ア) 無症状発見例

  • (1) 集団検診:胸部単純レントゲン(胸部異常陰影)、喀痰細胞診
  • (2) 他疾患にて定期通院中発見される(胸部異常陰影):高血圧や糖尿病、循環器疾患などの他疾患の経過中に行われた胸部単純レントゲンなどにて発見されることがあります。

(イ) 自覚症状発見例

  • (1) 原発病巣による局所的な症状:咳嗽、血痰、胸痛
  • (2) 原発病巣による全身的な症状:倦怠、発熱、体重減少
  • (3) 移病巣による症状
    1. 脳転移:頭痛、めまい、嘔吐、痙攣、運動障害・知覚障害
    2. 骨転移:疼痛

1998年4月から2000年4月にかけて当科に入院した肺癌患者40例では、胸部異常陰影が最も多く12例(30%)でした(表 1)
4. 肺癌に伴う症状
ほとんどの患者は肺癌診断時に何らかの症状を有しています。肺癌は、組織型の違いから主に腺癌、扁平上皮癌、大細胞癌、小細胞癌に分類されます。腺癌は肺野末梢に発生することが多い癌です。末梢型肺癌では早期には症状を伴わないことが多いとされます。扁平上皮癌や小細胞癌は中枢気管支に発症することが多い癌です。肺門型肺癌では、比較的早期に様々な症状を示すことが多くみられます。肺癌によくみられる症状を以下に挙げます(表2, 3)
(ア) 咳、痰、血痰
肺癌に特有の症状ではなく、他の呼吸器疾患でもよく経験する症状です。肺癌患者のなかで最も多い症状でもあります。特に重喫煙者(1日の平均喫煙本数×喫煙年数=喫煙係数>400)で血痰を訴えている45歳以上の患者は、肺癌の可能性が高いといわれています。
先述した40例中の22例では、入院時に咳症状を有していました。当科において詳細な検査・診断を行ったところ、22例中17例では気管支喘息や副鼻腔気管支症候群など咳を主症状とする疾患が合併していました。咳だけでなく自覚症状を契機に発見された場合には、肺癌以外の疾患も念頭において鑑別診断を行う必要があります。

(イ) 胸痛
一般に肺および臓側胸膜は痛覚刺激に反応することはないとされています。したがって、胸痛を認める場合には、壁側胸膜、胸壁、横隔膜、中枢気道、縦隔といった疼痛刺激に反応する部分に癌が浸潤してきていることの証拠でもあります。
(ウ) 発熱
癌患者にみられる代表的な症状の1つではありますが、十分な鑑別が必要です。
(エ) 呼吸困難
肺癌自体による呼吸困難の出現は、進行肺癌を予想させる症候です。
(オ) リンパ節腫大
患者が気づく表在性リンパ節腫大が鎖骨上窩リンパ節にとどまっていたとしても、N3(すなわちstage IIIB以上)に相当します。その他の部位の表在リンパ節腫大を認める場合には、M1(すなわちstage IV)に相当する進行癌ということになります。
(カ) 体重減少
過去6ヶ月間の体重減少は重要な予後不良因子です。
文献

  • 1) Wozniak AJ and Gadgeel SM. Clinical Presentation of Non-Small Cell Carcinoma of the Lung. In: Lung Cancer. Principles and Practice, 3rd ed. Lippincott Williams & Wilkins. Philadelphia. 2005.
  • 2) Masters GA. Clinical Presentation of Small Cell Lung Cancer. In: Lung Cancer. Principles and Practice, 3rd ed. Lippincott Williams & Wilkins. Philadelphia. 2005.

2008年9月5日
木村英晴