セカンドオピニオン外来(4)MDSではなく再生不良性貧血
セカンドオピニオン外来(3)骨髄不全より続く。
セカンドオピニオン外来の風景(4) by 中尾眞二
アメリカからのセカンドオピニオン
同じような誤解は日本だけでなくアメリカでも起こっている。
図1は7年前にサンフランシスコ在住の男性から寄せられたメールのコピーである。
メールの内容は要約すると以下のようになる。
“私の母親はMDSと診断され、医師からは骨髄移植しか治す方法がないと言われている。
ただし、母の末梢血にはPNH形質の血球がわずかに検出された。
貴施設がBlood誌に2002年に報告した論文には、PNH形質血球陽性のMDSの一部は無治療で自然寛解する例があると書かれている。
それらの例について詳しく聞かせて欲しい”
この男性は非常に親孝行な息子さんで、母の治療方針について相談するためにヒューストンのMDアンダーソン癌センターやシアトルのフレッドハッチンソン癌研究所なども訪れ、MDSの大家にセカンドオピニオンを求めた。
その結果、スタンフォード大学の主治医を含めたすべての専門医から「アザシチジン」という一種の化学療法を勧められた。
男性が送ってきた検査結果を詳しく見たところ、診断はMDS(前白血病)ではなく重症度の低い再生不良性貧血と思われた。
私との間で10通以上のメールのやり取りをした結果、この母親思いの男性と患者さんは化学療法ではなく、私が勧めたシクロスポリン療法を選択した。
図2はその息子さんが送ってきた治療開始後血小板数の推移を示している。
患者さんにみられていた汎血球減少は1年半後には完全に消失し、2年間のシクロスポリン内服中止後も血球減少の再燃はみられていない。
もちろん白血病に移行する徴候は皆無である。
5年前にサンフランシスコでアメリカ血液学会が開催された際、学会に参加することを伝えたところ、学会場近くのレストランに招待しれくれることになった。
約束したレストランの扉を開けたところ、患者さん、息子さんと患者さんの友人が全員立ち上がって迎えてくれた。
そこで撮ってもらった写真が図3である。
初めて会ったアメリカ人家族ではあったが、長年の友人に会ったような気がした。
患者さんは自分の経過を医師や他の患者さんにも伝えて役立てて欲しいと言われたため、海外で骨髄不全の話をするたびにこの経過と写真を紹介するようにしている。
しかし、残念なことにこの患者さんでみられた「誤診」は未だに世界中で起こっている。
(続く)セカンドオピニオン外来(5)インターネットのテレビ電話相談へ
<リンク>:臨床に直結する血栓止血学
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:27| その他