先天性血栓性素因の治療:アンチトロンビン・プロテインC&S欠損症(6)
アンチトロンビン・プロテインC&S欠損症(5)からの続きです。
【先天性血栓性素因の治療】
先天性血栓性素因、具体的には先天性アンチトロンビン(Antithrombin:AT)、プロテインC(Protein C:PC)、プロテインS(Protein S:PS)欠損症の患者における血栓症の急性期および慢性期の内科的治療は、以下のような抗凝固療法が基本になります。
急性期
ヘパリン類:未分画ヘパリン、低分子ヘパリン(商品名:フラグミン)、ダナパロイド(商品名:オルガラン)いずれかの経静脈的投与。なお、分画ヘパリン、低分子ヘパリンは24時間持続点滴、オルガランは1日2回の静注になります(関連記事:ヘパリン類の種類と特徴、ヘパリン類の表)。
慢性期
ワルファリン(商品名:ワーファリン)の内服。ワルファリンは、永続的に内服していただくことが多いです。
ヘパリン類からワルファリンに切り替えていく際に注意すべき点は、先天性プロテインC欠損症では、ワルファリン投与開始1〜2日後に皮膚壊死(電撃性紫斑病 purpura fulminans)をおこす可能性があることです。そうならないように、ヘパリン併用下にワルファリンを少量から治療域にまで増量していき、治療域で安定した後にヘパリンを中止することが大切です。
先天性アンチトロンビン欠損症に対する血栓症の治療、あるいは周産期や術後の血栓傾向に対しては、予防的にアンチトロンビン濃縮製剤を使用する場合があります(関連記事:先天性アンチトロンビン欠損症の治療)。
先天性プロテインC欠損症における静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism:VTE)、電撃性紫斑病に対しては、血漿由来活性化プロテインC(APC)製剤を抗凝固剤として使用することもできますが、驚くほど高価なことがネックになっています。
【シリーズ】先天性血栓性素因:アンチトロンビン・プロテインC&S欠損症
1)病態
2)疫学
3)症状
4)血液・遺伝子検査 ←遺伝子検査のご依頼はこちらからどうぞ。
5)診断
6)治療
【関連記事】
血栓性素因の血液検査(アンチトロンピン、プロテインC、抗リン脂質抗体他)
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 06:25 | 血栓性疾患 | コメント(2) | トラックバック(0)
先天性血栓性素因の診断:アンチトロンビン・プロテインC&S欠損症(5)
アンチトロンビン・プロテインC&S欠損症(4)からの続きです。
【先天性血栓性素因の診断の流れ】
先天性アンチトロンビン(Antithrombin:AT)、プロテインC(Protein C:PC)、プロテインS(Protein S:PS)欠損症といった先天性血栓性素因の診断の流れは、以下のようになります。
1)先天性血栓性素因を疑わせる臨床所見があること(ただし家族調査family studyで診断される場合は臨床所見がないことがあります)。
2)AT、PC、PSいずれかの活性低下を認めること。
3)AT、PC、PSの低下が後天的要因を除外できること。
4)最終的には、遺伝子診断が得られれば診断が確定します。
【先天性アンチトロンビン(AT)欠損症の診断】
本症は常染色体優性遺伝形式をとります。ホモ接合体は致死的ですので、通常はヘテロ接合体として認められます。血中AT活性は正常の50%程度を示します。以下のように分類されます。
● I 型:AT抗原量・活性ともに低下する古典的欠乏症(産生異常)。
● II 型:抗原量が正常であるものの活性が低下するいわゆる分子異常症。さらに以下のサブタイプに分類されます。
○ II 型−RS:反応中心部位(reactive site:RS)に異常を認めプロテアーゼ阻害活性が低下するタイプ。
○ II 型− HBS:へパリン結合部位(heparin binding site:HBS)に異常を認めるタイプ。U型-HBSでは、ホモ接合体が報告されています。
○ II 型−PE:単一の遺伝的変異が多面的な機能異常(pleitropic effects:PE)を示すタイプ。
【先天性プロテインC(PC)欠損症の診断】
本症は常染色体優性遺伝で、ほとんどの場合ヘテロ接合体として認められます。血中PC活性値は、多くの場合、正常の30〜60%程度です。2つのタイプに分類されます。
● I 型:活性と抗原が同程度に低下する産生異常。
● II 型:抗原値は正常であるものの活性値が低下する分子異常。
現在までに300以上の症例報告がありますが、I 型へテロ接合体が約8割と圧倒的に多く、II 型ヘテロ接合体が1割強です。残りが、ホモ接合体と複合へテロ接合体ですが、きわめて稀(50万〜70万人に1人)です。
【先天性プロテインS(PS)欠損症の診断】
本症は常染色体優性遺伝形式をとり、発症頻度は先天性血栓性素因の中で最も多いです。
臨床症状は先天性PC欠乏症と類似しており、検査所見もヘテロ接合体では血中PS活性値は正常の30〜60%程度を示します。PS活性値が低下している場合は、後天性に低下する病態の可能性を考えながら、先天性欠損症の診断とサブタイプの決定を行います。
● I 型:遊離型PS抗原量もPS活性も低下する産生異常症。
● II 型:遊離型PS抗原量は正常であるもののPS活性が低下する分子異常症。
【凝固異常症の遺伝子検査のご依頼は以下までどうぞ!】
金沢大学 血液内科・呼吸器内科
info@3nai.jp
管理人が内容を拝見した上で、問題がなければ、血液凝固異常症遺伝子検査担当の専門医師に転送いたします。その後は、担当専門医師と直接連絡をとっていただくことになると思います。
(続く)
【シリーズ】先天性血栓性素因:アンチトロンビン・プロテインC&S欠損症
1)病態
2)疫学
3)症状
4)血液・遺伝子検査 ←遺伝子検査のご依頼はこちらからどうぞ。
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 06:24 | 血栓性疾患 | コメント(0) | トラックバック(0)