金沢大学・血液内科・呼吸器内科
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2009年10月31日

悪性腫瘍(癌)とDIC:疫学、基礎疾患、発症頻度

【DIC基礎疾患としての悪性腫瘍】

播種性血管内凝固症候群(DIC)には、多くの基礎疾患が知られていますが、その中でも、固形癌、急性白血病、敗血症は、従来より三大基礎疾患として知られています。そのため、悪性腫瘍(固形癌、造血器悪性腫瘍)は、DICの基礎疾患として極めて大きな位置を占めることになります。

固形癌においてDICを合併した場合には、全身転移を伴った進行癌である場合が多いです。ただし、化学療法や移植治療の発達、免疫学的に抗腫瘍効果を期待できる治療法の開発などに伴い、進行癌であっても治療成績の向上が見込まれる時代となっています。

この点からも、DICのコントロールは、原疾患の治療を着実に遂行していく上で、以前よりも更に大きな意義を有するようになってきたものと考えられます。

また、造血器悪性腫瘍の多くの症例において完全治癒を見込めるようになってきた現代において、DICの合併症によって患者の予後が悪化することは絶対に避ける必要があるでしょう。



【DICの疫学:悪性腫瘍】

DIC症例数(絶対数)の多い基礎疾患(内科)

順位 基礎疾患 DIC(人) 基礎疾患(人) 発症頻度(%)
1 敗血症 166 410 40.5
2 非ホジキンリンパ腫 154 777 19.8
3 肝細胞癌 113 3545 3.2
4 急性骨髄性白血病 91 288 31.6
5 肺癌 82 1026 8.0
6 呼吸器感染症 78 1205 6.5
7 肝硬変 72 3335 2.2
8 急性前骨髄球性白血病 71 91 78.0
9 胃癌 46 1090 4.2
10 急性リンパ性白血病 45 151 29.8

 

DIC発症頻度の高い基礎疾患(内科)

順位 基礎疾患 発想頻度(%) DIC(人) 基礎疾患(人)
1 急性前骨髄球性白血病 78.0 71 91
2 劇症肝炎 45.3 29 64
3 敗血症 40.5 166 410
4 乳癌 36.8 7 19
5 急性骨髄性白血病 31.6 91 288
6 急性リンパ性白血病 29.8 45 151
7 急性骨髄単球性白血病 27.5 11 40
8 その他 26.6 33 124
9 慢性骨髄性白血病 26.2 22 84
10 急性単球性白血病 25.0 7 28

 

DICの疫学調査は、厚労省研究班によって平成4年度および平成10年度に全国レベルの調査が行われています。


・松田保ほか: DICの原因疾患に関するアンケート調査の結果について。厚生省特定疾患血液凝固異常症調査研究班平成4年度業績報告書 p17-23, 1993.

・中川雅夫:本邦における播種性血管内凝固(DIC)の発症頻度・原因疾患に関する調査報告。厚生省特定疾患血液系疾患調査研究班血液凝固異常症分科会平成10年度研究業績報告書 p57-64, 1999.


その後は、今のところ日本における疫学調査は行われていませんが、10年以上経過してDIC臨床の環境が大きく変貌していますので、そろそろ全国レベルの疫学調査を行いたいところです。

平成10年度の疫学調査によりますと、内科領域においてDICを生じやすい疾患として絶対数が多いのは、敗血症、非ホジキンリンパ腫(NHL)、肝細胞癌、急性骨髄性白血病(AML)、肺癌の順となっています。
上位10位内に、悪性疾患が7疾患含まれていることになります。


また、DIC発症頻度の高い疾患としては、急性前骨髄球性白血病(APL)、劇症肝炎、敗血症、乳癌、AMLの順となっています。
やはり、上位10位内に、悪性疾患が7疾患含まれていることになります。


外科領域においても、DICを生じやすい疾患として絶対数が多いのは、敗血症、結腸癌、胃癌、胆管癌、ショックの順となっています。上位10位内に、悪性腫瘍(固形癌)が6疾患含まれています。

このように、内科領域、外科領域のいずれにおいてもDIC基礎疾患としての悪性腫瘍は極めて大きな位置を占めています。

悪性腫瘍(固形癌、造血器悪性腫瘍)の診療に際しては、DICの診療を避けて通ることができないと言うことができると思います。

 

(続く)

悪性腫瘍に合併したDICの発症機序

 

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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 06:46 | DIC | コメント(0)

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