症例から学ぶ播種性血管内凝固症候群(DIC)(インデックス)
症例から学ぶ播種性血管内凝固症候群(DIC)
<インデックス>
1)症例1の提示
7)症例2の提示
8)症例2の臨床経過
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症例(2)
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<線溶亢進型DICの治療>
メシル酸ナファモスタットとメシル酸ガベキサート
線溶亢進型DICに対しては、メシル酸ナファモスタット(商品名:フサンなど)が有効です。
本薬は抗プラスミン作用を合わせ持った抗トロンビン薬であり、線溶亢進型DICには極めて相性の良い薬物です。
一方、メシル酸ガベキサート(商品名:FOYなど)は臨床用量では、抗線溶効果はマイルドであり、線溶亢進型DICには無力です。
両薬の薬効の違いを理解しておきたいところです。
へパリン類&トラネキサム酸併用療法
この治療法は、「諸刃の剣」治療ということができます。
線溶亢進型DICに対しては、へパリン類&トラネキサム酸併用療法も極めて有効であり致命的な出血に対しても著効しますが、線溶亢進型DICの診断を確実にすべきです。
病型分類に自信をもてない場合には行ってはいけない治療です(全身性血栓症による突然死の報告があります)。
必ず専門家にコンサルトすべきです。
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症例(2)
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<FDPとD-ダイマーの乖離現象>
本症例では、血中FDPとDダイマーは上昇していますが、両者の間に乖離現象があるために、FDP/Dダイマー比は上昇しています(Dダイマー/FDP比は低下しています)。
線溶活性化が高度であるためにフィブリン分解のみならず、フィブリノゲン分解が進行していると推測されます。
つまり、フィブリノゲンの低下は消費性凝固障害のみでなくフィブリノゲン分解も加味されているものと考えられます。
線溶活性化の評価のためには、PIC、α2PIの測定が不可欠ですが、必ずしもこれらのマーカーが即日結果がそろう医療機関ばかりとは限りません。
そのような場合には、フィブリノゲン低下、FDP著増所見に加えて、FDPとD-ダイマーの乖離現象を評価することで、線溶亢進型DICと推測することが可能です(FDP著増は大前提)。
なお念のためですが、線溶亢進型DICの診断のためには、FDP著増は大前提です。FDP/Dダイマー比の上昇があっても、FDPが著増していなければ、線溶亢進型DICではありません。
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症例(2)
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<DICの出血症状の原因>
本例では、血小板数は数万レベルに低下していますが、この程度ではここまでも高度な出血の原因にはなりません。
例えば、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)症例では、血小板数は数万程度であればまず出血はないために、ステロイド治療を行うことはなく経過観察しています。
血小板数低下に加えて血中FDP&Dダイマーは明らかに上昇しており、フィブリノゲンは低下、凝固活性化マーカーであるトロンビン-アンチトロンビン複合体(TAT)は著増しています。
消費性凝固障害を伴った播種性血管内凝固症候群(DIC)の診断は容易です。
さらに、治療方針を決定するためにはDICの病型分類が重要です。
実際、線溶活性化マーカーであるプラスミン-α2プラスミンインヒビター複合体(PIC)は著増しています。
線溶活性化が高度なことで有名な急性前骨髄球性白血病(APL)の平均レベルが10μg/mL程度ですから、本例ではAPLを凌駕するような線溶活性化です。
α2プラスミンインヒビター(α2PI)10%と際立った低下をきたしていますが、α2PIが大量に形成されたプラスミンと1対1結合するために消費されていると考えられます。
プラスミノゲンもプラスミンへの転換が進行しているために、半減しています。
典型的な線溶亢進型DICです。
DICにおける高度な出血は、血小板数の低下よりも線溶活性化の程度、特にα2PIの低下と密接に関連しています。
PICは線溶活性化を反映する重要なマーカーですが、PICを測定するようなDIC症例では、必ずα2PIもチェックしたいところです。
線溶亢進型DICでは、肝予備能の低下がなければアンチトロンビン(AT)の低下がみられない点も特徴です。
この点は、敗血症に合併したDICでATが低下しやすいのと対照的です。
なお、線溶亢進型DICの典型例では、AT、プラスミノゲン、α2PIが、それぞれ90%、60%、30%程度になることが多いです。
ATが低下していても、それはDICのためではなく肝予備能低下など他の要素を反映しています。
本症例ではATは約70%となっているためAT、プラスミノゲン、α2PI に+20%補正すると、偶然ではありますが上記の各%に近い数字となります。
<ポイント>
・ DICにおける出血症状の重症度は、血小板数低下よりも、線溶活性化と関連しています。
特に、PICの上昇を伴うα2PI著減例は要注意です。
・ 線溶亢進型DICを疑う症例では、PICのみでなくα2PIも測定すべきです(当然TATも測定します)。
・ 線溶亢進型DICではAT活性は低下しないことが多いです。
もし低下していれば、それはDICのためではなく、肝予備能低下などの他要素のためです。
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症例(2)
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<臨床経過>
本症例は残念ながら生前診断されることなく剖検診断となった症例です。
右肺動脈原発平滑筋肉腫の症例でした。
基礎疾患の治療はなされなかったため経過を通して基礎疾患は次第に悪化した症例ですが、DICは軽快した点を強調したいと思います。
線溶亢進型DICに対しては抗プラスミン作用(抗線溶作用)も強力な合成プロテアーゼインヒビターであるメシル酸ナファモスタット(フサン®)が相性の良い薬剤です。
本症例でも、フサン投与により速やかに、TAT、PICは低下して、α2PIは1〜2日レベルで回復しました。
FDP、Dダイマーも奇麗に低下しています。
血小板数の回復はみられない線溶亢進型DICは、しばしば経験されます。
線溶亢進型DICでは治療によって血小板数が不変であってもDICは軽快していないと誤判断しないようにしたいところです。
入院時にみられていた著明な出血症状は翌日にはほとんど消失していました。
メシル酸ナファモスタットの劇的な臨床効果を実感できた症例です。
フサン投与中は高K血症の副作用には注意する必要があります。
なお、メシル酸ガベキサート(FOY®)にはフサンに見られるような強力な抗線溶効果はみられず、線溶亢進型DICには無効です。
11月に入りフサンの効果に限界が見られるようになったために、へパリン&トラネキサム酸(トランサミン®)併用療法に切り替えたところ、DICは再度コントロールされました。
当時はへパリン&トラネキサム酸併用療法の症例経験が現在よりも遥かに乏しかったために、へパリン類5,000単位/24時間、トラネキサム酸3g/24時間の用量で開始になっていますが、現在であればへパリン類10,000単位/24時間、トラネキサム酸1.5g/24時間から開始したのではないかと思われます。
本症例は途中で上大静脈症候群を合併したために、へパリン増量、トラネキサム酸減量がなされていますが、現在の考え方ではへパリンはもっと高用量であっても良かったと考えられます。
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症例(2)
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患者:70歳代、男性
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症例(1)
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<DICの病型分類>
DICの病型分類を行うことによって、DICの早期診断につながるばかりでなく、より適切なDIC治療薬を選択することが可能です。
・朝倉英策:播種性血管内凝固症候群(DIC)。臨床に直結する血栓止血学(朝倉英策編)中外医学社、p168-178, 2013.
・朝倉英策:播種性血管内凝固症候群(DIC)。しみじみわかる血栓止血 vol.1 DIC・血液凝固検査編.中外医学社、p48-146, 2014.
・Asakura H: Classifying types of disseminated intravascular coagulation: clinical and animal models. J Intensive Care 2:20, 2014.
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症例(1)
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<治療効果判定上の注意点>
重症感染症に合併したDICにおいては、血小板数やFDP、D-ダイマーの推移のみで治療効果を判断しますと誤判断します。
治療効果判定の落とし穴といえるでしょう。
血中TATは、DIC診断のみならず治療効果の判断という観点からも優れたマーカーと言えます。
もしも本症例でTATの測定を行っていなければ治療が無効と誤判断して、治療法の変更など不適切な対応をしていたかも知れません。
血小板数の低下や、FDPおよびD-ダイマーの上昇もDICに特徴的な所見ではありますが、決してDICの本態を反映している訳ではありません。
DICの本態は、著しい凝固活性化であるため、治療効果の判定もTATやSFなどの凝固活性化マーカーで行うというのは、理にかなっています。
血中SFもTATと同じ位置付けになりますが、管理者らは最近TATとSFが乖離することが多々あることを実感しています。
TATが軽度上昇に留まるにも関わらず血中SFが著増する例は予後不良であり、逆にTATが明らかに上昇するにも関わらず血中SFが軽度上昇に留まる例は予後良好である印象を持っていますが、この点は今後の研究課題になりうると考えられます。
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症例(1)
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<アンチトロンビン(AT)活性測定上の注意点>
アルブミンは同じ分子量であるアンチトロンビン(AT)と併行して変動することが多く、DIC合併の有無にかかわらず血中アルブミンとAT活性は正相関します。
本症例ではAlb2.4 g/dLと低下していましたが、予想通りAT活性51%と低下していました。
DIC治療薬であるアンチトロンビン(AT)製剤の適応を考える上で、AT活性の結果をみることは不可欠ですが、必ずしもその日のうちに結果がでるとは限らない医療機関も少なくないと考えられます。
血中アルブミン濃度が著減している症例では、まず間違いなく血中AT活性も低下しているために、治療法を選択する際の参考にしたいところです。
もちろん、実際にAT活性を確認すべきであることは言うまでもありません。
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症例(1)
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<診断上の注意点>
重症感染症に合併したDICにおいては、FDP、D-ダイマーは軽度上昇にとどまり、フィブリノゲンは上昇することが多いです(診断上の落とし穴)。
本症例は、膀胱炎から急性腎盂腎炎(肋骨椎体角の叩打痛あり)にいたり、血液培養で大腸菌が検出されて敗血症から敗血症性ショックに至っています。
血小板数の低下がみられていますが、FDP&Dダイマーの上昇は軽度に留まり、フィブリノゲンは炎症反応のためむしろ上昇しています。
旧厚生省DIC診断基準では5点であり、DICの可能性少ないと判断されます。
しかし本当にそれでいいでしょうか。
旧厚生省DIC診断基準は、敗血症などの重症感染症に合併したDICに対しては感度が鈍いことが従来より指摘されています。
敗血症では線溶阻止因子であるプラスミノゲンアクチベータインヒビター(PAI)が著増するために線溶に強い抑制がかかることが知られています。
FDP&Dダイマーが軽度上昇に留まっているのも線溶抑制状態にあるためです。
実際、線溶活性化マーカーであるプラスミン-α2プラスミンインヒビター複合体(PIC)は、微増しているのみです。
凝固活性化マーカーであるトロンビン-アンチトロンビン複合体(TAT)が著増しているのとは対照的です。
本症例では敗血症という基礎疾患、そしてTATの著増がみられたために、旧厚生省DIC診断基準は満たしていませんでしたが、DICと考えて対処しました。
TATのデータなしにはDIC診断は不可能だったでしょう。
なお、この症例時代は可溶性フィブリン(SF)が測定できませんでしたが、今日であればTATのみならずSFも測定してDIC診断にさらに自信をつけたいところです。
保険診療上もTATとSFの同時測定が認められています(FMCとの同時測定は認められていません)。
→
・ 敗血症などの重症感染症の場合には、FDP&Dダイマーを重要視するとDIC診断が遅れる場合が多いです。
・ 敗血症などの重症感染症の場合には、フィブリノゲンは炎症反応で上昇するため、DIC診断に無力です。
・ TAT、SFは、DICの診断に有用です。
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症例(1)
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<臨床経過>
臨床経過もふまえて、尿路感染症から、急性腎盂腎炎をきたし、さらに敗血症、ショックにまで至っている。
本症例に対して線溶抑制型DICの診断のもと、抗生剤とともに低分子へパリン(LMWH)とAT製剤による加療を開始した。
AT製剤投与のためにAT活性は上昇しているが、4病日までは血小板数はさらに低下し、FDPはさらに上昇した。
血小板数とFDPを見たのみではDICは悪化していると判断するのが適当かもしれない。
しかし、DICの本態である凝固活性化マーカーを評価するトロンビン-アンチトロンビン複合体(thrombin-antithrombin complex:TAT)が確実に低下していたために、この治療法は有効と考えて同治療を継続したところ、その後に血小板数は回復しFDPも低下した。
なお、この症例時代には、また遺伝子組換えトロンボモジュリン製剤が登場していなかったが、現在この症例に遭遇していたらトロンボモジュリン製剤を選択していたと思われる(AT製剤も併用したい)。
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症例(1)
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患者:60歳代、女性
主訴:悪寒
既往歴:特記事項なし。
家族歴:特記事項なし。
現病歴:
平成○年11月25日から頻尿、排尿時痛あり。
11月26日から、悪寒、左腰部痛、下痢が出現。
11月27日当院受診。
泌尿器科にて左尿管結石が指摘された。
収縮期血圧60mmHgとショック状態となり、血液検査にて異常所見がみられたため、当科に紹介、緊急入院となった。
入院時現症:
体温38.3℃、脈拍126/分、呼吸数24回/分、収縮期血圧60mmHg、左肋骨椎体角の叩打痛あり、出血症状なし。
入院時検査所見
血小板数が数万にまで低下している。
FDP&Dダイマーは上昇しているが軽度に留まっている。
強い炎症反応を反映してフィブリノゲンは上昇している。
腎障害がみられ、アルブミンは2.4g/dLにまで低下している(顕微鏡的血尿はあるが、その他の出血症状はみられていない)。
血液培養、尿培養では大腸菌が検出された。
アンチトロンビン活性は明らかに低下している。
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日本血栓止血学会DIC診断基準暫定案を考える:インデックス
1)背景
2)基本的考え方
3)基礎疾患
4)FDP/血小板
8)アルゴリズム
9)基礎疾患
10)鑑別疾患
11)新DIC基準
12)病型分類・病態評価
13)旧&新基準の相違点
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日本血栓止血学会DIC診断基準暫定案を考える(13)旧&新基準の相違点
日本血栓止血学会DIC診断基準暫定案を考える(インデックス)
詳細はこちら:http://www.jsth.org/committee/pdf/DIC_3.pdf
<新しいDIC診断基準> 旧&新基準の相違点
新基準(日本血栓止血学会DIC診断基準暫定案)では、アルゴリズムを用いて基礎病態により診断基準を使いわけることを明確にしました。
旧基準(旧厚生省DIC診断基準)においても白血病群、非白血病群でスコア法を変える工夫がなされていましたが、新基準では造血障害型のみならず感染症型でも診断基準を使い分けることを明確にしました。
造血障害型において血小板数をスコアから除く点については、旧基準の白血病群でも同様の配慮がなされていましたが、新基準ではさらに感染症でフィブリノゲンをスコアから除きました。
旧基準では基礎疾患と臨床症状でもスコアリングが行われていましたが、新しい基準では既述の理由により削除しました。
血小板数に関しては、旧基準では加点されなかった経時的減少が新基準では1点の加点項目としました。
ATに関しては、現時点では暫定的にATを組込んだ診断基準として、今後多施設での検証作業を実施することとされました。
凝固線溶系分子マーカーが、診断基準に組込まれました。
分子マーカーが組込まれた診断基準は世界的にも斬新なものです。
旧基準においても肝硬変および肝硬変に近い病態の慢性肝炎では3点減ずることになっていますが、臨床現場では必ずしも適切に行われているとは限らず、DIC誤診の原因の一つになっていました。
新基準ではこのような背景のもと、従来適用されなかった劇症肝炎症例も念頭に、肝不全で3点減じることを診断基準の表の中に組込みました。
<総括>
DIC診断基準は、患者の治療や予後に直結するために極めて重要な意義を有しています。
これまで我が国では、旧厚生省DIC診断基準が頻用されてきましたが、感染症に起因するDICの診断には感度が悪いなど多くの問題点が指摘されてきました。
急性期DIC診断基準は、感染症に合併したDICの診断には威力を発揮しますが、全ての基礎疾患に対して適応できません。
この度、「日本血栓止血学会DIC診断基準暫定案」が発表されました。
http://www.jsth.org/committee/pdf/DIC_3.pdf
この基準は、基礎疾患で診断基準を使い分けること、分子マーカーやアンチトロンビンが診断基準に組込まれていること、誤診対策がなされているなど優れた点が多く、今後の展開が期待されます。
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日本血栓止血学会DIC診断基準暫定案を考える(12)病型分類・病態評価
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詳細はこちら:http://www.jsth.org/committee/pdf/DIC_3.pdf
<新しいDIC診断基準>
DIC診断に関連するその他の検査と意義:
DICの診断がなされた後に、DICの病型分類、病態評価を行う上での有用なマーカーを表4に列記しました。
表4 DIC診断に関連するその他の検査と意義
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日本血栓止血学会DIC診断基準暫定案を考える(11)新DIC基準
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詳細はこちら:http://www.jsth.org/committee/pdf/DIC_3.pdf
<新しいDIC診断基準> 新基準
表3 日本血栓止血学会DIC診断基準暫定案
アルゴリズムによってどの診断基準を適用するか決定された後に、表3を用いてDICの診断を行います。
基本型では、血小板数、FDP、フィブリノゲン、プロトロンビン時間比、AT活性、凝固活性化関連分子マーカー(TAT、SF ないしは F1+2上昇)の結果を用いてスコアリングを行います。
造血障害型では血小板数をスコアリングしないことを明示しており、感染症型ではフィブリノゲンをスコアリングしません。
肝不全では3点減じることを表中でも明記してあります。
AT活性は旧基準では採用されていなかった検査項目ですが、新たに採用されています。
AT活性が70%以下であれば1点のスコアを与えます。
凝固線溶系分子マーカーも旧厚生省DIC診断基準(旧基準)では、スコアリング項目としては採用されていなかった検査項目ですが、新基準において新たに採用されました。
基準範囲上限の2倍以上でれば1点を与えています。
肝不全に関しては、急性肝不全と慢性肝不全を含んでいます。
急性肝不全は、厚生労働省難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究班が「劇症肝炎」に代わる新しい「急性肝不全」の診断基準を作成しているので、それを採用しています。
日本血栓止血学会DIC診断基準暫定案を考える(10)鑑別疾患
日本血栓止血学会DIC診断基準暫定案を考える(インデックス)
詳細はこちら:http://www.jsth.org/committee/pdf/DIC_3.pdf
<新しいDIC診断基準> 鑑別すべき代表的疾患・病態
DICとの鑑別が必要となる代表的疾患・病態を表2に記載しました。
ただし、表2に示された疾患にDICを合併することもあるために注意が必要です。
表2 鑑別すべき代表的疾患・病態
血小板数低下
1. 血小板破壊や凝集の亢進
・ 血栓性微小血管障害症(TMA):血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)、溶血性尿毒症症候群(HUS)、HELLP症候群、造血幹細胞移植後TMA
・ ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)
・ 特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、全身性エリテマトーデス(SLE)、抗リン脂質抗体症候群(APS)
・ 体外循環 など
2. 骨髄抑制/骨髄不全をきたす病態
・ 造血器悪性腫瘍(急性白血病、慢性骨髄性白血病の急性転化、骨髄異形成症候群、多発性骨髄腫、悪性リンパ腫の骨髄浸潤など)
・ 血球貪食症候群
・ 固形癌(骨髄浸潤あり)
・ 骨髄抑制を伴う化学療法あるいは放射線療法中
・ 薬物に伴う骨髄抑制
・ 一部のウイルス感染症
・ 造血器悪性腫瘍以外の一部の血液疾患(再生不良性貧血、発作性夜間血色素尿症、巨赤芽球性貧血など)
3. 肝不全、肝硬変、脾機能亢進症
4. 敗血症
5. Bernard-Soulier症候群、MYH9異常症(May-Hegglin異常症など)、Wiskott-Aldrich症候群
6. 希釈
・ 大量出血
・ 大量輸血、大量輸液
・ 妊娠性血小板減少症 など
7. 偽性血小板減少症
FDP上昇
1. 血栓症:深部静脈血栓症、肺塞栓症など
2. 大量胸水、大量腹水
3. 大血腫
4. 線溶療法
フィブリノゲン低下
1. 先天性無フィブリノゲン血症、先天性低フィブリノゲン血症、フィブリノゲン異常症
2. 肝不全、低栄養状態
3. 薬物性:L-アスパラギナーゼ、副腎皮質ステロイド、線溶療法
4. 偽低下:抗トロンビン作用のある薬剤(ダビガトランなど)投与時
プロトロンビン時間延長
1. ビタミンK欠乏症、ワルファリン内服
2. 肝不全、低栄養状態
3. 外因系凝固因子の欠乏症またはインヒビター
4. 新規経口抗凝固薬内服
5. 偽延長:採血量不十分、抗凝固剤混入
アンチトロンビン活性低下
1. 肝不全、低栄養状態
2. 炎症による血管外漏出(敗血症など)
3. 顆粒球エラスターゼによる分解(敗血症など)
4. 先天性アンチトロンビン欠乏症
5. 薬物性:L-アスパラギナーゼなど
TAT、SF または F1+2上昇
1. 血栓症:深部静脈血栓症、肺塞栓症など
2. 心房細動の一部
注)ただし、上記疾患にDICを合併することもある。
日本血栓止血学会DIC診断基準暫定案を考える(9)基礎疾患
日本血栓止血学会DIC診断基準暫定案を考える(インデックス)
詳細はこちら:http://www.jsth.org/committee/pdf/DIC_3.pdf
<新しいDIC診断基準> DICの基礎疾患
代表的な基礎疾患を表1に示しています。
新基準は産科・新生児領域の疾患に適用しないために、表1には示していません。
表1 DICの基礎疾患
1. 感染症
・ 敗血症
・ その他の重症感染症(呼吸器、尿路、胆道系など)
2. 造血器悪性腫瘍
・ 急性前骨髄球性白血病(APL)
・ その他の急性白血病
・ 悪性リンパ腫
・ その他の造血器悪性腫瘍
3. 固形癌(通常は転移を伴った進行癌)
4. 組織損傷:外傷、熱傷、熱中症、横紋筋融解
5. 手術後
6. 血管関連疾患
・ 胸部および腹部大動脈瘤
・ 巨大血管腫
・ 血管関連腫瘍
・ 膠原病(血管炎合併例)
・ その他の血管関連疾患
7. 肝障害:劇症肝炎、急性肝炎、肝硬変
8. 急性膵炎
9. ショック
10. 溶血、血液型不適合輸血
11. 蛇咬傷
12. 低体温
13. その他
注)
産科領域、新生児領域において、それぞれ特徴的なDICの基礎疾患があるが、両者とも本診断基準を適用しないので、ここには示していない。
日本血栓止血学会DIC診断基準暫定案を考える(8)アルゴリズム
日本血栓止血学会DIC診断基準暫定案を考える(インデックス)
詳細はこちら:http://www.jsth.org/committee/pdf/DIC_3.pdf
<新しいDIC診断基準>アルゴリズム
新基準を紹介したいところが、このシリーズでは全体を紹介できません。
詳細は、是非とも血栓止血誌を参照していただければと思います。
http://www.jsth.org/committee/pdf/DIC_3.pdf
DIC診断基準適用のアルゴリズム
DICを疑った時点でこのアルゴリズムに従います。
新基準は、産科、新生児には適用しないために、これをアルゴリズムの最初のステップで示されています。
造血障害、すなわち骨髄抑制・骨髄不全・末梢循環における血小板破壊や凝集など、DIC以外にも血小板数低下の原因が存在すると判断される場合には、血小板数を用いてDICの診断をすることができませんので、「造血障害型」の診断基準を使用します。
造血障害が存在しない場合には、感染症の有無を判断します。
感染症があれば、「感染症型」の診断基準を適用します。
造血障害および感染症がともになければ、「基本型」の診断基準を使用します。
基礎病態を特定できない場合は基本型を使用します。
また、固形癌に感染症を合併した場合など、DICをきたし得る基礎疾患が複数存在するような場合には「基本型」を用います。
日本血栓止血学会DIC診断基準暫定案を考える(インデックス)
<リンク>
血液凝固検査入門(図解シリーズ)へ
播種性血管内凝固症候群(DIC)(図解シリーズ)へ
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日本血栓止血学会DIC診断基準暫定案を考える(7)産科・小児科・肝不全
日本血栓止血学会DIC診断基準暫定案を考える(インデックス)
詳細はこちら:http://www.jsth.org/committee/pdf/DIC_3.pdf
産科では、現在産科DICスコアが使用されています。
産科DICは極めて急激な経過をとるため、基礎疾患と臨床症状で速やかに診断して治療する必要があります。
早期に治療開始を可能にするこの産科DICスコアは極めて有用で、わが国では広く使用されています(日本産婦人科・新生児血液学会 http://www.jsognh.jp/dic/)。
また、正常妊娠であっても、FDP、D-ダイマー、TAT、SF、F1+2などのDIC関連マーカーは上昇するために、これらのマーカーが高値であったとしてもDICとは言えません。
新生児の凝固・線溶活性は成人と大きく異なります。
また、凝固活性化関連マーカーは、採血が困難な症例(小児など)では試験管内凝固により偽高値になりやすいです(誤診につながります)。
旧基準では、肝不全によりPT延長、フィブリノゲン低下、血小板数低下、肝不全にさらに大量腹水を有するとFDPやD-ダイマーも上昇するような症例が誤診されやすかったと考えられます。
肝不全症例が誤診されない工夫が必要性です。
日本血栓止血学会DIC診断基準暫定案を考える(インデックス)
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