悪性腫瘍(癌)とDIC:線溶亢進型DICの診断指針
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【線溶亢進型DICの診断指針】
線溶亢進型DICにおいては、出血症状が特に著しくてコントロールに苦慮する場合には、DICに対して通常禁忌とされている抗線溶療法(トラネキサム酸、商品名:トランサミン)が適応となりうる場合がありますので(必ずヘパリン類の併用下に)、適応を誤らないためにも明確な定義が必要と考えられます。
Ontachi Y, Asakura H, Nakao S: Effect of combined therapy of danaparoid sodium and tranexamic acid on chronic disseminated intravascular coagulation associated with abdominal aortic aneurysm. Circ J 69: 1150-1153, 2005.
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線溶亢進型DICにおいては、出血症状が重症であり、特に、脳出血、肺出血、吐・下血、手術部位・創部からの大量出血などの致命的出血をきたす可能性があります。また、このタイプのDICにおいては、血小板数の低下がそれほど高度でなくても(このため臨床家の注意が充分でない場合がありえます)、致命的な出血をきたす可能性がある点で注意が必要です。
上記に線溶亢進型DICの病態診断を行うための指針を記載しています。
TATおよびPICは、線溶亢進型DICの代表的基礎疾患であるAPLの平均的な値(以上)が採用されています。
著しい線溶活性化に伴い、FDPは著増しますが(同じくAPLの平均的な値以上)、フィブリノゲン分解(fibrinogenolysis)も進行するためフィブリン分解産物のみを反映するD-dimerとの間に乖離現象を生じます。そのため、FDP/D-dimer比は大きくなります(D-dimer/FDP比は小さくなります)。フィブリノゲン分解および消費性凝固障害の両者の影響によりフィブリノゲンは著減します。
線溶亢進型DICにおける出血症状は、消費性凝固障害よりもむしろ著明な線溶活性化に伴う止血血栓の溶解の要素が大きいと考えられますが、血小板数低下が進行しているとさらに出血症状は重症化しやすいです。過剰なプラスミン形成に伴い、α2PIはしばしば著減します。
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