金沢大学・血液内科・呼吸器内科
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2008年10月05日

DICの治療(急性白血病などの造血器悪性腫瘍):APL、ATRAほか。

【はじめに】
DICの治療としては、重要な順番に、基礎疾患の治療、抗凝固療法、補充療法、抗線溶療法が挙げられます。この優先順位は、造血器悪性腫瘍に限らず全ての基礎疾患に合併したDICに共通しています。

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【基礎疾患の治療】
基礎疾患の治療は、急性前骨髄球性白血病(acute promyelocytic leukemia:APL)の場合には、ビタミンA誘導体であるall-trans retinoic acid(ATRA)を使用します。ATRAの素晴らしいところは、APLを分化誘導させるのみならず、APLに合併したDICをも劇的に改善させるところです。APLの分化誘導に成功するためには1〜2ヶ月を要しますが、DICは翌日にも軽快することが少なくありません。APLに対するATRA療法は、DIC治療を兼ねていることになります(参考記事 ← クリック)。

その他の造血器悪性腫瘍の場合は、通常多剤併用による化学療法を行います。造血器腫瘍細胞の急激な破壊とともに、DICは一過性に悪化することが多いですが、この時期を上手に乗り切ることに成功すれば、腫瘍細胞の減少とともに速やかにDICから離脱することが多いのが特徴です。このDICの一過性悪化の時期にDICに伴う致命的な出血(脳出血など)を阻止することが、造血器悪性腫瘍に合併したDIC治療の最重要ポイントになります。

ただし、化学療法に抵抗性の場合にはDICからの離脱が困難な場合があります。また、DICが再燃してくる場合には、基礎疾患も再燃していることが多いため、そのような視点での経過観察が必要となります。


【造血器悪性腫瘍合併DICに対する抗凝固療法】
抗凝固療法は、敗血症に合併したDICの場合には、アンチトロンビン濃縮製剤(商品名:アンスロビンP、ノイアート、ノンスロン)とヘパリン類(ダナパロイドナトリウム、低分子ヘパリン、未分画ヘパリン)の併用が中心的治療法になるのに対して、造血器悪性腫瘍の場合は出血傾向が高度なことが多く、ヘパリン類を使用しがたい場合が多い点に特殊性があります。

管理人らは、造血器悪性腫瘍に合併したDICのように線溶活性化が高度なDIC(線溶亢進型DIC)に対しては、メシル酸ナファモスタット(商品名:フサン)を用いてDICの良好なコントロールが得られる症例を蓄積しています。フサンは、凝固活性化に対してのみならず線溶活性化に対しても抑制効果が強く、線溶活性化が高度なタイプのDICに対しては、極めて相性の良い薬剤なのです。ただし、高K血症の副作用には注意が必要です。

加えて、今後は、遺伝子組換えトロンボモジュリン製剤rTM)(商品名:リコモジュリン)に対しても期待が高まっています。リコモジュリンは、造血器悪性腫瘍および重症感染症を基礎疾患としたDICに対して、従来と比較して極めて質の高い臨床試験が行われており、優れた有用性が報告されています(参考文献 ← クリック)。特に、リコモジュリンはヘパリンと同等以上の効果を有しているにもかかわらず、出血の副作用がヘパリンよりも少ない点が注目されています。

リコモジュリンは、直接的な抗トロンビン効果ではなく、生体内で生じたトロンビン・トロンボモジュリン複合体がプロテインC(PC)を活性型PC(APC)に転換させることによるAPCの抗凝固活性を期待した薬物濃度の設定になっています。すなわち、生体内で過剰なトロンビンが形成されている間(凝固活性化を抑制したい間)は抗凝固活性を発揮しますが、トロンビン形成がなくなりますと(凝固活性化を抑制する必要がなくなりますと)効果を発揮しなくなることになります。そのため、本当に必要な時のみ効果を発揮する点が、出血の副作用が少ない理由ではないかと考えられます。リコモジュリンには抗炎症効果も期待されており、重症感染症〜造血器悪性腫瘍にわたって多くの基礎疾患に合併したDICに対して有用ではないかと期待されています。

なお蛇足ながら、造血器悪性腫瘍ではなく敗血症に合併したDICに対しては、アンチトロンビン濃縮製剤リコモジュリンの併用療法が、最強療法になるのではないかと管理人らは思っています。


【造血器悪性腫瘍合併DICに対する補充療法】

補充療法としては、濃厚血小板(血小板の補充)や新鮮凍結血漿(凝固因子の補充)の輸注が必要になることがあります。

特に、造血器悪性腫瘍に合併したDICにおいてはDICのコントロールを行っても血小板数の回復は期待できないことが多く(現疾患による血小板産生低下のため)、濃厚血小板の輸注はしばしば必要となります。通常、血小板数2〜3万以上を維持できるように適宜輸注します。


【造血器悪性腫瘍合併DICに対する抗線溶療法】
抗線溶療法はDICに対して原則禁忌です。

ただし、線溶活性化が極めて高度であり、出血症状が重症である場合には、ヘパリン類との併用下に抗線溶療法(トラネキサム酸)を行いますと、出血症状に対して著効することがあります。ただし、使用方法を間違えますと致命的な血栓症を誘発するため、専門家にコンサルトできない場合には安易に行う治療ではないと思われます。

なお、APLに対してATRA療法を行っている場合には、抗線溶療法は絶対禁忌です(参考記事 ← クリック)。

 

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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 18:53| DIC | コメント(0)

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