金沢大学・血液内科・呼吸器内科
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2008年10月07日

多発性骨髄腫と静脈血栓塞栓症:サリドマイド、レナリドマイド


多発性骨髄腫は、M蛋白が上昇するため血液粘度が上昇し、易血栓状態になるものと指摘されてきましたが、それ以外にも血栓傾向となる機序がいくつか指摘されています。
M蛋白の向凝固作用やフィブリン構造への干渉、活性化プロテインC抵抗性、血管内皮障害、炎症性サイトカイン産生亢進による凝固活性化、von Willebrand因子の上昇、プロテインS活性の低下などが指摘されています。

多発性骨髄腫症例での静脈血栓塞栓症(深部静脈血栓症 DVT&肺塞栓 PE)の発症頻度は、報告によって幅はあるものの3〜10%とされています。ただし、これらは海外での報告であり、本邦での発症頻度はこの数字と同じかどうかは不明です。

近年、多発性骨髄腫に対して血管新生抑制作用も期待されているサリドマイド(thalidomideやその誘導体であるレナリドマイドが投与されることが多くなりました(ただし日本では、従来は保険適応外でした)。

 これらの薬剤は、単独で用いた場合には血栓症の発症を増加させることはありませんが、デキサメタゾンやアントラサイクリン系薬剤など他の薬剤を併用することで、静脈血栓塞栓症の頻度を有意に増加させることが知られています。 

この傾向は、特に新規診断症例において顕著となっています。

その他にも、サリドマイドおよび誘導体治療関連の静脈血栓塞栓症発症リスクを高めるのではないかと現在考えられている要因として以下が知られています。

1.    初回治療であること。
2.    サリドマイドが高用量であること。
3.    デキサメタゾンが高用量であること。
4.    アントラサイクリン系薬物が併用されていること。
5.    エリスロポエチン製剤の使用。
6.    一般的な血栓症の危険因子を有していること(血栓症の既往、経口避妊薬の内服、Factor V Leiden、寝たきりなど)。

なお、活性化プロテインC抵抗性に関しては、先天性Factor V Leiden(欧米で多い血栓性素因:日本人では報告なし)ではなく、多発性骨髄腫に一過性に合併する後天性のものが報告されています(約10%の症例で出現)。
この活性化プロテインC抵抗性の合併した症例に対して、サリドマイドを含む治療を行うと、静脈血栓塞栓症の発症頻度は、12%から66%に上昇するという報告が見られています。多発性骨髄腫における活性化プロテインC抵抗性の機序としては、プロテインCに対する自己抗体産生の可能性を指摘する報告も見られています。

多発性骨髄腫に対して他剤(デキサメタゾンやアントラサイクリン系薬剤など)とともにサリドマイド(および誘導体)を投与して血栓症を誘発しやすくなる理由ついては不明な点が多く、なお検討すべき課題と考えられます。

上記のような治療を行う多発性骨髄腫症例に対しては(血栓症発症のリスクがあると考えられる症例に対しては)、抗血栓療法により予防すべきという考え方がありますが、日本人における予防治療指針はありません。

管理人は、少なくともリスクの高い場合には、何らかの抗血栓療法を行ってはどうかと考えています。この場合、化学療法にともなって食事摂取量が大きく変動しやすかったり、抗生剤が必要となったりする時期には、ワーファリンコントロールよりもヘパリン(カプロシンなど)の方がコントロールしやすいかも知れません。


参考文献
1)    Semin Thromb Hemost 2003; 29:275-82.
2)    Haematologica 2007; 92: 279-80.
3)    Cancer 2004; 101: 558-66.
4)    Lancet 2007; 370(9594): 1209-18.
5)    Leukemia 2008; 22: 414-23.
6)    Thromb Haemost 2008; 99: 1001-7.
7)    Thromb J 2006; 4: 11.
8)    Br J Haematol 2006; 134:399-405.
9)    Ann Hematol 2004; 83:588-91.
10)    J Thromb Haemost 2004; 2:327-34.
11)    J Thromb Haemost 2003; 1: 445-9.

 

 

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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 05:12| 血栓性疾患 | コメント(0) | トラックバック(0)

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