金沢大学・血液内科・呼吸器内科
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2008年10月08日

急性期DIC診断基準 vs. 旧厚生省(厚労省)DIC診断基準

【はじめに】
播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation: DIC)は、基礎疾患の存在下に持続性の著しい凝固活性化をきたし、全身の主として細小血管内に微小血栓が多発する重篤な病態です。
旧厚生省研究班疫学調査によりますと、DICの死亡率は60%程度と報告されており、予後改善のためにも適切な診断の意義は大きいと考えられます。

下記もご参照(クリック)いただければ幸いです。

播種性血管内凝固症候群(DIC)(図解)

 

【旧厚生省(厚労省)DIC診断基準】(長所と短所)

我が国では、旧厚生省(厚労省)DIC診断基準が現在まで長年にわたって使用されています。今も日本で最も頻用されている診断基準です(NETセミナー:表1)。

● 長所:
典型的なDICで見られる臨床所見・検査所見を列挙し、スコアリングすることで客観的にDICを診断するのが長所です。
用いられている項目は、1)基礎疾患の存在、2)臨床症状(出血症状・臓器症状)、3)FDP、4)血小板数、5)フィブリノゲン、6)プロトロンビン時間(PT)です。

● 短所:
臨床症状が出ないとDICと診断されにくいことです。
また、特に感染症に合併したDICではフィブリノゲン低下がまず見られないこと、PTはDICよりも肝予備能低下やビタミンK欠乏症の要素で延長することが少なくないことなども問題点と考えられます。
このため、DIC早期診断には不向きとの指摘が多いです。


【急性期DIC診断基準】
(長所と短所)


● 長所:
急性期DIC診断基準には、いくつかの特徴があります(NETセミナー:表1)。
まず血小板数において、経時的な要素を取り入れた点です。経時的要素を取り入れたDIC診断基準はこの基準が世界初です。
また、救急領域で遭遇しやすい敗血症に合併したDIC(線溶抑制型DIC:FDP上昇が軽度にとどまることが多い)を想定し、FDPが軽度上昇であっても高スコアを得られるようにしている点も特徴です。このため、感染症に合併したDICの診断には威力を発揮します。

● 短所:
急性期DIC診断基準は白血病群には適応できません。
また、SIRSの概念は救急領域では浸透しているものの内科領域ではなじみにくいこと、感度上昇を求めた反面として特異度が低下している懸念があることは短所と考えられています。
また、前述のようにPTは、DICの要素よりも、肝不全(肝予備能低下)やビタミンK欠乏症の要素で変動することが少なくありません。PTはDICの診断には不要ではないかという指摘があります。



【理想的なDIC診断基準へ】

 既存の全DIC診断基準に共通の問題点があります。それは、DICの本態は著しい凝固活性化ですが、これを評価するマーカーが含まれていないことです。 
この点、TATなどの凝固活性化をみる分子マーカーを診断基準に組み込みたいところです。
また、線溶活性化の程度がDIC病態に大きな影響を与えるため、何らかの形でPICなどの線溶活性化マーカーを取り入れたいところです。

管理人らの私見ですが、たとえば急性期DIC診断基準からSIRS項目を割愛し、PTに代わってTATなどの凝固活性化マーカーを組み込んではどうかと考えています。また、補助診断項目(DIC病型分類用)として、PICなどの線溶活性化マーカーを採用したいです。

診断基準は誰でもどこでも使用できる基準にすべきとの意見も一理あるのですが、むしろ有用な分子マーカーを積極的にDIC診断基準に取り込むことで、これらのマーカーの普及と医学レベルの向上につながるものと確信しています。
診断基準は誰でもどこでも使用できる基準にすべきという意見だけでは、100年経っても診断基準の発展はないのではないかと思っています。

 

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・NETセミナー:DICの病態・診断

・NETセミナー:DICの治療

ヘパリン類(フラグミン、クレキサン、オルガラン、アリクストラ)

ヘパリン類の種類と特徴(表)

低分子ヘパリン(フラグミン、クレキサン)

オルガラン(ダナパロイド )

投稿者:血液内科・呼吸器内科at 05:13| DIC | コメント(10) | トラックバック(0)

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◆この記事へのコメント:

DICの診断基準にAPTTがなぜ使われないのでしょうか。ご教示お願い致します。

投稿者:FA: at 2010/02/06 10:27

FA様、この度は重要なご質問をいただきありがとうございます。

これまでのDICの診断基準には、血小板数、FDP、フィブリノゲン、プロトロンビン時間(PT)などが組み込まれたものが多かったと思いますが、ご指摘の通り活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)は組み込まれていません。

管理人は以下のように理解しています。

進行したDICにおいては(特に肝不全合併例では)、APTTの延長がみられることがありますが、一部のDICではむしろAPTTが短縮いたします。活性型凝固因子の存在のためと考えられます。APTTでDICを診断しようとしますと、相当に進行した症例しかひっかけてこないと思います。

管理人はDIC診断基準に、PTも必用ないのではと思っていますが、APTTはもっと不要と考えています。

ただし、DICに対してヘパリン治療を行っている場合のモニタリングとして、APTT測定の意義がありますので、DIC時にAPTTの測定は不要ということではありませんので、念のため強調しておきたいと思います。DICの「診断」には、APTTは必用ないと考えています。

以上、分かる範囲内で書かせていただきましたが、回答になっていますでしょうか。

投稿者:血液・呼吸器内科: at 2010/02/08 11:53

早速にご回答いただき有難うございます。よろしければ、もう少し私の長年の疑問についてご教示お願い致します。(1)血液凝固が急速に亢進している状態では、APTTとPTがともに短縮することもありえると考えられるのですが、臨床現場ではそのようなことはないのでしょうか。このような凝固亢進状態において、ヘパリン類の効果がもっとも期待できるのではないでしょうか。(2)PTはINRによって標準化されていますので、デバイスや試薬の影響を相殺することができますが、APTTも標準化されているのでしょうか。

投稿者:FA: at 2010/02/18 10:53

FAさん、この度もご訪問ありがとうございます。

教科書的には、PTやAPTTの短縮には病的意義はないとしているものが多いと思います。

ただし、前回書かせていただいたようにDICの初期でAPTTが短縮することを経験することがあります。また、高脂血症でもAPTTが短縮することがあるようです。

PTに関しましては、APTTよりも秒数が短いこともあり、あまり短縮を経験することはないように感じています。

さて、APTTの短縮をもってヘパリン類の投与を行う件ですが、現時点では困難だと思います。たとえば、高脂血症でAPTTが短縮していてもヘパリン類やワルファリンを投与する訳にはいかないと思います。

APTTの標準化はご指摘の通り、今後の課題かも知れません。

充分な回答になっていないかも知れませんが、分かる範囲内で書かせていただきました。

投稿者:血液内科・呼吸器内科: at 2010/02/18 12:54

丁寧なご回答をいただき恐縮です。私の勉強不足を恥じるとともに、長年の疑問が氷解しましたこと、厚くお礼申し上げます。

投稿者:FA: at 2010/02/19 09:41

突然のコメントで、失礼いたします。
市中病院の口腔外科で歯科医師をしているものです。

抗血小板薬療法や抗凝固薬療法をされている患者さんの抜歯を多くしています。

抗凝固薬療法では、PT-INRなどの指標がありますが、抗血小板凝集薬を内服されている患者さんの指標はありますでしょうか?

出血時間では、患者さんの状態や検査方法で結果がまちまちであることや、それほど延長しないものと感じております。

血小板凝集能検査は、抗血小板剤の適応、治療効果を評価するときにも測定されると聞いておりますが、どのように判定するのでしょうか?

明らかな基準値がないため、判断が難しいと愚考しています。

また、口腔外科臨床に応用できますでしょうか?

ご多忙中恐れ入りますが、ご教示頂ければ、幸甚に存じます。

投稿者:TY: at 2010/03/10 23:23

TYさん、この度は御訪問いただきありがとうございます。

極めて核心をつかれたご質問と思います。
ご指摘の通り、抗凝固療法では、PT-INRなどの指標がありますが、抗血小板療法では充分な指標になるものがありません。

抗血小板療法の出血リスクのチェックの観点から、強いて指標を言いますと、出血時間と、血小板凝集能になるかと思います。

ただし、抜歯前の全患者さんで、出血時間と、血小板凝集能の検査を行うのは非現実的だと思います。加えて、血小板凝集能は手間のかかる検査でかつ赤字になってしまう検査でもあります。抜歯前の全患者さんで行うことは物理的にも困難と考えられます。

血小板凝集能検査が、抗血小板剤の適応、治療効果を評価するときに測定されることがあるのはご指摘の通りですが、上記のような事情もあり行っている施設は少ないのではないかと推測いたします。

以上、回答になっていないと思いますが、分かる範囲内で書かせていただきました。

投稿者:血液内科・呼吸器内科: at 2010/03/11 16:29

早速、御返答いただき、ありがとうございました。

当科でも、血小板凝集能検査が有意義であれば、行っていこうと考えておりましたが、今一度検討していきたい思います。

質問よろしいでしょうか?
バイアスピリンなどの抗血小板薬の服用量や期間で、止血困難を予想することは可能でしょうか?
また、先生方が処方される際に、血が止まりにくくなりそうだな?とお感じになられるこはありますでしょうか?

愚問で申し訳ありません。

よろしくお願い申し上げます。

投稿者:TY: at 2010/03/11 17:51

TYさん、この度も重要なご質問をいただきありがとうございます。

アスピリンなどの抗血小板薬の服用量や期間で、止血困難を予想することは可能かどうかですが、多分、個人差が相当に大きく予想困難ではないかと思います。

実際、アスピリン内服中の方の血小板凝集能を行いましても、凝集能の低下度には個人差が大変大きいように感じています。


アスピリン内服中であっても日常生活で血が止まりにくくなったと訴えられる患者さんはあまりおられません。時に、青あざが出易くなったと訴えられる場合はありますが。。。

ただし、日常生活での出血が無い場合でも、抜歯となれば話は別だと思います。出血量の増加は避けられないのではないかと思っているのですが、如何でしょうか。

なお、近年は歯科の先生から、アスピリン内服中であってもアスピリンは止めなくて良いですよと言っていただくことが多くなったように思います。

以上、お答えになっていないかも知れませんが、分かる範囲内で書かせていただきました。


投稿者:血液内科・呼吸器内科: at 2010/03/15 11:01

最近は、ワーファリンやアスピリンも中止せずに処置を行っております。

私の愚問におつきあいいただき、ありがとうございました。

また疑問に思うようなことがあれば、訪問させていただきます。

投稿者:TY: at 2010/03/16 00:22

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