アンチトロンビン(AT)とは? :DIC、AT濃縮製剤
ATIII (or AT)
正式名称:
アンチトロンビンIII(antithrombin III)_
近年は、IIIを割愛して、単にアンチトロンビン (antithrombin)と称することが多いです(アンチトロンビンは現在IIIのみのため)。
正常値:
100±30 %
意義:
ATは、プロテインCやプロテインSとともに、体内の重要な凝固阻止因子です。循環血中にも存在しますが、血管内皮上のヘパリン様物質にも結合しています。ATはヘパリンの作用により抗凝固活性が飛躍的に上昇するため、流血中のATよりも血管内皮に結合したATの方が重要な意義を有している可能性があります。
ATは肝臓で産生されるために、肝予備能が低下した場合にも血中AT濃度は低下します。
上昇する病態:
なし。
低下する病態:
1) DIC
2) 肝不全、肝硬変などの肝疾患
3) 先天性AT欠損症
関連マーカー:
全身性血栓性素因の精査として行う血液検査
1) アンチトロンビン
2) プロテインC
3) プロテインS
4) 抗カルジオリピン抗体、抗カルジオリピン-β2GPI複合体抗体
5) ループスアンチコアグラント
6) Lp(a)
7) ホモシステイン
臨床に役立つお役立ち情報:
DICにおいてATが低下する機序
1) 消費性凝固障害:トロンビン、Xaなどの活性型凝固因子との結合によりATが消費されます。
2) 肝不全の合併:特に敗血症に合併したDICにおいては肝不全を合併しやすいです。
3) 血管外への漏出:特に敗血症に合併したDICにおいては血管透過性が亢進して、ATが血管外に漏出しやすいと考えられています。
4) 酵素によるATの分解:特に敗血症に合併したDICにおいては、顆粒球エラスターゼによるATの分解が見られます。
従来、DICにおいてATが低下する機序としては、1)が強調されてきましたが、むしろ2)3)4)の要素の方が大きいと考えられます。
たとえば、急性白血病に合併したDICでは、著しい凝固活性化がみられてもATはほとんど低下しません(2、3、4の要素がないためと考えられます)。
また、ATは凝固活性化マーカーのTATとは全く相関しませんが、アルブミンとは強い相関が見られます(参考文献)。このことも、1)の要素よりも他の要素が大きいことを意味しています。
アンチトロンビン濃縮製剤(アンスロビンP、ノイアート、ノンスロン)
DICに対して、アンチトロンビン濃縮製剤を使用する場合、保険ではATの血中濃度70%以下での使用が認められています。ただし、この70%という数字には医学的根拠はなく、AT活性を正常以上に上昇させてはどうかという考え方があります(参考文献)。
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 09:33| 凝固検査 | コメント(0)